第81話 三人衆
翌日、ジュンたちはユーリース共和国を訪れていた。ユーリース共和国は、ルクツレムハ王国には面していない。商国とネルフェール、それとドラゴニアス帝国の3つに挟まれている小さな国で、秘湯があるのは、国の中心部から外れた僻地。山々にも囲まれ、見つかりにくい場所に位置する。奥に進むにつれ、温泉特有の匂いが鼻を刺激しだした頃、漸くそれらしき建物が見えてくる。
(上手く隠してるわね。まぁそれはいいんだけど、なんで男がいるのよ!?しかも変態まで!!)
同行者にはドラゴだけではなく、ニシミヤライトにルドルフまでいる。彼らは道案内や興味本位でついてきたのではない。同じように、温泉に浸かるのが目的だ。
(ありえなくない?普通、気を遣うでしょ)
守護者の方は全員とは言わないが揃っている。
夢有と唯壊はペータン教の定例会をブッチして招集に応じた。
入湯する準備も、各々抜かり無い。勿論それはドラゴたちも一緒で、ここで男共だけを引き返させるのは、ジュンという寡黙男には到底無理がある。
それに温泉は男湯と女湯とで分かれており、断る理由も思い付かない。
(うぅ〜、我慢よ早乙女純。女体化という夢がやっと叶うのよ。不要な騒ぎは良くないわ、心を落ち着かせて……)
すると、ジュンが深呼吸している最中、屋敷の戸がガラガラと開き始める。
「お待ちしとりました」
上品な声の主の隣には同じく着物を着た者が1人、その隣には割烹服を着た女の子が1人。
「うちは、女将のスズどす。こっちは、カンネとムギ言います」
「よろしくねん、あたしぃ、カンネよ」
「あちき、ムギ、よろしくぅ!」
「久し振りだな3人共、息災か?」
「そうどすなぁ、あんさんはお元気どしたか?」
「変わりない、今日は宜しく頼むぞ」
「任せておくれやす。それにしても、ぎょうさんいてはるなぁ。皆はん、揃うてますのん?」
「あぁ、全員だ」
「おおきに、ほな入っておくれやす」
(見事な方言ね。前世で言うと……どのあたりの方言なのかしら?)
案内されるがままに、一行は木造屋敷の廊下を歩く。紹介状にあまり意味がなかったのは、ドラゴが事前連絡を済ませていたことに他ならないが、ジュンが気にならなかったのは、スズの見事なまでの話し方とその姿勢に見惚れていたからだった。
(彼女も転生者なんでしょうね。所作が綺麗だわ。スタイルもいいし、これまた候補枠というやつね。やだわ、どうしよう、どんどん増えちゃう)
悶えそうになるジュンの目先には、スズの後ろを歩く2人。
(カンネって言う人は、100%オカマね。女物の着物や髪の長さで誤魔化してるけど、正真正銘あれは男。ムギって子は、おでこを出してる元気な女の子ね。年齢は夢有より上、紫燕より下くらいかしら?割烹服も似合ってる。ん?あれ……割烹服??)
疑問は間違っていなかったようで、途中調理場へと向かうムギ。
「それじゃぁん、あたしぃも手伝いに行こうかしらん」
カンネもムギの後に続いてく。
「ほな準備してくるさかい、こちらで待っとぉーくれやす」
案内された場所は、畳のある和室、料理が運ばれる以外は、宴席の準備は整っていた。ドラゴとジュンが上座に座り、2人を囲むように守護者とニシミヤライトたちが座る。
「気になるか?」
「なっ…!」
「スズの眼は失明していてな。上位の医療系能力者でも治せんのだよ。その理由は今度本人からでも聞くが良い」
(吃驚したわ。女体化のことかと思っちゃったじゃない。ふーん、そう。でもそれって、私の改造手術なら治りそうよね。治しちゃいけない別の理由でもあるのかしらね)
「──彼女たちはドラゴの元部下だったんですよ」
「ほう」
(へぇ、どおりで強い魂だと思ったわ)
「夢を叶えたいという理由で辞められたがな」
「働かせ過ぎたんじゃないですか?」
「我がそのようなことするか!だがまぁ、苦渋の決断ではあったな」
ドラゴとニシミヤライトの会話に聞き耳を立てつつ、ジュンは今後の計画を練っていた。
加えて、屋敷の全体図、温泉の場所を把握しようと精神を集中させている。
最悪時は“新界”を発動して、男共をどこかに転位させようとまで考えている。
念には念を。高鳴る鼓動抑え、その時を待つ。
◇◆◇◆◇◆
調理場では13人分の料理が出来つつあった。この屋敷兼温泉を切り盛りするのは、スズとカンネとムギの3人のみ。
誰一人として欠けることはできない。
【聖なる九将】の一員として、ドラゴの部下として働いている時もそうだった。
この3人は常に一緒、それはこれからもそう。
「ムギぃ!あたしぃが持っていくよん!」
「おねがいー!」
「お二人はん」
急な声掛けに、両方とも身体を硬直させる。
「今日の客人は上客も上客やさかい、悪いことしたらあきまへんえ」
「あちきがするわけないじゃん、カンネに言ってよね」
「あたしぃだってしないわよん」
「せやったら安心どす」
「開始口上は、あたしぃがやってよいのん?」
「そうどすなぁ、おたのもうします」
作業再開、スズも料理を運んでく。口上も述べられ、宴席は始まり、客人たちは大いに満足している。これは疑いようのない事実。
だがしかし、繁盛させることが、饗すことが彼女たちの夢ではない。ドラゴが連れてきたから、上客というのではない。
彼女たちは見定めている。それこそ、ニシミヤライトのように。ドラゴに次ぐ、自分たちの本当の夢を叶えるであろう、次なる主を。
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