第84話 聖九回線
ここは、何の変哲もない海の上。海岸からは遠く離れ、周りは青一色、澄み切った青空の下に彼は居る。
そこに地面は無い、大地も隆起していない。氷が張っているわけでも、海洋生物の死骸が浮かんでいるでもない。空中浮遊をしているというのでもない。
彼は、ピッタリと水面張力のように、海水の上へと正座している。
彼の名はクロウ。
【聖なる九将】序列第九位の男である。
彼は特殊な存在。それ故、性別が男であるかどうかは疑わしい。
クロウの声色は確かに男に近いのだが、機械じみている。
それだけなら男と判断しても良いのだが、クロウの顔は生物のそれを成していない。
クロウの頭部にあるものは人間の頭ではないのだ。首から上にあるのは、遊戯札。
頭ほどの大きさの遊戯札は、クロウの喜怒哀楽によって、毎分毎秒、色や数字が変わる。また、本来普通の人間にあるような、口や鼻それに目や耳はいてない。
しかし、五感という感情は当たり前のようにある。
食事は摂れないが、他人との会話は可能にしており、その場合相手側には口元付近から音声が聴こえる。眼玉は無くとも色彩は十分に感知し、聴覚嗅覚も鋭い。
変人多しと身内でも良く言われるのは、クロウもその一人に数えられるからである。夏場でも冬場でもタキシード姿を変えないのも、手袋を嵌め手首足首を常に隠しているのもそう、異種であることをより強く強調するクロウは、正に案山子のよう。
そんなクロウが取り出すのは通信機器。序列第四位ギルテが製作した、この世界には似つかわしくない代物。
機器の発信者は大抵の場合、クロウからではない。
今回も誰かの身勝手な発信から始まるこれは、【聖なる九将】専用、それも序列で位階付けされた者達だけが使用する通信回線。
『モシモシ.....?』
『やっと繋がったか…』
『ソノコエ、シルフカ?』
『あぁ如何にも──だが、出るのが遅すぎだな』
『トイウコトハ、ゼンインシュッセキカ?』
『違いますよ、上位3人が集まったこと、今までにあります?』
『ツマリ、ヨンイイカカ……』
『あぁ…のようだな、我もさっき聞いたばかりだ』
『ドラゴの音声も途切れ途切れのようだな、何かあったか?』
『……いゃ何も、ただの予行演習だ、気にするな』
『ソレデ、ホッキニンハ?』
『ボクだよ』
『ゾビィーカ』
『うん、議題は皆も知ってる、組織Sについてだね』
『それに関しては様子見と、少し前に決定したばかりでしょう』
『ライト……貴君の言い分は良く理解できる。だが、個人的見解や趣向が混ざってやしないかい?』
『それはどういう意味ですか、シルフ?』
『言葉そのままのつもりだが?』
『まぁまぁ落ち着け二人共、まずは発起人のゾビィーから話を聞こうではないか』
【聖なる九将】の世界に対しての決め事は、そう荒れるものではない、時間もかからない。過去には即断即決な議題も多分にあったのだが、今回に関しては意見が割れている。
『──ということはつまり、ライトさんとドラゴさんはあちらに味方するということなんですね?』
『そういう意味ではない!……あ、いや何と言うか、聖なる九将としては静観すると伝えただけだ』
『征服も要所狙いでスムーズに進んでいます。無駄な被害を出していない点は評価すべきです』
『無駄な被害?膨大な数の死者が出ているのにか?』
『ある程度の蹂躙はしていますが、暴虐の限りは尽くしてないですよ。奴隷制度も……無いですしね』
『平行線だな。クロウとギルテは何か意見ないのか?』
『フタリガキョウミモツナラバ、アッテオイテソンハナイカ』
『お勧めしますよクロウ。但し、我が君の隣は私のものです』
『貴君の物言いは好かんな。この場は征服王を称賛する会ではない』
『大丈夫です、私も貴方を好きにはなりません』
『『まぁまぁ/マァマァ』』
火花を散らす序列第六位ニシミヤライト、序列第五位シルフ、この2人の喧嘩もまた珍しい。
話まとまらず、上位の意見を再度聞く流れだったが───
『──僕が出るよ』
『は!?』
その発言には、この場の殆どが驚いた。
『ゾビィー、ショウキカ?』
『うん、僕は許せないんだ。我が物顔で人の物を奪う奴等がね。全て手に入れられると思ってる、その傲慢さを壊したいんだ、聖なる九将として……』
『やめた方がいい。主の技は範囲が広過ぎる。それこそ死者多数だぞ!』
『大丈夫……大丈夫、もう決めたことだから。この通信も最初から、単なる決意表明に過ぎないから……』
言い切ったゾビィー。既に回線は切断されていたが、シルフは後を追うと言って退出した。
未だ残っているのは4人。
『注意を呼びかけるにしても広いぞ』
『コウゲキノジキモ、フメイトワナ』
『シルフが静止することを祈りたいですが、思春期の子供を、思春期も無かったような生真面目な女性が引き止められますかね?』
『ワカラナイ』
『信じるしかあるまい』
『私は無理だと思います。戦いは、また始まります。そうは思いませんか?未だに喋ろうとしない、有罪人さん?』
『ふっ、黙秘禁止にはなっていなかったからな』
『これも、貴方が仕向けたんじゃないですか?』
『言いがかりだな、切らせてもらう』
序列第四位ギルテもいなくなり、残り3人となった回線は誰の終了の合図も無く解散となる。
クロウの景色も相変わらず海の上。
流されること無く、静かに立ち上がる。
(ホーリーナイントシテ、タタカイノイクスエヲミテカラ、アウカキメルデモヨサソウダナ。ソレニシテモ、マタセカイハ、ジダイハウゴクノダナ)
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