第79話 決闘
翌日朝、ニシミヤライトは決闘場を用意していた。
場所は天空。
若干の空気と重力を操作し、箱状の場を形成する。
(こういうのは、第三位の方が、得意なんですけどね)
ここに居ない者の名を呟いても仕方無い。上位とは話が合わない。だから自分のような、本来の意にそぐわない放浪者が出てしまうと常々思うのだが───
(この話は別にいいでしょう。今は我が君のことを第一に考えねば……)
ニシミヤライトは昨夜、ジュンと一緒に寝れなかったことを悔やんでいる。
シャッターチャンスだったはずの寝顔も撮れていない。
(ぐっ……まだだ、私には幾らでもチャンスがある。ドラゴが、読書会という手を打ってきたのは想定外でしたが……いや時期的には私の動きを見越しての提案となりますか。いやはや侮れない)
【聖なる九将】で男好きの同性愛者は2人だけ、これ以上敵が増える可能性は無いが、油断はできない。
世界中を探してみれば、同種同類はいるかもしれない。
(まぁ、私やドラゴのような強者はいないでしょうがね)
考えながらも作業の手は休めない。壁ではない膜を作り続ける。膜の上に立つことはできないが、音や衝撃はある程度弱められ、真下の国民に被害が出るものではない。地上からは遥か上空で、決闘の知らせをしているわけでもないので、観客は居ない。
つまり、観戦者はニシミヤライトのみとなる。
(以前は我が君の戦いっぷりを拝見できていませんからね、今回は楽しみま──っと、ドラゴが先に来ましたか……)
「上出来だな」
「……当たり前ですよ」
膜は通り抜けられる。その際、壊れることもない。眼には視えにくい透明の箱状だが、檻ではないということ。
「征服王は?」
「まだ──」
そう答えた時───
「遅れたか?」
「……」
姿現したのは2人。
征服王ともう一人。
初見の二人は、面妖な面持ち。
「そちらは?」
「守護者の翠だ」
「彼女は立会人かね?」
「いや、悪いが彼女に闘ってもらう」
急な状況変更に訝しさを覚えるのは当然も、ニシミヤライトは直ぐに了承、但し対するドラゴは納得しない。
「これはどういうことか?」
「言った通りだ」
「罷り通ると?」
「ああ」
「本気か?」
「ああ」
「貴殿の考えが分からぬことはない。しかしこれでは我の──いや、そこまで制限しなかった我の失態か……いいだろう、入れ替えは了承する──がしかし、あとで泣き言はできぬぞ」
「問題ない」
「ふぅ、これで始められますか。見届人は、私と我が君───になりますので、ジルタフ以来の観戦ですか。嬉しい限りです」
ニシミヤライトとしては、大きな問題ではない。またしても戦う姿は見れないが、近くに寄り添うことは叶うというもの。
そしてやがて、始まる決闘。
◇◆◇◆◇◆
ニシミヤライトの合図によって先手攻撃を仕掛けたのはドラゴ自身だったが、捉えたと思えた一撃は相手の手の甲1つで防がれた。
普通の人間の倍ある脚蹴りだったにも拘らずだ。
衝撃は凄まじいが、翠という女はビクともしない。
髪の毛一つとして靡かないほどに泰然している。
まるで、巨壁のようで表情も一切変えない。
「ちぃ……ッ」
(何なのだ、この女は?)
無口、不変、不動。
どれも翠という女に相応しいと思えるほどに、微動だにしない。
ドラゴの打撃は全てその場で受け止められる。
振り払ったり、いなしたりせず、手甲で止めたりと、時には鷲掴みされる。
鋼以上の硬度の脚を粉砕するかのような握力は、体長も四肢の大きさも超えるはずの自分に恐怖を植え付けさせる。
「ぬぅ!」
「……」
(一切喋らんではないか!涼し気な表情しおってからに……征服王が自信満々なのも頷けてしまうわ!)
圧倒的な暴力による粉砕は叶っていない。およそ、常人の能力者では耐えられないレベルの打撃であってもだ。
要するに、翠の身体はドラゴの硬度を超えるということに他ならない。後ろに回った攻撃も、真上も真下も、その身体の一部で防がれる。
このまま肉弾戦は不利、動かすには半分発動状態である能力を全発動させるしかなく、本気の闘いと成り果てる。
但しそうなると、ニシミヤライトの膜程度では衝撃吸収できるかは微妙なところ。
「四の五の言ってられん──か!」
思い切って全発動する帝王ドラゴ。その身体の表面は赤々しさを維持したまま、竜の形をしていた手足は人間味の大きさまで縮小化され、翼も折り畳まれる。
頭部は身体の表面同じく竜形態。
元々より、やや小さくなった見た目は、弱体化にも見えるが、力は凝縮、手加減は最早できない。
空中移動も変わらず可能にしているため、最初の形態よりも空気抵抗少なく俊敏に動くことができる。
(まぁ、奴も空中移動は難無くできるだろうから五分か……勝負の決め手はやはり、我の力と炎──)
「”炎熱砲”!」
破壊砲にも似た灼熱のエネルギーを纏った咆哮は、予想通りニシミヤライトが形成した膜を破壊、衝撃音は外に漏れ出る。
◇◆◇◆◇◆
守護者の翠の力は尋常ではない。
ジュンが守護者最強を自負するだけあって、圧倒的な暴力の化身、体力や防御力も非常に高く、傷を負うことも稀、“半自動治癒”も使用しないほど痛みに強い守護者である。
そもそも、守護者の殆どは“半自動治癒”を使ったら負けだと思っている節がある。反則的な技だというのが共通認識であり、勝負中ではなく勝敗が決した際に発動させることが多いのはそのため。
但し、翠には他の守護者を遥かに超える、有り余るほどの魂魄値がある。
無駄遣いしても無くならいほどの量ではあるが、使用はしない。
選択するのは自然治癒。
彼女がここまで頑ななのは、紅蓮に対抗心を燃やしているからでもある。
事細かく全員の基本値を知らされているわけではないものの、魂魄値だけは誰がどのくらいあるかは周知されている。
紅蓮と翠の量は然程変わらず、翠の方がやや多いとあらば減らすことはできない。
それに、対抗心を燃やせば燃やすほど、その対象の動きや能力は熟知されるわけで───
「何!?」
同じ系統であるドラゴの攻撃を防ぐのは容易。
勿論、魂魄値の減少を最小限に留めるにあたり(高速飛行に使うため)、ダメージを負うことはできない結果、能力を発動した翠の身体を覆うのは、激しく渦巻く暴風。
能力“暴嵐─世を拓く者─”によって、無空間に嵐が巻き起こり、戦闘は熱を増す。
◇◆◇◆◇◆
観戦しているジュンは、ストーキング男の接近を気にしつつ、お喋りの絶えない彼の解説に耳を傾けている。
「翠という守護者、かなりの強者ですね。もしかして、我が君の懐刀ですか?」
「まぁ」
「ふむふむ、なるほど。これはまた難攻不落、あのドラゴが手を焼くとは思いもしませんでした。ドラゴの能力は“竜人化”といって、身体を硬度な竜人にする以外に特殊効果が2つあります」
「ほう?」
(なんで、あんたが知ってるのよ)
「1つは攻撃に必傷を上乗せするというものです。攻撃が必ず当たるというのではありませんが、当たれば防御無視のダメージを与えます。もう1つは、火炎攻撃の効果に麻痺が付与されるというものです。この場合、火傷効果は無くなるそうで、全て今の形態になって初めて効果が発揮されます」
「……ほう」
(詳しすぎでしょ。取扱説明書でもあるの?)
「私が、こうも詳しいのはドラゴが自分から説明してきたからでして……曰く、能力を開示した方が後がないため覚悟できるのだそうです。今回は決闘という名目なので本人には教えていないのでしょうけど、そんな事は関係ないくらいに押されっぱなしですね」
「うむ」
(へぇ、そう。教えてくれてありがとね。説明、ご苦労さま。うちの翠が負けるわけないじゃない)
「一応確認しますが、私と彼女ではどちらか強いと思いますか?」
「翠だ」
「即答ですね……ふふっ、まぁ確かに私もそう思います」
(なら聞かないでよ、面倒ね)
ストーキング男との会話は気疲れが多い。情報源という意味では価値ある男ではあるが、好きではない者と長話はしたくない。
ここは早々に切り上げ、応援一択となるもしかし───
(もう、終わりそうね)
決闘は終盤に差し掛かっていた。
◇◆◇◆◇◆
【聖なる九将】序列第七位、竜人ドラゴは悪戦苦闘していた。
試合じみた決闘は、いつの間にか本気宛ら、但し対する者は最初から表情を変えずに応戦している。
否、防御だけではない。攻撃に転じられる回数は増え、その度に頑丈だったはずの皮膚は剥がれてしまっている。
能力全発動で、より強固となった身体は、暴風の前に為す術無しの状態。
必傷ダメージも効果無し。
麻痺も同様。
0ダメージでなければ、耐性によって防がれたわけでもないのにだ。
痛みに強い───というよりは痛みを感じないという意味合いの方が適してはいる。
(何よりも厄介なのは、あの風だ。嵐が腕に竜巻のように絡みついている所為で、一撃一撃が重い。風圧で速度が増し、斬撃が入り乱れている。気を抜けば、簡単に身体を抉られてしまう!)
事実、所々からは血が噴き出している。致命傷に至ってないのは、ドラゴが実力者というのもあるが、相手が手を抜いている可能性も無くはない。
(ちっ……ッ、ここまで押されるとはな。地位や名誉などあって無きものだが、これでは聖なる九将失格と言われても仕方無いかもしれん……いや、そもそも代替わり……か?)
懸念材料はいくらでもある。それこそ、何年も歳を重ねてきた。能力のおかげで、100年近く生きてもまだ老人枠には入らないが、衰えたとしても変ではない。
ただ、それは理由にはならない。王だから、というような重みを背負っているからではない。
純粋に、自分はまだ若い方だと思っているからだ。
(気弱になってはいかんな。我は帝王、竜人ドラゴ、【聖なる九将】序列第七位に君臨する者。我はまだまだ生き、人生を謳歌する。ゆえに勝つのは我だ!)
“炎熱爆破”
周囲一帯を炎の光で包み絨毯爆撃、
”火竜一閃”
人さし指で作った一文字で空間を斬る。
火竜一閃は、ドラゴの持つ大技の1つ。
初見で無傷だった者は、過去2人しかいない。
(1人目は現序列第一位、2人目は我の師匠である元第三位。それ程の技、受けきれるはずがない!)
縦一線の閃撃は中央で炸裂する。
すなわち、対象に直撃した証拠。
煙舞う中でも、それは手に取るように───
「──んなっ、何だと!?」
帝王ドラゴが驚愕したのは、炸裂したと思った閃撃が受け止められていたという事実。
「あ、ありえぬ…」
「……」
閃撃は、たったの指2本で白刃取りのように受け止められた上、血は一滴たりとも落ちていない。
そして、相変わらずとも言える表情の変えなさは、恐怖でしかなかった。
「どあっ……」
決闘という概念を忘れ、一文字の火竜一閃を中指も使い、両手で四文字作ろうとしたドラゴだったが、圧倒的強者がその隙を見逃すわけも無く───
「グッ……っあ、まっ──」
詰め寄られ、掴まれた首の下───
「ま…待てっ!」
身動きとれないガラ空きの胴へと───
「“錐突”」
逆手の巻き風纏った一撃は───
「ギッ……ガハッ」
斬撃渦の衝撃波となって貫く。落雷のような衝撃を逃す場所はどこにも無く、意識遠のく帝王ドラゴ。首根っこ掴まれたままの竜人は、最早竜とは呼べず蜥蜴のよう。
これにて闘いは決し、帝国の、帝王ドラゴの行く末も決まったのだった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




