第76話 一般人の意見
殆ど挨拶だけで終わった会談の後、王の間から別室へと移動してきたジュンたちは、今後の段取りについて練り直している。
ルドルフも一緒になって話を聞くが、本当に聞くだけ、意見はしない。
(私は一般人……いや木!もしくは空気!触らぬ神に祟りなしだ。ここは、口を開けない方がいいだろう)
シズクが断らなければ、代わりにルドルフが連れて来られることもなかった。
(メイド長は承諾しかけてたのにシズクがいらないことを言うから──まぁ、帝国の内情を知りたいという意味であれば2人が適切でないのは分かるが、そうは言っても私である必要はなかったはずだ!)
メイド長フィが淹れた熱すぎる茶が、まだ残っていると思うと危なっかしさしかない。机の周りには書類が山積みだったはずで、何かの拍子に、掃除の合間に、倒れたりでもしたらと思うと気が気でない。
(せめて、片して来るべきだったか……いや、そんな時間なかったな)
強引に意味の分からない空間に入れられ、気づいた時には帝国に到着していた。
能力者と非能力者(一般人)に差があるのは不憫でならない。
(確か…にゅーげえとって言ってたな。技の1つらしいが、化け物級だな)
その“新界”で亜空間を通っている最中に、帝国から提示された友好条約の内容について説明されたが殆ど頭には入らず、亜空間を抜けた後に小声で紫燕に聞いていたのを陰牢に見られていたのを思い出すと、今でも肝が冷えてしまう。
(いやぁ、あれはビビった。また失禁するところだった。シズクから話を聞いているのもあるが、会う度に恐怖してしまう。私の命など簡単なことくらいは分かるが、近くに居なくても、いつも視られてる感があるんだよな。陰牢様は怒らせないに限る)
だから陰牢ではなく紫燕に聞いてしまう。
加えて言って、零に頼れないのは、心友のグラウスから話を聞いているからだ。手紙の成果は、ここで活きている。
(情報通り、笑顔なのに笑ってない人だな。陰牢様とはまた違うが、怒らせてはいけない御方だ──っと!?)
ルドルフが驚いたのは、作戦会議が熱狂して、帝王ドラゴの悪口も聞こえてくるからだ。
「──そもそも、あのような獣の話を真に受ける必要もないかと存じます。友好は図らず、ここは一手で攻め落とすが無難でしょう。側近含め、好きにはなれません。まだ普通の弱者(一般人)の方が良いです」
この発言は零、物騒極まりない。
「それは良くないと思うわ。群れてないとはいえ、【聖なる九将】は一筋縄じゃいかない。世理の観測でも【聖なる九将】の情報だけは入手できてないのよ。ここは、ジュン様の判断に任せましょう。相手方の人相が嫌いっていうのは同感だけどね」
この発言は陰牢、的確な説明だが、最後は一緒。
「でも、竜人って格好いい部類だと思いますよ。蛇人や鬼人も普通じゃないですか?──あぁ、私は他の人の意見も聞いた方が良いと思います」
この発言は紫燕、ベストな回答。
思わずルドルフも心の中でGoodポーズするが───
(えっ……他の人……?)
瞬間、全員が凝視する。
陰牢と零に関しては、グルリと首を反転させることになるので、ルドルフにとっては恐怖でしかなかった。
「ヒエッ………ッ」
「あの程度の者に聞く必要がありますか?」
「まぁ、一理あるんじゃない。彼、頭は悪くないし」
「ジュン様はどう思いますか?」
「紫燕の言を採用する」
またグルリと振り向かれる。
(ヒャッ……や…やだ、絶対言いたくない。こ、ここ殺されるっ……)
「早く発言してくださいノロマ」
「はいぃ!!」
「ちょっと零!最近貴方、言い方キツくなってるわよ」
「そうでしょうか、自分ではあまり気がつきません。陰牢が言うならその通りでしょうが、私は信念を曲げる気はございません。言い方がキツイのであれば、その者が私にとっては不要ということです。それと、同僚の誼で話を聞きますが、私達は基本好敵手であることをお忘れなきよう、宜しくお願いします」
「えぇそうね」
「うわぁ、直球」
「……」
(な、なななんで征服王は何も言わないんだ?これが日常なのか!?だったら絶対に行きたくない。あぁ、グラウスさんが苦労してるのが分かる、分かってしまう。そして怖い、チビリそうだ)
グラウスの膀胱は、ここでもまた限界を迎えつつある。
次、失禁してしまったら、〈失禁王〉に改名しなければならないのは目に見えている。
(それはさすがに……家にも迷惑がかかる。やはり、さっきの移動時に行っとくべきだったんだ)
過去を悔やんでも仕方無い。今は前を向き、話を早急に終わらせることだけを考える。
意見は簡潔に述べる、ということ。
「そ、うですね。私としましても、この誘いは受けて良かったと思います。何故なら、帝王ドラゴは慈悲深いと有名ですからね」
「慈悲深い?」
「ふぅん」
「竜人とは懸け離れたイメージですね」
反応は有り難いが、言葉には棘があるかのようで、少しでも間違えれば首が飛ぶのはルドルフでも理解できる。
ただ、一挙一投足の振動さえも怖くなる時間帯。
(ふっふっふぅ、落ち着けぇ。まだ大丈夫だ。話終えたら駆け込めばいいのだ)
「他には?」
「あ…あのぅ、それとですね、帝王ドラゴは王に即位して以降、戦争という戦争をしておりません」
「戦争国家ネルフェールとは、一時期揉めてなかったかしら?」
「ですが、帝国から侵攻したという記述も記録も残っていません。国境付近で応戦しただけです。ネルフェール軍を追い返すだけでなく、領土を奪える機会は何度もあったにもですよ」
「小心者なんでしょう」
「それはあり得ません。事実、20数年前には世界に向け、戦争撤廃の演説をしたと聞いております」
「それなのに、竜人が支配してるとは誰も知らなかったのですか?」
「当時は映像媒体が流行ってはおりませんでした。勿論それは現在もですが……結果、最終的に私達に内容が届いたのは文書にはなります。生で演説を聞いた者もいるとは思いますが、顔を隠すのは容易でしょう。能力者なら尚更ご理解いただけるのでは?」
「ふむ」
(よ…よぉし、あと一息)
「守護者様方の心配も良く分かります。したがって私達は、あのリカクとガンキやらと事が終わるまで待っておきましょう。それくらい、帝王は許可してくださると思いますよ」
(これは賭けだ、能力者の強さなんて分かったもんじゃないが、帝王が紹介したのがあの2人だけなら、他に強い者はいないはず……)
「採用しよう」
「あ…有難き幸せ!」
ルドルフは天にも昇る気持ちになった。ついていく気は更々なかったが、案外征服王も悪くないと心から思えたのである。
但し、征服王を守護する者たちに気に入れられてないのは重々承知していた。殺気が、心を抉るかのように刺さるのだから仕方無い。
(よし、一件落着。用を足そ──)
「──中々やるじゃないですか!」
気を緩めた瞬間に、激しく背中を叩かれ───
「ぅんっ……あっ……」
紫燕からの激励を込めた一発は、施錠した門を開錠するには問題なかった。
ジョボジョボと滝のように流れるそれは、硫黄臭を放つ。
「あっ……あっ……」
商国の代表ルドルフは、またもや失禁。紛れもなく、失禁王はここに誕生した。
またしても、紫燕の前でやらかしたのは不遇でしかない。
その紫燕は『嬉ション、パート2ですね』っと、至って真面目に言っていた。
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