第86話 劇薬
古城の大広間に集まっているのは、組織【S】の面々と他に3名。椅子に深く腰掛けているのは征服王ジュン、その両横に並び立つのは、世理・翠・紅蓮を抜いた守護者7人。
紅蓮は、新しく配下になったヤンとミズキが居る砂漠地帯ジルタフへと足を運んでいるため、今日は不在となっている。
属国となった砂漠地帯ジルタフの法案などの一切を、現地精査するのが目的だ。
不備があれば、すぐに是正を促す。厳しい精査は頭脳トップ3にしかできない。
ゆえに現在の国政は、砂漠地帯ジルタフを紅蓮が、商国を陰牢が、ルクツレムハ征服国を零が中心となって管理している。
ただ残念ながら、戦争国家ネルフェールは、まだ守護者を配備するに至っていないので、生き残った女王ネルが暫定では管理者となる。守護者の誰かを充てがうか、別の人材を確保するかは、ジュンの中ではまだ定まっていない。
大広間に居るそれ以外の3名とは、ルクツレムハ征服国の南部と東部の責任者グラウスと部下アリサ、それにユージーン。ユージーンの父であるモウリと、妹のエリカは既に帰国しており、この場にはいない。兵士の剣術補助という名目で残っているのは一人だけだ。
尚、この場には居ないが、相も変わらずのストーキング男ニシミヤライトも、城の付近にはいる。入城を未だ許可されない彼ではあるが、めげずに足繁く通っている。粘着質だけで言えば、世界最恐と言えるだろう。
ジュンたちが一堂に会しているのは、今後の方針を決めようとしていた矢先に、グラウスが最近の事件について報告したいと申し出たからである。
久し振りの面会には、同行するアリサも浮足立っている。
(ジュン様、今日も素敵です!早く、お傍につきたいです)
緊張しっぱなしのグラウスに反して、アリサの表情はニッコニコ、ユージーンはそれをご機嫌取りの一種だと解釈しているため、アリサの心情は男性陣には気付かれていない。
(うぅ〜、それにしても皆さん綺麗で困ります、嫉妬しちゃいますよ)
敵が多いのは覚悟の上であったが、こんなに多いと気が滅入るものではある。
美人顔は多い。
顔で勝負できなければ体となるが、こちらもパッとしない。
アリサの方が勝っている場合もあるが、大抵は体も負けている。となれば内面、もしくは特技などの技術面で勝負するしかない。
(私だって、グラウスさんの奥様の手ほどきで修行してるんですよ。何か1つくらい勝てそうなものがあっても……最近は確か……あっ!お菓子!お菓子作りですよ)
業務多忙の中、花嫁修行しているアリサ。ユージーンが誘いを断り続けられるのも、この為である。
(そうと決まれば、後日でも提案しないとですね。ジュン様と零様、どちらに提案すべきでしょうか……っと──)
いつの間にか、グラウスから相槌を求められていたアリサ。
今は報告会中、頭を切り替えねばならない。きちんと伝えるのも、評価を上げる手段の1つ。
「──はい、私も確認しております。赤い眼の少年は、自分の名前をイリムと言っていました。“姉の仇だ!”などと言いながら錯乱して暴れていましたが、取り押さえることに成功して南部取調室に幽閉しております」
「何かの劇薬ではないかと疑っております。事実、取り押さえるのには苦労しました。そこのユージーンをもってしてもです。赤い眼の間は身体が向上しているのではと……陛下?」
「B……F……A……G……」
「陛下、それは?」
「G……AA……I……たっは!な、何でもない、気にしないでくれ」
「しょ、承知しました」
「うむ」
(うっかり姿も素敵です!ジュン様!)
恋する乙女の間は、ジュンに失態はあり得ない。
逆に言えば、貴重な一面が見れたと解釈される。
心の思い出は、また埋まる。菓子作り勝負も、必ず実現させ、勝ってみせると意気込むアリサだった。
◇◆◇◆◇◆
またもや、ボーッと話を聞いてしまっていたことに悔やむ、ジュン。守護者の胸ばかり見ていた本人が悪いのだが、失態は失態。前回は守護者だけだったから良かったものの、今回はグラウスにアリサにユージーンまでもいる。視線から言葉の意味を理解されでもしたら、変態呼ばわり確定。
征服王としての評価が下がるのは多少であれば問題ないのだが、城外にいる変人と一緒にされては困るというもの。
しかも、今回は『食べたい』などと言いかけてしまっている。
(大丈夫……でしょう。誰も、気付けやしないわ)
守護者の立つ位置を変えるという選択肢はある。ただ横に立つ順番すら決められた物があるわけではないので、そこから決めるとなると少し面倒くさい。後ろに立たせるか、横一列に並ばせるか。
但し、前方に立たせるのは論外。面会者との顔が見えないのが理由ではない。前方の場合、今度は下半身を目で追ってしまう可能性が高い。
それは、おっぱいの二の舞。変態呼ばわり確定事項。
(ん〜、一旦保留ね。今は、赤眼について考えましょうか。でもこれ……私が聞いてたのと違うと思うのよね)
ジュンが言うのは、変人……ニシミヤライトと帝王ドラゴからの注意喚起。
【聖なる九将】序列第八位が攻めてくるといった内容と、今回の事件に関係性は無いと考えているのだ。
(第八位の能力は見たら分かるってだけで教えてもらってないし、確か広範囲に渡るって言ってたから、きっと赤眼は別件でしょうね)
赤眼の異常者の話は、ここ最近増えてきている。能力の有無に関係なく発症しているので、グラウスの言う通り、何かの劇薬である可能性は非常に高い。
誰かが秘密工作をして、ジュンの統治や征服活動の邪魔をしているのなら、犯人は誰か特定しやすいのだが、赤眼事件は各地で起きている。
ドラゴニアス帝国でもだ。
(そう言えばこの前、アリサちゃんの村を久々に訪れた時も、それらしい事を言ってたのよね。あのエロ爺は変わらずだったけど、村の誰かが暴れたんだっけ。不義理を働こうとしている輩を特定したいのは山々なんだけど、私が今知りたいのは赤眼の犯人でもなければ、第八位の動向でもなくて、第九位クロウって奴の居所なんだけど!!)
女体化を実現させるには、序列第九位クロウに会うのが、現段階での有力情報。
だがしかし、同じ【聖なる九将】でも、その居場所まで把握していなかった。変人をこき使って探させる手段はあるが、仮を作るのは後々面倒であり、変な憶測を立てられる可能性もあり却下。
結果、詰み状態。
(会いに来るのを待つしかない?第八位の件を知ってるなら、どこかで見ている?上手く処理すれば、好印象を持ってくれる……かもしれないわね)
不確かな部分が未だ多い赤眼については、もう少し情報を待つことにし、第八位の件に重きを置き、一定の方針が固まったジュンは、各守護者に指示するのだった。
◇◆◇◆◇◆
砂漠地帯ジルタフ王城の一室にいるのは、紅蓮とヤンとミズキ。
ついさっき念話で、ジュンからの指示もあったばかり。
「聞いたな?」
「ああ」
「はい」
ヤンとミズキは、半人前の守護者という立ち位置だが、紅蓮は2人を認めているため、この3人での会話はタメ語を許可している。
無論ミズキは性格上、殆どの相手を敬い、教養素養もあるため言葉の言い回しも一つ一つが丁寧であり、このご利益を授かっているのは、ヤンのみに他ならない。
但し、他の守護者やジュンに対しての場合は適用されないため、ヤンの不慣れな謙譲語は毎日のように炸裂し、その度に赤っ恥をかいている。
「せいふ……ジュン様はああは言ってたけど、こっちは赤眼を調査するかい?」
「何か知ってるのか?」
「何年か前にも赤眼が現れたという話を聞いています。確か、妖国グリムアステル内だったと思います」
「あたしが調査行こうか?」
「いや……ヤンとミズキは、王らに国の法案を再度作り直すよう伝えろ」
「まだダメのかい?」
「あぁ、属国としてはまだまだだ」
「つぅ、厳しいね」
「承知しました」
「私は──」
一瞬だけの思考。
考えるのは、今後主に迷惑がかかるかどうかだけ。妖国グリムアステルを【聖なる九将】が統治している噂は、紅蓮の耳にも入っている。
調査に、問題が発生しなければ良いだけのこと。戦闘は不可。それだけを念頭に置く。
「──噂が事実か確認する」
言い終えた紅蓮は飛び立つ。これで彼女の独断専行は2度目。
吉と出るか凶と出るか。
ヤンとミズキは上司が帰ってくるまでに、是正を終わらせなければならない。
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