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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第十六話 踏絵


「おいおい、怖気づいたか?」


大男は余裕がありそうな態度で私を挑発してきたが私の【虎目ノ計測(アザゼル)】はごまかすことはできない。

奴の身体は魔物の襲来そして、熊の自爆によって相当ガタが来ていた。

そして先ほどの攻撃でやつは限界を迎えた。

当然のことだ、骨がむき出しの状態で斧を振るってまともで済むはずがない。

やつは、立っているのがやっとである状態であった。


しかし、大男は倒れない。

おそらく先ほどと同じく奴はカウンターを狙っているのであろう。

自ら攻める余力がないから、挑発をして私から攻撃するように煽っているのだ。

だが私はその誘いにあえて乗ることにした。

出入口は一つで奴らを逃すことは万が一にもない。

大男は未だに流血し続けほっといてそのうち失血死で死に至るであろう。

ここで攻めるのは下策であることは、理解している。

でもこればかりは致し方ない。


私が私であるために……私は彼らをこの手で切り捨てる。




私は、もう一度体勢を低くし大男に向かっていく。

大男は余程自信があるのか私が向かってくるのをみるとニヤリと笑みを浮かべた。

私は勢いを殺さずに接近した。

もう少しで斧の攻撃がぎりぎり届かないところで大男は迎え撃つために斧を振るった。

否、斧を投擲してきた。


「知っているよ」


私は未来視で斧の投擲は知っていた。

知っていたからこそ私は投擲された斧を剣で防ぐことができた。

そして奴の次の行動は……。


「投擲でひるんだところに渾身の横なぎの一撃でしょ」

「なに……」


私は低い体勢から跳躍し横なぎの攻撃を避け、すれ違い様に剣を振るった。

確かな手ごたえと共に背後で血柱が立った。

大男の首がゴロリと転がる。

命を奪ったという感覚と血の匂いが私を吸血鬼としての本能を揺さぶる。

首を落とした時についた剣にはべっとりと血が付いていた。

私は頬についた血ペロリと舐めとった。


「ノアやルナの血よりもおいしくないなぁ……」


剣についた血を振り払い再び収納し、二本の刀を取り出した。

刀を抜いたところで山賊達は、ようやく大男が殺されたという事実を認識したのか私に一斉に襲いかかってきた。

しかし、襲いかかってきた山賊達は、先ほどまで戦った大男よりはるかに弱かった。

私は襲いかかってきた山賊達全員を斬り殺した。

山賊を斬る度に刀を通して肉を切り落とす感覚、骨を断つ感触が伝わってくる。

劈くような絶叫とむせ返るような鉄の臭いが瞬くように周囲に広がる。

足元に広がる血だまりが、命を奪う感覚が私の感覚を研ぎ澄ましていく。

水晶の瞳と虎の瞳が一瞬、紅に染まり、八重歯が僅かに伸びる。


『うわぁ……ノア見なさいよ。アリスって多重人格なの?』

『アリスは人間大嫌いだから……』

『大嫌いって言うかあれは……』




二人の目の前では、アリスが山賊達を次々と斬り殺していた。

本当の命を奪う戦いというのは見ていて気持ちのいいものではない。

むせ返る様な血の匂い、ぶちまけられた臓物、虚ろな目をした屍が生み出す風景はまさに地獄であろう。

そんな地獄のような風景を生み出した少女は、刀を振るう度に徐々に口角を吊り上げていく。


『人間を殺すことを楽しんでいるわね……』

『うん……でも楽しそう。いいなぁ……』


山賊達を惨殺するアリスをノアはうっとりした様子で見つめ、ルナはそんなノアに頬を引きつらせていた。






戦いというより一方的な虐殺は長くは続かなかった。

気がつけば山賊達の絶叫は消え、少女の嘲笑のみが響いていた。


「ハハハハハハハハ。あれぇもういないの。さぁさぁさぁ次はだぁれぇ」


人間を惨殺しておかしなテンションになっていたアリスにルナは後ろから話しかけた。


『あ、あのアリスさん……大丈夫ですか』

『魔法のせいで聞こえてない。任せて』


むにゅう。


「きゃあ!ノア!ちょっとやめてぇ」


魔法の影響はかけたアリス本人ですら認識することはできない。

魔法が解けるまで時間はまだ残っていた。

そのため魔法のかかっていない者に接触する必要があった。

その接触は別に肩を叩く程度、服に触れる程度で十分であるのだが、ノアはアリスの胸を後ろから鷲掴みにして揉みしだいた。


「ノアいい加減にしなさいよ」


ルナはノアの頭に強烈なチョップをくわえた。

ノアは頭を押さえて涙目になりながらルナを睨んだ。


「痛い……私はアリスのためにやったのに……」

「それでなんで胸揉むのよ!」

「そうよ。そんなうらやま……じゃなくて、いやらしいことする必要ないでしょ」


ノアはプイっと顔をルナからそらしぼそりとつぶやいた。


「ムッツリスケベのルナに言われたくない」

「聞こえているわよ」

「二人とも喧嘩しないの。まだ獲物はいるんだからね」





私は二人とともに洞窟の奥へ進んで行った。

奥へ進んで行くと男たちの下卑た笑い声と女の悲鳴が聞こえてきた。

洞窟の光源であるランプは奥へ行くほど増え、明るくなっていく。

それは目的地が近いことが示していた。

目的地である部屋はすぐに見つけることができた。

私は部屋を区切る布を刀で切り裂いた。

部屋の中には裸の男たちと縄で拘束された女たちがいた。

男たちは女たちを犯すのに必死で私達が部屋に入ってきたことに気が付いていなかった。


「汚らわしい」


私は一言つぶやくと持っていた刀で男たちの首を落とした。

そこには先ほどまで人間を惨殺して笑みを浮かべていた少女はいなかった。

氷の様に凍てつくほど冷たい瞳でただ無造作に男たちの生命を奪った。


「た、助かった?ありがとう。ありがとう」


先程まで男たちに犯されていた女たちは何故か感謝の言葉を口にしてきた。

犯されていた女たちのほとんどはまるで脅威から解放されたかのように安堵した様子であった。


「アリス残りはあと何人なの」

「ここに居るだけよ」

「ふぅこれでひと段落ね」


私達はフードを脱ぎ部屋を見渡した。


「ねぇ早く私達を開放してくれない」

「縄をほどいてよ!そこの奴隷どもグズグズしてないで早くしなさい」


女たちは何を勘違いしているのか、人間が私に命令をしてきた。

それどころか、ノアやルナを奴隷扱いした。

私は収納魔法から小さめのナイフを取り出した。


「ノア、ルナ」


私は取り出したナイフを二人に渡した。


「流石に動けないやつならできるでしょ。言ったよね。例外はないって」

「「わかっている」わ」


私は一種の踏み絵のような感覚でナイフを渡したつもりでいた。

ノアはとにかく少なくともルナはナイフを受け取らないと思っていた。

殺せない奴は必要ない。

覚悟があるなら行動で示せ。

そういった意味を込めてナイフを私は渡したつもりだ。

私は女たちに抱いた怒りを無理矢理押し込め、行方を見守ることにした。






二人はゆっくり女たちに近寄った。


「早く解きなさい」

未だに自分たちが救われると勘違いしている様子は腹立たしく感じたが、それ以上に私は二人の行動に驚いた。

二人は一切のためらいなく女たちにナイフを刺した。

二人は何度も何度も女たちにナイフを突き刺した。

ナイフはどれも急所が外され、どれ一つ致命傷になっていない。

それゆえに女たちは今なお死ねずに泣き叫び続けている。

殺すのが怖いから致命傷を避けているのではない。

もう彼女たちは手遅れだ、彼女たちは血を流しすぎた。

死ぬのは時間の問題であろうが二人はナイフを刺し振るい続ける。


「いやぁ、やめてやめて」

「無理、アリスがあんなに楽しそうにして、ずっと羨ましかった。私だって殺したいの」

「ノアもアリスみたいに興奮してまったく人のこと言えないじゃない」

「た、助けてお願い」

「何勘違いしてんのよ。お前たち人間は生きてるだけで罪なのよ。だから罪を償って死になさい」


二人は人間達の指を落とし、健を断ち、皮を剥ぎそして心臓抉り殺した。

私は二人にそこまで求めていなかったが、私が思っていた以上に二人が持つ人間に対する憎悪は大きかった。


「アリス終わったよ。ちゃんとできた?できた?」

「私も終わったわ。このくらいでいいかしら?流石にナイフだけじゃこれくらいしかできないけど。どう?」


二人は手にナイフを持ち、全身を返り血で真っ赤に染めながら私に褒めてと言わんばかりに詰め寄ってくる。

うん。怖い。

殺した後で気分が高まっているんだろうけどさ、いくら美少女だろうと怖いわ。


「……うん。お疲れさま」

「うん」

「まぁ別に私にかかればこんなの楽勝よ」


二人は自慢げに胸をはった。


「私達、頑張った」

「まぁ私達を試すようなまねしたんだからねぇえ」

「な、なんのことかな」

「とぼけるんだぁ……」


私は二人の無言の笑顔に負け素直にあやまることにした。


「もう……わかったわ。試す真似してごめん。これでいい」

「ご褒美……」

「アリスの誠意に期待するわね」

「わかったわ……」

「言質取った」


ノアとルナはニヤリと怪しく私に微笑んだ。

ゾクリと寒気を感じ私はとんでもなくまずい言質を取られたんじゃないかと思ってしまった。

私達はその後、洞窟内の探索と後処理をすることにした。

読んで頂きありがとうございます。

次回の投稿は、木曜日の12時を予定しております。

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