第二十話 自由の対価side勇者
もう少しだけ続きます。
「【雪銀ノ知恵】二人の話は真実なの?」
『回答 いいえ。二名の知識は間違ったものです』
「そう。それじゃ真実を教えて」
『承諾 現在の権限の全てを使用し、神智事録にアクセス……成功。知識を開示します』
私は【雪銀ノ知恵】から知識を正しい知識を受け取った。
私は今、おそらくクラスのみんなよりもこの世界に詳しい。
人間がどういう種族であるのかを理解しているし、この世界の常識や法則も理解しているのだから。
私の『贈り物』【咎眼】は、十三の天使の力から構成される特殊型の贈り物である。
【雪銀ノ知恵】は、神智事録と呼ばれる神の創った世界の事典にアクセスし知恵を与えたり、脳の演算処理などの補助をすることができる能力だ。
神智事録には、嘘偽りなく真実のみが記されている。
私がこの世界に転移してきたとき、私が混乱しないように【雪銀ノ知恵】は、私にこの世界の大まかな知識を私に与えたのだ。
そのせいで、私はこの世界に転移してすぐ気を失ってしまったのだが……。
私は【雪銀ノ知恵】の与えた知識を脳内で整理した。
まず、この世界はルワーンと呼ばれていることは、確かなことらしい。
人間と亜人達が戦争をしていることも事実であるのだが、ここからの知識が歴史とは違っていた。
人間は、確かに女神から力を受け取り、勇者召喚のすべを教えてもらったのだが、人間は力を受け取ってからの敗北は一切ない。
人間達の当初の領土は、世界の十分の一程度であったのだが、女神が力を与えたことでそのバランスが崩れたのだ。そして人間達は破竹の勢いで支配領域を拡大し、ついには世界の半分を支配するに至った。
魔王も一応は存在するのだが、勇者を退けるほどの力はなく、人間から他種族を守っているらしい。
人間の高レベルの者は少ないのは事実なのだが、それでも戦力が落ち込むということはない。
だが、この国の王は、一刻も早く領土を拡大したいがために強引に魔力をかき集め勇者、私達を召喚したという。
そして、現在帰る方法がないというのも事実であった。
本来勇者は、一人を召喚するだけでも莫大な魔力を使うらしい。
最初の一回目は、女神自身が召喚したのだが、それ以降も人間は女神から教わったすべを行使し続けた。
勇者召喚に必要な魔力は、一人や二人でまかなえる量ではない。
それこそ百年単位で魔力を集め行使する大魔法なのだ。
集めた魔力によって異世界への扉を開き、呼び出した者へ力を与え勇者とするのだ。
だが、今回はそのサイクルが異常に早く、前回の召喚から50年も経っておらず。
先代勇者も存命であるのにも関わらず、この国は勇者召喚を行い、さらに41人もの勇者を召喚したのだ。
計算が合わないというかこれほど莫大な魔力を貯めるのは不可能であるはずなのだが、この国の人間達はある方法によって可能にしたのだ。
それは、先代勇者が作り出した【魔力化】と呼ばれる魔法の発明から始まった。
この魔法の効果は、生物の生命力や肉体を魔力とする魔法なのだが、発動条件が非常にシビアで実践向きな魔法ではないのだが、条件さえそろえば他者の生命、肉体を全て魔力とすることもできる魔法であった。
この魔法を使用して得られる魔力は、生命、肉体を魔力にする。つまり、命を魔力に変換する魔法は、対価が命であるためその見返りは、非常に大きかった。
そして、この国の人間達はこの魔法を行使したのだ。
当然、自分に対して使うのではない、奴隷とした亜人達を数百、数千人の命を使って魔力を貯め、私達は召喚されたのだ。
彼らにとって亜人とは、使い捨ての道具程度にしかおもっていないのだ。
「なるほどね……なんていうか、ムカつく。自分の都合で亜人さんの命を使って……」
『提案 亜人は人間たちが付けた人間以外の種族に対する蔑称です。使わないこと提案します』
亜人『亜』とは準じてなどの意味であり、つまり『亜人』とは、『人間に次ぐ種族』であるという意味だと【雪銀ノ知恵】が補足してくれた。
「この国にいて私は大丈夫なの?」
『推論 ご主人が勇者、兵士として機能しているうちは友好的であると思われます。しかし——』
「使えなければ切り捨てられるか……まぁ他種族にあんな仕打ちするならありえるか……」
日常に飽き、非日常に憧れていた私だけど自分達の都合で勝手に利用されるのは気にくわない。
あらかじめ知っていたこととは言え、やはり帰れないという事実はなかなかくるものがある。
飽き飽きしていた日常だけれど、失ったと理解すると寂しいような気がした。
それに自分が見限れたときにこの世界の人間達に何をされるのかわからない恐怖も少なからずあった。
「【雪銀ノ知恵】私は何をすればいいの?」
『回答 否 進言 他種族を殺さずにレベルを上げてください』
「つまり、魔物だけを殺してレベルを上げろってこと?」
『肯定 魔物は全種族の敵であり、殺害しても問題はありません』
「一応、ヤル気はないけどどうして他種族を殺してはダメなの?一応人間の敵なんでしょ?」
『回答 ご主人の生存の可能性を上げるためです』
「生存の可能性?」
『肯定 【咎眼】は我らが神の創った最高の『贈り物』です。しかし、【咎眼】と対をなす最強の『贈り物』【禁眼】も存在します。【禁眼】の所持者は、人間の敵対者です。しかし、ご主人が他種族に危害を加えない限り彼女から剣を向けられることはありません』
「人類の敵対者って、つまり私達の敵?」
『否定 ご主人の敵対者ではありません』
「一体どういうことなの?」
『回答 彼女の目的は全人類の滅亡。故に転移者であるご主人は対象外です』
「【禁眼】悪魔ってことよね?」
「肯定 彼女の持つ【禁眼】もまた十三の悪魔によって構成されています。所持者はご主人と同年代の少女です。そして、同じく神に選ばれた少女だからです」
「選ばれた?同じって私も?」
『肯定 ご主人と彼女はいずれ出会うでしょう。それは運命です』
『提案……否……進言……否……懇願 我らの神の望み——————を叶えてください。』
最後の一言【雪銀ノ知恵】から初めての心のこもった声であった。
美しく、儚く、透き通った声で私の天使は告げた。
この世界の神様の願いを聞いてしまった。
私は、誰もいない部屋で一人呟いた。
「私は別に英雄になりたいわけでもないの。物語の主人公になりたいわけでもない」
『……』
「退屈な日常も、理不尽な非日常も嫌い。私はただ自由になりたいの。好きなものを好きと言えるような、いやなものをいやと言えるようになりたいの。『雪銀ノ知恵』あなた達は私の理想を叶えられる?」
『……否定 しかし最大限あなたのために私達は全てを捧げます』
「そう……それじゃ神様の願いを叶えるために私は何をすればいいの」
『感謝 感謝します。それではまず———』
別に【雪銀ノ知恵】に感化されたわけでもない。
ただ、せっかくつまらない日常が終わったのに、理不尽な非日常に奪われてはつまらないだろう。
どうせなら、自由な非日常を行こうと思ったのだ。
自由の対価になら多少の無茶無謀も私には許容範囲内だ。
それほどまでに私は自由を求めていた。
さぁ始めよう私の自由のために——。




