第88話 無慈悲なる殲滅
ジュンから指示を受けた守護者たちは、各地へと散らばる。
商国方面で迎撃に当たっていたのは、紫燕と陰牢。ルドルフに注意喚起しにいく道すがらの接敵だった。
「行動を阻害します」
紫燕の銃は見事に足を狙撃。次々と倒れていくゾンビたちだが、足を失っても尚、進もうと地を這う姿は生きる屍。
「脳天打ち抜いた方が早いわよっ──て、あら?」
大鎌の回転斬りは容赦無く、身体を切り刻む。首は掻っ切られ、胴体は真っ二つ。
しかし、その代償は大きく、歩くだけで大地を別物へと変えるゾンビたちは、その身体に触れたものも腐蝕させる。
鎌の切先は少し欠けていた。
「厄介ね、飛び道具でしか相手できないじゃない」
難なく屠る紫燕とは打って変わって、直接的な鎌攻撃では相性が悪い。斬撃を飛ばす形であれば対処可能だが、全ての攻撃に斬撃を付与することはできない。
陰牢は接近戦を一番に得意とする能力者ではないからだ。創造主から賜った武器を無駄にするのも言語道断。最初こそ興味本位で、実験に持ち帰ろうかと思っていた陰牢だったが、認識を改め殲滅へと移行する。
武器破壊をする輩は成敗あるのみ。
「玩具の劇場」
玩具箱よりも、効果範囲が広い技。出現した拷問器具に、次々と囚われ、死にゆく者達。元は一般人、どこかの国の民や兵士に他ならない彼らが、断末魔も無く生を終わらす。
情の欠片もないが、これ以外で彼らを楽にさせる術は陰牢には無い。
ゾンビになってしまったことを呪い、来世に期待してもらう。
(器具は腐蝕するから、お互い様よ)
とは言っても、拷問器具は召喚物。精神が続く限り、無限に出現する。
戦場は、操り人形劇と化していく。
それを上手く掻い潜ったとしても、糸を縫うように紫燕の銃が火を吹く。狙いを足から頭へと変更して以降、容赦無い。弾丸に発火性の物も織り交ぜることで誘爆を引き起こしている。
高台への接近にも気づいており───
「よっ」
直ぐに武器を切り替え───
「とぉっ」
回避と同時に首を切りつけ───
「オマケです」
二丁拳銃を披露する。
(ふふん、どうですか?私のピーちゃんキューちゃんのお味は?)
隠密忍者風銃使いに隙はない。
大行進を続けていたゾンビたちは、守護者という脅威に滅されるばかり。
◇◆◇◆◇◆
ルクツレムハ征服国南部で迎撃の任に就いているのは、式と月華。月華は当たり前だが、式も素手に加えて鋭い爪を駆使して攻撃している。
躊躇いもなく接触をしているのは、噛みつき等によって出血さえしなければ、ゾンビ化しないことが判明したからだ。
これは、ジュンを通して零から念話が飛ばされた。
ゆえに彼女らは、自慢の拳で闘えている。
月華では効果薄だが、脳天や首元を狙うことで気絶させ、何とか食い止めている。
毎度のように起きる手の腐蝕は、“半自動治癒”で治す。
これも、念話で伝えられたこと。完全なゾンビ化は治癒できないが、ただの腐蝕であれば治せるのだ。
「オラオラどうしたぁ!それじゃあ、一生かかってもオレ様には勝てねぇぞ!」
物言わぬゾンビたちも至極当然。彼らの脳は、あまり機能していない。
『あー』や『うー』などの擬音程度は発するが、基本は本能のまま、飢えを満たしたいだけの、感情の無い生きる屍。
発達しているのは主に筋力で、稀に筋力以外の身体能力向上効果も起きるが、彼女ら守護者に意味は無い。
ゾンビ化前の腐蝕を“半自動治癒”で治せると解った以上、怖さも無い。
そもそも最初から恐れていない。
特に、式は暴力的で好戦的。
忠犬は指示を正確に遂行する。耐えて倍返しするという、攻撃方法を使えないとしてもだ。圧倒的な暴力で屠る様子に、身体能力向上の有無も最早関係ない。
大男風のゾンビも一発で倒していく。
(①番と⑦番……)
ある種台風のような暴力風景を横目に見ながら、月華は自分のできる範囲で倒していく。
回避と反撃を繰り返す。
全て一撃による短期決戦。
式のような豪快さはないが、着実に仕留めていく。
「①番と⑦番!!」
武術は1日で成らず。日々の積み重ねが成果へと至る。
「「次、お願いします!/次は、どいつだ?」」
静と動ではない。この2人を表すならば、柔と荒。
全く別の体術同士。
息は合わないようで合っている。これもまた鍛錬の成果。日頃から切磋琢磨した甲斐があったというもの。背中重なり、交差する2人。
「①番……」
「はっはぁ!」
「⑦番……」
「おらよっ!」
「①番⑦番⑱番!」
「もひとつ、オマケだ!」
月華の回し蹴りが、式の拳が、空を割り、大地を揺るがす。
躍動する巨乳美女。
溢れんばかりに乳房は揺れる。
ここにジュンが居たならば、今生に悔いなしと、目を奪われていたことだろう。
本当に居なくて良かった。
それくらい美麗に爽快に薙ぎ倒していく。この地での戦場もまた、優位に立ったのは組織『S』の守護者たちだった。
◇◆◇◆◇◆
東部の前線に立つのは、守護者の零。彼女は1人で、バラバラ死体を築きあげている。
「続行します」
当初はユージーンも参戦していたのだが、自慢の剣が刃毀れを起こしたがために一時撤退。
軍の兵士も戦場にはいない。
ただ、零にとっては、それが楽。2次被害は無くなるし、縦横無尽に闊歩できる。
それに、兵士という塵くらいの価値しかない物を、守ろうと意識を割く必要もない。彼女のこの冷たい性格は、だんだんと守護者以外の周囲にも気付かれつつある。
それを良しとする変態も中にはいるが、恐怖する者の方が俄然に多い。風貌は定着し、国の代表の1人として定着しつつある。
しかし、彼女の本音は別にある。確かにルクツレムハ征服国の内政や、国内の東西南北各地域を管理しているのは零だ。
軍強を図るよう、グラウスに指示したのも、彼女で間違いない。属国先が増えたことによる人材問題も把握し、自分なりに対処している。
だが、それら全て、零にとって意味はない。
人材が足りてないことが、一番の問題ではない。
国という観点や守護者の立ち位置から見れば、確かに解決を要する内容だが、彼女の我を通すなら、そんな事はどうだっていい。
全てを放棄し、創造主のために時間を使いたい。
メイドとして、隣に立つ、ずっと。
それが、彼女の心の本音。叶えたい願い。
(いつになったら、心落ち着くのでしょうか……)
思うようにいかない毎日を憂い、気持ちを発散させる。
鋼糸によって、死体の山が出来上がる。
能力、“次元殺法”を発動していることで、糸の一本一本に小さな歪が発生し、糸を補強しているために、腐蝕が起きることはない。
武器はノーダメージ。
勿論、本人も“半自動治癒”すら使用しない。
これは、無慈悲で、一方的な殲滅。
「今暫くは、私の発散対象になってて下さい」
スーパーメイドは、可憐に優雅に戦場を舞う。この地でも、勝利は揺るぎなかった。
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