第75話 ドラゴニアス帝国
ドラゴニアス帝国から文書が届いた翌日、組織【S】の者達、ジュン征服王とその守護者らは、早速出立の準備に取り掛かっていた。
迅速に行動できている理由の1つは、この世界の情勢に慣れてきたから。4つの大国と1つの小国を征服したことで、有り余る強さを持った組織は知識と経験を得た。
世理の世界観測でもって、この世界の現状、組織、善悪の情報は概ね取得・解析できたのだ。
【聖なる九将】という組織については、まだ若干知識不足を否めないが、伝手は確保しつつある。
総合的に鑑みても、行き当たりばったり、出たとこ勝負の政治や外交は確実に減ってきているのだ。
もう1つは、周辺諸国を征服してから2カ月近くが経過しても、他国からの圧がかからなかったためだ。懸念していた進軍侵攻は一度も無かった。警戒に当たらせていた兵士には悪気を感じてしまうが、それが彼らの務め、寧ろ平和であったことに感謝してほしいとさえ、ジュンは思っている。
この期間は諸々の準備に充てることができた。何が起きても、どこが攻めて来ようと対応できるようにしていたのだ。
特に内政は順調そのもの。結果それが、ジュンにとっての忙しさに起因し、女体化を模索するまでに至らなかったのだが、時間が無限にあるのを思い出したことで、気が動転せずに済んだのは言うまでもない。
準備に余念がなかったことで、ドラゴニアス帝国からの文書には驚きもせず、瞬時に対応できたのだ。ただ友好条約というのは、裏切りのあった砂漠地帯ジルタフが前例としてあるため、おいそれとは返事ができない。
裏切り行為を防ぐためには、逆に圧をかける必要性がある。友好条約締結の前に、王と会うのを即断したのはそのため。これまで何度も各国の王と面会しては、ダメな方に進んでしまったジュンではあるが、もう失敗は無い。
経験は十分にした。あとは成功体験を築くだけ。
ゆえに勇み足で、ドラゴニアス帝国へと向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆
ドラゴニアス帝国へは、いつもの如く“新界”を利用して到着している。帝国に詳しい者を話し合いの場に連れていきたかったため、途中商国を経由した一行は、代表のルドルフを拾って帝都入りした。ルドルフには心底驚かれ拒まれたが、半ば強引に連れ出している。
ジュンとして、いや早乙女純としては、メイド長のフィと元【聖なる九将】所属のシズクに興味があったのだが、日々の業務を理由に断られた。
(陰牢が言うには、それは単なる口実で、自分に会いたくないだけらしいけど、それってどういう意味?征服する時が関係してる?痛めつけたりとか………あり得るわね)
ジュンの回答は半分正解。
痛めつけ、更には誓約を交わさせている。
この事から分かるように、連れている守護者は陰牢に加えて情報収集能力の高い紫燕、そして同行を懇願した零。
激務な零がそう願ったのは、ここ最近一人仕事が多いからである。久し振りに、ジュンと他国を訪問したいという気持ちには、ジュンも嬉しさ隠せないほどに直ぐに承諾した。
(可愛い所あるわよね。私が女なら抱擁してからOKサイン出すんだけど、叶わなかったのは残念、いや無念。それに本当は全員で行動したいくらいなんだけど、適材適所はあるもの、仕方無いわよね)
他の守護者も同行願いを出していたのは言うまでもない。
断ったのは、それぞれに仕事があるからだ。
紅蓮は砂漠地帯ジルタフに定期的に赴く必要があるし、夢有と唯壊にはペータン教の定例会が数日後に控えていた。
世理と翠は言わずもがな、月華と式に至っては、零の仕事を代わりにできるはずもないのだが、国の統治だったり守り手は必要であり、柔軟に動ける者を後ろに控えさせておくという意味でも待機してもらっている。
敢えて付け加えて言うが、ジューーンとして参加しているリーダー決めは、その次の定例会後に開催されるため、今回ジュン自身がドラゴニアス帝国に訪問する事には何も問題ない。
(つまり、憂いはないのよ。さぁ、この国の王に会っちゃいましょうか)
守護者3人に加え商国のルドルフを連れたジュンは、意気揚々と入城する。
◇◆◇◆◇◆
応接室ではなく、そのまま王の間へと案内されるも、王はまだ来ていない。
(待たされる感じね)
ふと横に目をやるジュン。ここまで歩かされる時も、時折目にしていたが、眼下の街や住人の雰囲気は、どれも安定していると感じ取れた。
(治安は今までで一番いい。ジルタフは王都だけだったけど、この国は恐らく全域まで健やかに過ごせていそうね)
そういう意味で言えば、現在の統治や将来の繁栄のために参考になるかもしれないと思える。
勿論、王が話の通じる相手であることが前提条件として必要であるが、それを払拭───いや、笑い飛ばすかのような面子が、ゾロゾロと歩いてくる。
(ホントに!?アレが王??側近も?)
前方を歩く者は蛇。蜥蜴にも似ているが、足は無く、靭やかな身体に腕が2つ生えている。
顔の形は爬虫類そのものだが、目と口そして黒い髪の毛は人間っぽさが残っている。
杖とでも言うべきか、杖の先に丸い球体を装飾した、所謂魔法の杖を連想させるかのような武器を携行している。
後方を歩く者は鬼。角と牙は特徴的で、信じなければ鬼のお面を被っているかのよう。
体躯はよく、蛇の男同様に体長は2m弱。身体の半分ほどはある棍棒を軽々しく持ち上げている。
その間に挟まれている者、中央を歩く者は体長2mを超えた二足歩行の赤い竜。吐息には若干、火が混じる。身体は鋼のように硬く、ゴツい。尻尾も生え、重量感ある歩き方からは、威厳と風格を漂わせる。折りたたまれている翼を広げれば、体長3mを優に超えるのは想像に難くない。
(はっ、異色すぎて笑いもしないわ。この世界に魔物の概念は無いはずだから、この3人はきっとそういう能力持ちってことね)
赤い竜が王の椅子に座し、蛇と鬼はその脇に立つ。肩肘を付いた赤い竜が口を開いた。
「我は帝国の王ドラゴ、横の者はリカクとガンキ。我は【聖なる九将】に所属しておる。序列は第七位だ」
「!?」
この発言に全員が動揺するのも無理はない。急すぎる、爆弾投下もいいところ。
「包み隠さず話すのですね」
「まぁな。城内に知らぬ者は居らぬし、国民も一部は知っておる。他国民も噂話は聞いてただろう、なぁルドルフ?」
名を呼ばれたルドルフは一瞬だけ強張るが、平常心に戻ると返答し始める。
「そ…うですね。眉唾でしたが、真実と分かり恐悦至極にございます。【聖なる九将】によって統治されていたならば、国が安泰だったのも頷けます。私のような者の名前をご存知だったのも驚きですが、できるなら今後ともご贔屓にしてもらいたいところです」
「はっはっは、嬉しいことを言う。だが、申し訳ない。貴国が征服王の属国となった以上は、今後は商売相手を変えねばならない」
「仰るとおりです」
「ああ、ゆえに征服王……いや、ジュン征服王殿、此度は遠路はるばる我が国まで来てくれたことに感謝する。我が送った友好条約の内容は目を通してくれたか?」
「ああ」
「それは僥倖──して、返答はどうだ?」
「見定め中だ」
「はっはっは、面白い事を言う。気に入ったぞ、ジュン征服王。今宵は、2人で酒を嗜むのも悪くないと思うが、どうだ?」
「……いいだろう」
「はっはっは、決まりだな!リカク!!」
「はい!」
「小宴の準備を頼む」
「承知しました。とびきりの物を用意します」
男と二人っきりで呑みたいなどとは全く思ってなかったジュンではあるが、【聖なる九将】の情報を聞き出すには丁度良かった。
問題があるとすれば、寡黙設定の自分がどこまで相手に話をさせるかという一点。
それと今回は絶対に酒に飲まれないよう、“自動治癒”は解除しないよう臨む必要がある。
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