第65話 暗殺者の最後
リックたちを迎撃したダリィは、そのまま王宮へと向かう。ダリィの任務は、王族の暗殺及び自警団の衰退。出身を隠して3年前から自警団に所属したのはそういう理由だが、潜入を始めてから数ヶ月後、任務内容は変更された。王女を含む王族の殺害は無くなり、国王のみの暗殺に切り替わったのだ。
というのも、現王女が自警団による影武者であることを、所属後数ヶ月で知らされたからだ。ダリィの上司が変更を余儀なくするほど驚くのも無理はない。当のダリィも、全く気がつかなかったほどである。
この国の王女、国王の血を引く正統王女はヤンだ。活発的で自由に国を周ろうとするやんちゃ娘を、国王が身を案じ、11歳の時に別人と入れ替えさせた。影武者に抜擢されたのは、ヤンの友人モモ(当時9歳)。
ミズキも、その頃からの友人となるが、モモの能力“幻惑の窓”は、人を騙し演じるには最適な能力だった。ヤン自身が、王都内よりも砂漠地帯へと外出することが多くあったことも幸いした。顔をはっきりと知る国民は少なく、認知度はあってないようなものだったため、影武者は成立してしまったのだ。自警団の団長が王女である事実を知る者は、国民の中にも居るには居るが、誰も告げ口はしない。
ヤンという人物が、慕われている証拠でもある。
更に、ヤンは強い。Sランクの能力者は、この国で最強格と言える。正統後継者が暗殺対象から外され、国王のみに変更された理由はそれだ。
ダリィでは勝てない。
しかし、それでは王を殺害したとして意味が無い。ダリィもそう思ったのだが、当時の任務変更連絡時に、『裏から政権を牛耳るため、力だけの能力者は脅威ではない』というのを上司から聞いたことで、王都内には他にも潜入している者が存在すると判明した。
だから、今日まで逆らわず従順に潜入任務を熟してこれた。
だかそれも、間もなく終わる。
自警団は壊滅状態。脅威だった団長のヤンと副団長のミズキは、組織の計らいで、ここにはいない。王宮内の道という道も全て把握済みであり、隠れそうな場所には罠を仕掛けている。普通の兵士では盾にもならず、任務が失敗する可能性は0に近い。
しかし、それでも安心はできない。
つい先ほど、自警団のナタリーが能力を発動したからだ。近場の誰かが援軍としてやって来る可能性はある。各個撃破すれば良いだけの話であるが、どうにも腑に落ちないことが1つある。王宮内に入ってから、兵士以外は誰とも接触していないのだ。王族は雲隠れしたかのように消えてしまっている。
(どこだ……?)
室内は全て確認した、逃げ隠れる場所もだ。
にも拘らず、能力の感知にも引っかからない。
(あとは……中庭か)
広く開けた中庭に到着すると、中央の噴水に、ぐったりと倒れている者達が数人いるのを目視した。
彼らは息をしていない。離れていても、察しられた。彼らは確実に死んでいる───そう思っていたのだが、幽霊のように起き上がる。ただ、生きているとは言い難く、首を曲げ、白目を剝いたまま突撃してくる。
「ッ!だるっ!」
空中を悠々と舞う死体たち。彼らを全て捌いた後、起こるのは水も止まるかのような静寂。これが陽動なのは手に取るように分かる。相手が誰か、何の能力かは不明。はっきりしていることは、死体となった者達は皆、ダリィとは面識があった人物ということ。
(裏から牛耳る作戦は露呈していた……のか?)
政治や外交を操る目的で、ダリィよりもずっと前から潜入している者達である彼らとは、最近面識を交わしたばかり。国王と常に一緒にいる彼らが、ここで殺られているということ、それはつまり自分にも危険が迫っていることに他ならず─────
ズゥン!っと、振動が、圧が、氣が、上から重く、のしかかる。
「ぐっ……ッ!」
耐えられずに膝を付いてしまう。その眼前、空からスゥーッと誰か降りてくる。
「はぁはぁ……っ、あんたは…」
「どうも、初めまして。命乞いがあればどうぞ、お構いなく」
世間一般では、蒼髪の王子と名を馳せるニシミヤライト、その人だったのである。
◇◆◇◆◇◆
息切れを起こしかけているダリィを見兼ねたニシミヤライトは、1つ指パッチンする。すると、この場の中心に掛かっていた負荷は一瞬にして消え去り、楽に呼吸ができるようになる。
「あなたがダリィさんで間違いないですよね?」
「……」
「そうですか。実はですね、ナタリーさんの救難信号を受けまして……遥々ネルフェールからやってきた次第なんですよ。ああ、ご安心ください。ナタリーさんたちは生きていますよ。今、ミナミさんが手当てしています。ところで、お聞きしたいのですが、何故彼女たちを生かしたんですか?」
「……」
「ふむふむ、ナタリーさんはお優しいですよ。自分よりも、あなたを救って欲しいと仰ってました」
「……」
「普通ならナタリーさんの意見を尊重するでしょう。男なら誰でも、可愛いらしい女性に心動かされるものです──が残念ながら、私は普通ではありませんので、あなたを救うなんてことはできません。私の好みは同性ですからね」
「………ふっ、はは!久々に笑ったよ、蒼髪の王子、いやニシミヤライト。俺はあんたが誰か知ってる」
「それはそれは、あなたも私のファンでしたか、それはざ───」
「違う、いや違いますよ、ニシミヤ様。俺は…俺たちは同じ組織に属しています」
「ほう」
「聖なる九将、俺の言っている意味分かりますよね?」
ダリィの質問は、この場の空気を変えるに効果的だった。負荷もまた少し、掛かり始める。
「っ……」
「あれは組織とは言いません。単なる自由気ままな強者達の集まりに過ぎないですよ」
「ぐっ……ッ、ふぅ。それでも……民意は、世界は聖九に左右されます」
「それも昔のことです」
「いいえ違います。現に、この国ジルタフは動きました。敵対してたはずのネルフェールと手を組み、突如現れた征服王を名乗る人物たちを挟撃しようとしています」
「それは、あなたの頭が厭らしい奴なだけでしょう。私は違います」
「もう俺の上司が誰か分かっているようで……、そう俺は、聖九序列第四位ギルテ様に仕えています。直属の上司は4人の隊長格の一人、ルゥ様になりますがね」
「一番のネチッこさを誇りますからねぇ彼は………、それに配下の数も多いし、あなたの情報が少なくても、だいたいどこの所属か分かるくらいですよ」
「ええ、だからこそ頼みます。序列第六位ニシミヤ様、是非とも俺に加勢を、もしくは任務を果たすため、ここは見逃してください!」
負荷が重くのしかかる中、ダリィは頭を下げ懇願する。
“異物看破”は今、意味を成さない。範囲10mでは、捌けないほどのエネルギー総量。骨が、神経が、軋んでいく。
「うっ……ッウ!」
「ギルテの配下共は本当に面倒です。教養も備わっているし、礼儀正しい。これが、野盗のような粗暴な輩だったなら楽に殺せるのに…、多少の愛着が出来てしまう」
「っ、はあはぁ!」
ニシミヤライトは再度指パッチンして負荷を止めた。だがそれもほんの一瞬、今度は逆に空へと飛ばされる。地上は見えなくなり雲の上へと運ばれ、足はつかず、自由は利かない。念力のような力で覆われ、一定範囲から動くことも許されない。宇宙空間という概念がこの世界にあるかは微妙だが、まさにダリィはそれと同じで、手をバタバタとしている。呼吸もままならなければ、声も出ない。
「あなたにいくつか質問します。答えはYESかNOで、ジェスチャーでも構いません」
打つ手の無いダリィは従うしかない。
「1つ、噴水の彼らを殺したのはあなたですね?」
(ん?……NO)
「2つ、彼らとあなた以外に潜入している者は、この国にいますか?」
(NO)
「3つ、ナタリーさんたちにトドメを刺さなかったのは、情が湧いた所為ですか?」
(……YES)
「なるほどなるほど、まぁこの質問は全て意味の無いものなので、気にしないで下さい」
3度目の指パッチン、空気は圧縮していく。
「あ……がっ……ッ」
「仮死状態というのはご存知ですか?残念ながら、彼らはまだ死んでいなかった。殺したのは紛れもなくあなただ」
骨が軋み、神経が切れ、脳は割れるよう。
「ぎ……ぐっ……ッ」
「ギルテの配下が、あと1人と知れてよかったです。私はあなたのように感知には優れませんからね。あなたが殺った仮死状態の彼らとも、偶然出会っただけですしね」
穴という穴から血が出始める。
「アガァア!イャ……」
「3つ目を聞いたのは、殺し方を考えていたんですよ。死体を残すか残さないかで迷ってましてね。今回は残さない方法でいきます。ナタリーさんたちには雲隠れしたとでも伝えておきますので、ご安心ください」
身体の節々があらぬ方向へと折れ曲がっていく。
「ギッ……」
「ダリィさんは、宇宙をご存知ですか?」
4度目の指パッチン。澄んだ雲の上に闇が広がる。
ニシミヤライトの能力“重力操作”、その技の1つ“崩壊世界”が、壊れゆくダリィの身体を飲み込んでいく。
「ウアアアァァ……」
後には塵1つ残らない。空はいつもと何ら変わらない。
「さて──と、ナタリーさんたちに報告した後は、彼を連れていきましょうかね」
服の埃を振り払い、これから起こるであろう出来事に思いを馳せるニシミヤライトは、満面の笑みを浮かべ、地上へと降りていくのだった。
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