第80話 秘湯効能
決闘に勝利したのは翠、ジュンの采配策略勝ち。ニシミヤライトの終了合図で一堂にも会す。その頃には帝王ドラゴも意識戻っており───
「くっ……ッ、はぁ…ぬぅ……やられた、我の負けだ」
敗れたドラゴは不満も吐かず、元の形態。
(この男は人の顔ってのが無いのかしらね?)
気を失った時も、顔は竜のまま、竜頭は被り物ではない。元の顔を忘れたというよりは、能力を極限まで身体に染み付かせたという解釈の方が似合っているかもしれない。但し、何回も転生している場合を除く。
(他人の、それも男の過去なんて興味ないわ。女の子だけ、それに今知りたいのは癒しの場所よ)
決闘開始前の条件では勝敗に関係なく、疲れを癒す場所を教えてくれることになっていた。いま直ぐにでも情報を聞いて良かったジュンだったが、友好条約の締結も合わせて行うというドラゴの言い分により、一旦地上へと戻る一行。城で待っていた者達は全員(ルドルフは除く)、遥か上空の決闘が視えていた様子で───
「流石です!ジュン様!」
「闘ったのは翠でしたけど、采配お見事です」
「陰牢は細かいですね、これはジュン様の勝利と言って違いありませんよ」
「え……えっ?」
「……」
「ご苦労、翠」
頷くだけの翠は、ジュンの命令で城を後にする───と言っても、普段ジュンが切り離して創った異空間内にて鍛錬しているため、古城のレムハに戻るのではない。
“新界”使用時の亜空間にも似ているが、翠の行き先はまた別。
呼び出しに応じさえすれば、何らかの理由でジュンがこの世界から別世界へと切り離されても、技の範囲内と認識される翠だけは瞬時に隣へと呼べる。
まさに、懐刀、特別待遇。
(誰も見てなかったら抱き締めてたところだけど、今は無理ね。あとで、時間見つけて褒めに行きましょ……あっやっぱ今の無し、今は大嫌いな男の身体だったわ)
戦闘員特化の守護者が去り、室内にいるのは昨日と同じメンバーに加えてニシミヤライト。
「それにしても、負けましたね、ドラゴ」
「ふむぅ…、あのような強い輩が居るとはな」
「ドラゴ様、負けたのは仕方無いですが、国を民を巻き込むのはやめてください」
「む…無論だ、決闘は我の個人的判断、国民に被害が出るものではない」
「昨日から思っていたのですが、癒しの場所とは、例のあそこですか?」
「そうだぞ、ライト。あそこだ」
「なるほど、アリですね、ふふ……」
「だろう?ふふ……」
不敵な笑みを浮かべる2人。ジュンたちは、蚊帳の外にされている。
(なーに、内輪で楽しんでるのかしら。ちゃちゃっと場所教えなさいよ)
苛々は勿論表情には出さないが、察したであろうニシミヤライトが1つ咳払い、それに気付いたドラゴも───
「あー、では約束通り、今後の征服活動については、【聖なる九将】として手を出さないと誓おう。帝国の王としては別だが、友好国となる以上は心配無用か。それともう1つ、癒しの場所の件だが、これは温泉だ」
「温泉!?」
「温泉とはもしや、ユーリース共和国ですか!?」
急に割って入ったのはルドルフ。だが、後悔したかのように後ろに下がろうとする。
「よい」
「うっ…申し訳ございません、征服王」
「よいから下がるな、説明しろ」
「あっ、はぁ。でも私も詳しくは……かなり秘密の、情報の少ない場所ですよね?」
それは誰に対しての質問なのか。一番に該当するのは帝王だが、ドラゴが答えなければ、ニシミヤライトもリカクもガンキも返答しない。
無の時間が続き、皆が静止する。
何かキュッと、内臓が締め付け細くなるような音がジュンには聴こえた。
(そういえば、この男……失禁王だったわよね?大丈夫かしら?)
よく見れば、涙目になっているようにも視える。悪気はなかったが、ここまで静かになるのは想定外。
「そ…うなのか?」
「そ、そうですそうです!!征服王!!そうなのです!!」
「お、おう」
涙の塩味が伝わる。
これにて、ルドルフはジュンの中では、完全に変人認定。
ニシミヤライトに続き2人目。
(こんな男に商国を任せていいのかしら?陰牢の判断を無下にはできないし、今は考えないようにしましょう。それよりも温泉よ、最高じゃない。ベストデートスポットよ!!)
温泉を紹介しようとする、帝王ドラゴの評価も上がるというもの。
当初はニシミヤライトと然程変わらない位置だったが、ルドルフが変人2番手になったことで、普通程度に興味ないくらいの位置までには落ち着いた。
「──の言うような、秘密にはしておらん。単に、利用できる者が少ないだけだ」
「まるで所有物かのような言い方ですね」
「まぁ、女将は我の知り合いだからな」
「つまり、貴方の息が掛かった場所、ということかしら?」
「そうだ。それと女将は強くてな。彼女の承諾を得なければ、秘湯に入ることはできん。我の言には多少の聞き耳くらいは持つがな」
「ふむ」
「あそこの温泉はいいですよ。それこそ入っただけで身体が漲ります」
「特別な効能でもあるんですか?」
「色々とあるぞ、無論美肌効果もな。一番特殊なのは……せいべつを変えるくらいか?」
「せいべつ!!??」
「ん?あぁ、そうだが、どうかしたか征服王?」
「あ…いや失礼、失言だ」
「まぁ、かなり特殊ですからねぇ。我が君が驚くのも無理はございません」
「一応、紹介状を書いておく。明日でも利用するが良かろう。今日は定休日なはずだからな」
「恩に着る」
「なに、これからの互いの国の繁栄のためと思えば、これくらい安いもの」
「それでもだ」
「お…おう?ではこのまま、友好条約締結と行こうではないか──」
その後、調印式を済ませたジュンだったが、心此処にあらず状態。
勿論それは帝王ドラゴの言葉、〈せいべつを変える温泉〉。
デートスポットを見つける以上の成果に、興奮を抑えられないでいる。
(ふっふっふっ、長かった……長かったわ。苦節数ヶ月、神は見放しても神を凌駕する私だからこそ、手に入れた成果!夢!!女体化!!!ふふ……ふふふ、明日が待ち遠しくて仕方無いわ)
運命的な情報との出会いに浮足立っている。誰も傍にいなければ、確実にステップを踏んでいた。
(ジュンが早乙女純に戻る時、世界は変わるのよ!!)
感情最高潮のジュンは、全守護者に念話を飛ばすのだった。
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