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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第二十三話 訓練

山賊を潰してから数日が経った。

ノアもルナも二人とも、食事の度におかわりをしていた成果なのか、出会う前より健康的な体型になった。

体力の方も体に見合うもの以上に充実してきた。

しかし、すぐに実践に参加させられるか、というとそうでもない。

ノアもルナも圧倒的に対人戦闘の経験が足らない。

二人とも魔物の相手はそれなりに経験があり、殺人の経験も得た。

しかし、無抵抗の相手を殺すのと戦闘で殺すのでまるで違う。

二人には殺人へのためらいはなかった。

寝込みなどを襲う暗殺なら二人でもできるであろう。


だが、私達の目的は人類の根絶である。

戦闘は、避けては通れない道である。

だから、私は二人に武器の間合いから、駆け引きなど戦闘での技能、知識をできる限り教えることにした。

私の持つ全ての知識、技能を一度に教えることも本当はできるのだが、その方法は私一人ではできないため今は実行することができない。

そのため、地道に二人を鍛えるしかないであるが——。


「『結晶の槍(クリスタル・ランス)』」

ノアの作り出した水晶の槍が、地面から私を貫こう迫ってきた。

しかし、私は一歩引き、持っていた直剣で下から伸びてきた水晶を一振りで粉々に粉砕した。

「もっと速く、硬度上げて」

「くっ……」

「もらったわ」


ノアの魔法を砕いた直後、木の上からルナがナイフ抜き奇襲を仕掛けてきた。

私はその攻撃を、あえて無視した。

そして、太ももから数本の投げナイフ取り出し、木の上と茂みに同時に投げた。

頭上には奇襲をしてきたルナが目前まで迫っていた。

ルナは私にナイフ振り下ろしたが、ナイフは私の身体をすり抜け、そのまま靄のように消えた。


「作戦は悪くなかったよ。でもまだまだだね。」


私は木と茂みに向かっていった。


「アリス強すぎ……」


茂みから弦の切れた弓と投げナイフ持ったノアが出てきた。


「あれ?ルナは?」

「ちょっと!私はここよ!早くナイフ抜いて降ろして」


声がする方を見ると、ルナが投げナイフで木に縫い留められていた。

私達はルナのいる木の下まで行き上を見た。


「白」

「白だね」


ルナは普段からスカートを着ており、戦闘用の服なんてものは当然持っていない。

先程まで行っていた戦闘訓練でもスカートを履いている。

なにを言いたいかと言えば、つまりスカートを下から除けば当然見えてしまうのである。

下着、そうパンツが丸見えなのである。


「こ、この見るな。変態、変態、変態」


ルナは必死に隠そうとするが体が木に縫い留められているためそれが上手くできない。


「ノアあの白猫ちゃんのナイフ抜いてきてあげて」

「わかった。おーい白パン猫、今行くから待ってて」

「だまれーーーー」


ルナは顔を真っ赤に染め、木の上で強引に動こうしていた。

投げナイフとは言え投擲目的であるが当然、刃も付いている。

まして、それが服に刺さり強引に動けばどうなるか。

答えはすぐ目の前に現れた。

ビリ、ビリ、ビリビリリ。

ルナが強引に動いたせいで、服が破けてしまったのだ。


「え、えぇぇ。落ちる落ちるぅぅ。きゃぁぁぁ」

「『空気の羽毛(エア・クッション)』」


私は魔法で木から落下してきたルナを受け止めた。


「あ、ありがとう」

「う、うん。まぁ、その隠せば」

「露出猫」


落ちてきたルナは服のほとんどが破け下着姿も同然であった。


「み、見るなぁぁぁぁ」


下着姿をさらしたルナは数日間『露出猫』とノアに言われ続けるのであった。






今のところ戦闘訓練では、二人は私に一度も攻撃を当てることができていない。

しかし、動きや魔法は確実に成長している。

成長が早いのは彼女らの努力の賜物であろう。

私が行っているのは超実践向きの戦闘訓練である。

二人には私を本当に殺せと言っているし、私も二人を必要なら傷つける。

今までの訓練で二人は何度も指や耳、足や腕を失っている。

失う度に魔法や魔法薬で治し、訓練を続ける。

私達は、移動しながら、この訓練を日々行っている。

人間を殺すということは生半可な実力で行えることではないと彼女達は知っている。

強くなるためには、文字通り血反吐を吐かなくては、強くはなれない。

日を重ねるごとに強くなる二人、動きには無駄がなくなり、魔法は洗練されていった。


そして、森の中で過ごすこと三か月が経った。

「『分身(アルターエゴ)』」

ルナは月光魔法で実体のある自分の分身を七体作った。

『行くわ』

七体のルナが私に同時に攻撃を仕掛けてきた。

「【玻璃ノ未来(ラプラス)】」

私は【玻璃ノ未来(ラプラス)】を発動し、二本の刀を抜いた。

七人のルナは腰に差した双剣を抜くと絶妙な時間差で私に攻撃を仕掛けてきた。

未来視はあくまで先を見る力であり、攻撃を防ぐ力ではない。

避けられない攻撃、防ぐことのできない攻撃は当然ある。

七人のルナは、攻撃しながら私を取り囲むように動き、反撃の隙を私に与えない。


「完成した。くらえ『金剛(ダイヤモンド・)(スフィア)』」


突如、私を中心に白い巨大な魔法陣があらわれた。

瞬間、私の【玻璃ノ未来(ラプラス)】が、私が無数の槍で貫かれる未来を映した。

そして、それは現実の物になった。

無数の槍が地中、空中に出現し、全方向から私を向けて高速で放たれた。

当然、周りにいたルナも巻き込まれたが、彼女達は全て幻。

貫かれた瞬間、靄の様になり消えていった。

槍は全て中心にいる私に押し寄せ、金剛石で造られた球体ができた。

木の上から魔法の成功を確認したノアは、無表情のまま次の行動に入った。


「油断なんてしない。【穿て、貫け、我が一撃は最硬にして最速なり『滅弾(ルイーナ・フィーゼ)』】」


詠唱まで行い、生み出したのは細く短い黒い杭の様なものであった。

杭の先には、何重にも魔法陣が展開していく。

全ての魔法陣が展開した瞬間、その魔法は、放たれた。

魔法陣通過するごとに速度を増し、硬度を増し、金剛石の球体を貫き地面を深々と抉った。

杭の衝撃すさまじく、辺りの木々は吹き飛び地面には大きなクレーターができていた。

土煙が舞う中、中心を貫かれた球体は役目を終えたかのようにガラスの様に砕け散り、同時にドサっとなにかだ落ちた。

土煙が落ち着いた。クレーターの中には一人の少女がうつ伏せで倒れていた。

ノアが油断なく少女、アリスに近づく。


「私達の勝ち」


ノアはアリスを仰向けにしようと手を伸ばした。

そのとき、ガシっと逆に手をアリスに掴まれた。


「油断しちゃだめだよ」


私はノアの手を力の限り引き、ノアの体制を崩し、馬乗りになった。

そして、太もものナイフを首に突き付けた。


「残念でした」

「そうね。アリス、あなたの負けよ」


私の後ろに双剣を付きつけたルナがいた。


「ノアを囮に月光魔法で姿を消して待ち伏せかぁ。上出来だよ。」

「でも、やるならどちらも『分身』を使うべきだったね」

「う、うそ」


ノアに馬乗りになっていた私は、靄の様に消え代わりに二人の喉に刀を向けた私が現れた。


「自分にできることが相手にはできないなんて思わないことね」

「【虎目ノ計測(アザゼル)】ずるい、ずるいわよ」

「私のとっておきが不発……」

「どう?一瞬でも味わった勝利の感覚は?」

「アリス、嫌い。おとなしく死ねばいいのに……」

「全くだわ」

「はははは。次は殺せるといいね。さぁそれじゃご飯にしようか」


私達はこの三か月を全て訓練に使っていたわけではない。

四百三十二人、私達がこの二月で殺した人数だ。

森を抜ける途中、人間の集落や村を見つけては、潰し、奪い、殺した。

ノアは、魔法の扱いが上手く、高い場所から逃げる者の頭を潰したり、私達の戦闘を後衛として支援を行い。

ルナは、魔法もさることながら、双剣を使い、相手を惑わし、斬り捨て遊撃として役目をこなせるようになった。

成長したのは、二人だけではない。

私も新しい【禁眼(ディアボロス)】の能力を一つ手に入れた。

新しい力は、発動のため条件も用途も限られた力だが、非常に強力なものであった。

また、【禁眼(ディアボロス)】の解放条件もある程度だが察しがついた。

禁眼(ディアボロス)】は、十三の悪魔の名を冠した能力からなる。

私の眼に宿るのは、本物の【悪魔】というわけではないが、しかし、もし悪魔を召喚するのであれば必要なものがある。


それは、【生贄】だ。

【悪魔】を呼ぶのには必ず【生贄】が必要不可欠なものである。

生贄は時に家畜であったり、黄金であったりする。

しかし、私の眼に本当に【悪魔】が宿っているのだとすれば、彼らが欲している【生贄】は人間だ。

まだ憶測の域を出ないが、おそらく私の眼は人間を殺せば殺すほど新しい能力が発現する。

これの考えに行きついたとき、私はあまりの歓喜に体が震えた。


修羅の道を歩むほど、私は修羅となり道が開けると感じたのだ。


修羅となることに恐怖はない。


目的を果たすためなら、私は悪魔にも魂を売ろう。


私の全てが果てるまで——。


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