第92話 事象改変
ゾビィーの崩壊を停めたのは剣閃。駆けつけたシルフの一閃が、その足を切断したことにより、今直ぐの死は免れた。
しかし、依然致命傷に変わりない。このままでは出血死する。シルフの判断は最適だったが、最良ではない。
選択肢がそれ以外無かったのもあるが、もう少し早くに到着していればと思う所はある。己の無力さは当たり前も、自分だけに怒っているのではない。破壊者の眉一つ動かさない表情にムカついているのだ。
ただ、シルフはまだ無敵状態を発動してはいなかった。
距離的に鑑みても、効果が発動していておかしくない時間帯ではあったのだが、頭上の天針はⅫを指していない。
その手前で停まっている。
無敵状態は効果発動後1時間は停止できないが、その前ならば日に一度、針を停めることができる。戦局を見極める猶予は1回だけあるということだ。
その判断こそは最良で、ほぼ同時刻に征服王ジュンもやって来ていた。
配下らしき者も一人連れている。シルフを追いかけた、ライトも到着している。
「ジュン様!!」
「征服王!!」
「我が君!!」
三者三様、但し無傷は一人。
満身創痍に近いシルフも、無敵となれば征服王ですら勝てると自負はしていたのだが、彼女は停めた針を動かさなかった。
◇◆◇◆◇◆
ゾンビとの接敵・首魁との激突は、どれも守護者の世理に観られていた。
観測者が創造主に報告したことで、征服王ジュンは腰を上げたのだ。
だが当初よりも舞台人数が多いことに困惑。内心驚きながらも、ジュンとして表情は変えずに淡々と戦場を分析。
(唯壊と戦ってたのがドラコの言っていた者で合ってるはず……、そうするとあの美女も聖なる九将?部下もしくは同僚??)
不謹慎とは思いつつも、美女に目がいく。
守護者に気取られないようにはするが、銀髪の戦乙女をハーレムライフに加えたいと思うのは、ジュン───いや、早乙女純の性欲求。
(くぅ〜、また候補が増えちゃう。でも今は違うわ。何か敵意を感じるし、ここはさっさと実行しちゃいましょう)
予定を見直し終えたジュンは、事前に伝えていたように世理に目配せする。
「主の御心のままに──」
世理の了承により、突如空は暗転し、数秒後、夢幻の光が大地に広がる。
殺意など全く無しの淡い光。この場の全員を、国を、世界を包む。
「条件を満たしました。能力を発動します──」
事象改変。
チート発動。
世界は、書き換わる。
◇◆◇◆◇◆
光は消失し、元の景色へと戻る。
「「えっ……?」」
発言はゾビィーのものだが、他にも声は重なる。驚き開いた口が塞がらない。枯れていた木々、腐った大地、家屋、人は全て健在していたのだ。中央部の街風景に、似合わない能力者たちがここに居る。
ゾビィーの切断された足も繋がっていた。
「嘘……」
時間が巻き戻った感覚に近いが、それは思い違いかもしれない。家の外に出る者達は皆、夢かどうか確かめているからだ。
自分の顔を抓ったり、身体を触る。ゾンビ化していた記憶があるのだ。つまり、人々は復活したということ。
「時間干渉か!?」
「違う」
「ゾンビ化していた事実と、同時に起きていた破壊と腐蝕による事件という事象を無かったことにしました。民や建物が元通りになっているのは、そういう理由です。私に時間を巻き戻す能力はございません」
時間は巻き戻せないが、事象は改変できる。
これほど笑えない能力があって良いのかと思ってしまう。
(それなら……)
回数制限や他に条件があるのかどうかも知らないが、他国征服の際に一般人を殺してしまっても元に戻せるなら、ドラコの言っていたような静観も理解はできる。
だが、そこに道理はない。
破壊能力という配下がいる時点で非人道的な組織に違いはない。
全て思い通りにと考えている、その姿が烏滸がましい。
だから【聖なる九将】として成敗するべく、行動に移したのだ。
悪は滅する。
組織【S】を台頭させてはいけない。未来を守るために、倒さなければならない。その考えは今も変わらないが、事象改変という能力に心揺れ動く。
(僕の、過去は……)
敵対関係の相手に懇願するなどあり得ないのは百も承知だが、身体は勝手に動く。
膝を付き、頭を垂れる。
「……聞きたいことがあるんだ」
「何だ?」
「その能力は、過去にも影響し得るのですか?」
【聖なる九将】としてあるまじき行為。
しかし、聞かずにはいられない。
これは、ゾビィーの罪。
だから、征服王の『何故?』という問いに答える。
自分の過去も話してしまう。
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