第82話 女湯
豪華な料理に舌鼓したあとは温泉、各々の判断で数種の秘湯に浸かり始める。男湯女湯と別れていることで、主のジュンはこの場にはおらず、ついてくる必要の無かった者達と一緒に湯に入っている。
(友好を結ばなければ排除していました)
そう言うのは零。髪留めして、礼儀正しい所作で湯に浸かる。
近くには、他に唯壊や紅蓮がいる。
零にとっては、あまり仲良く話す間柄ではないが、嫌っているわけでもない。単なる好敵手という認識も、互いが互いを理解しているからこそ。
(まぁ今回、一番意外だったのは翠ですが……)
温泉慰労会は、全守護者に念話が入った。
参加しなかったのは、古城レムハで世界の観測を続けている世理のみで、合計9人の守護者が、この地に集っている。
これはかなり珍しいこと。
(世理も、参加して良かったと思います)
周辺国家を取り込んだことで、脅威はかなり無くなっている。
世理の能力発動条件的に考えても、一人で残る必要は無いのだが、参加しなかったのは人見知りだったからではなく、任務を続行するという信念があったから。
(同僚ではありますが天晴と言う他ありませんね。適材適所ですが、私も見習わなければなりません)
温泉は、各々の判断という話だったが、入らない者はいない。
潔癖症は、守護者の中には誰もいない。
几帳面な零であってもだ。
ゴミは排除すべき存在であるが、波風立てず塵らしくあるならば存在を否定しない───というのが零の考え方なのだが、最近はその塵が増えていることに頭を悩ませられている。
仕事量が多くなるのを憂いているわけではない。困っているのは、その塵たちを育てないといけないこと。
国が肥大化するのは、世界征服を目論む以上は避けて通れない道であり仕方無い。
ただ如何せん、人材が足りていない。所々に手が回っていない状況だ。スーパーメイドにはあるまじきだが、自分と同じくらいの才能有るものを必要以上に求めてしまう。
つまり人材の成長・確保は、零から見ても急を要する事案。
紅蓮の下に、ヤンとミズキという者達が加わったのは非常に大助かりだが、計算上ではまだ足りない。同僚の成長を促すよりは、新しい人材を確保した方が無難であるが、急に増えるものではない。
出来るなら、自分の複製でも創ってもらう方が早いと思ってしまうばかりの毎日。
(ままならないものですね、何事も……)
加えて言って、その所為で疲労は溜まる。主に負担をかけないよう、表情作りに気を配っていることで気付かれていないが、夢有や月華のように表情豊かにできていれば、疲労を抱え込むことはなかったかもしれない。
ただそれは、スーパーメイドとしての矜持が邪魔をする。
“半自動治癒”で回復できるとしても極力使用は控えたい。
魂魄値の減少は、主のジュンに気づかれるからだ。よって今回の招集は渡りに船。日頃の疲れを癒すには、丁度良かった。
但し、このままではまた疲労を溜めてしまうというもの。早急な解決は必要で、そういう意味で言えば、主を追っかけ回すニシミヤライトには一定の理解はしている。
(ジュン様があの変人に手を下さないのも、1人の人材として考慮しているからなのでしょう)
変人と認定しているのは何もジュンだけではない。守護者たちにとっても、共通の認識。
(ただ、才はあっても性格に難ありとは困ったものです。そう言えば、誰かが私と似ていると言ったそうですが、嘘っぱちも良いところですね)
周りに誰も居なければ、不貞腐れ顔を晒すのだが、今日は出来そうにない。
この場に、好敵手は多い。
「──から、ジュン様は最高なのよ」
零の耳に聴こえてきたのは、唯壊と紅蓮、そして陰牢の声。主、ジュンの話で盛り上がっている。
「あの落ち着きようには感銘を受ける」
「どっしりと構えてくれる所が魅力的よね」
「唯壊はやっぱ顔かなー」
「中も外も非の打ちどころがないと私は思います」
「ふーん。そう、零。貴方は私達のこと好敵手っていつも言うけど、私の方が1つ頭抜けてるってのは覚えておいてね」
「それは、どういう意味ですかね、陰牢」
「言った通りよ」
「なら唯壊がNo.1でしょ。ジュン様とのパーソナルスペースは唯壊が一番近いの。あんた達は誰も、ジュン様の肌に触れたことないでしょ?」
唯壊が言うのは時折、夢有と一緒になってジュンの膝の上に跨る行為のこと。物理的に近くに密着しているのを主張している。
「その場合だと、夢有も該当すると思いますが?」
「あの子に恋愛は無理でしょ」
それはそう。認識は誰も間違ってないが、ジュンの好みの性癖は広範囲。
個性ある見た目で守護者を創っている以上、全員が好みに当てはまるのだが、零はおろか、誰もそれには気付いていない。
「新しい守護者も増えるらしいから、また一段と賑やかになりそうね」
「研究所を稼働されるということか」
「それはいつからなの?」
「さぁ、私も詳しくは知らないわ。帝国を攻める必要性が無くなったから、このユーリース共和国をどうするか決めてからじゃない?」
「有能な者が増えるのは良いことです。ただでさえ、人材は足りていないのですから……」
好敵手が増えるのは厄介ではある。
がしかし、零は別に焦ってはいない。
メイドという役割は自分しかいない、代わりはいない。主の横に立てるのは自分だけと、揺るぎないのだ。
◇◆◇◆◇◆
「ぬるい!!」
大声の主は式。先程から一人で湯に浸かっては転々としている。
「完全制覇だな!!」
この地には様々な効能ある温泉が湧き出ているが、全てを堪能するには、1日だけではそう終わるものではない。
主のジュンからは、『各々の判断で数種の温泉に──』と言われていたためか、式は言葉通りに誰にも意味は聞かず、個人判断で全ての効能を網羅しようとしている。
ジュンの言葉を実直に遂行する姿は守護者の鑑だが、最後の温泉は式には温かった。
効能の効き目も存分に味わってはいない。場所によっては1分足らずで移動しているからだ。ゆえに一人行動だったのだが、途中バッタリと会った仲間について来られ───
「ジャブーン」
「やったな!」
燥ぎ回っているのは、お子ちゃま。
最初こそ月華や紫燕と一緒に居た夢有は、一人別行動している式を不思議に思ったのだ。
「さっきの熱湯風呂に行くか!
「行かなーい」
「ムッ……なら泳ぐか!」
「うん、泳ごう!」
知能レベル低い2人が揃えば、どこだって遊び場。
水飛沫は大量に跳ねている。
「次は……覗きか!」
「のぞき?」
「おう!主の姿をな!」
「………わかた!」
普通は逆。
男が女風呂を覗くのが定番、式は履き違えている。
夢有も少し考えたのだが、その場のノリを優先してしまっていた。
「主が居るのは……」
においで探すも、いつもより効果は薄い。温泉特有のにおいが邪魔をする。
「たぶんここだな!」
僅かな隙間を見つけた式。
「ん……いねぇぞ!?」
がしかし、ジュンの姿はそこにない。居るのは、名前をよく覚えていない男たちだけ。
「ほんとぅだ、いないね」
「つまらないな!やはり熱湯風呂だな!」
「行かなーい」
式の勘は間違っていない。
確かに数分前、ジュンはそこに居た。
ただ一歩遅かっただけ。
(ん?)
「どうかしたの?」
「いや今何か、女っぽい声がしたような……」
「……だれ?」
「知らねぇ、この声は聞いたことねえ」
悲鳴に近い叫びが聴こえたのは男湯の方角。但し、緊急性は感じない。声は一瞬で、嫌な気配を察知したわけでもない。
「オレの主は最高だから大丈夫だな」
「うん、ジュンさま最強!」
調べを怠った2人。
これが吉と出るか凶と出るか、言うまでもなく彼にとっては前者となった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




