第64話 激化
地下遺跡の戦闘も激しさを増していた。
砂塵が舞い上がり、水流はうねりを上げる。
その2つを、業火が喰らい尽くす。一進一退の攻防にも見えるが、依然劣勢は自警団のヤンとミズキ。
紅蓮の炎に手を焼いている。
「参ったね……」
加えて、炎で形成された大竜巻が周囲を覆うように蔓延り、剣撃の回避も難しい。そもそも、剣と短刀では距離が違う。
熱された剣なら尚更、近づきにくい。
ヤンが短刀使いの専門家だったとしてもだ。数の優位を活かせない状況に陥っている。
「つ……ッ…は!」
この場所が地下空間というのも多少なり影響している。
天井があるというのが、こうも逃げに不利に働くとは思ってもいなかったのだ。更には遺跡破壊も起きているという状態。戦いの余波で建造物が壊れるのは、ヤンにとってあまり宜しくない。
この場所に思い入れがあるわけではない。ただ純粋に国の財産だからだ。
確かに、用意周到に罠を仕掛けたのもヤン、少しばかりの財宝を用意したのもヤン、この計画を王に申し立てたのもヤンだ。
だからといって、破壊されることを容認できないし、遺跡を放棄することも決してできない。よってこの場を、戦場を地上へと移す必要がある。
「いッ……たいねー!」
「そうか」
紅蓮は相変わらず余裕の表情。逃げられないようにと、大火炎竜巻を生み出す以外、技は使用せず、剣技のみで圧倒している。
「そろそろ、疲れてきたか?」
「いや、まだだね。あたしらが、これくらいで降参するわけないさ」
「だろうな、無事に降参させる気も無いがな」
地下空間に剣撃音が響く、絶えず、ずっと。
「む?」
「な?」
「え?」
金属の擦れ違いとは別に介入したのは、耳飾りを媒介に伝搬した通信。
ミズキは耳元を押さえ、ヤンと紅蓮は懐を確認、この地にもナタリーの声は届いたのである。
ここに来て初めて戦闘も止む。
「お仲間からの通信じゃないか……、いいのか?」
助太刀の有無を紅蓮はヤンに確認したのだ。
「ひ──つよう無いね、あたしらに届くってことは、他の者にも届いてる証拠さ」
「まぁ、王都までは距離があるか。これで貴様は飛行も転位もできないことが知れたわけだ。あのナタリーとかいう娘には感謝せねばな」
「言うねぇ。まるでもう、あたしらに勝ったような言い草じゃないか」
「勝ったようなものだろう。差は歴然、それは貴様も既に理解したろう?」
「いーや、してない。勝つのは、あたしらさ。それを証明してあげるからさ、上に行こうじゃないか」
「地上に出ても何も変わりはしない。魂胆も目に見えている。貴様達が、私をこの地で抑えようとする理由は不明だがな」
「違うね、倒すんだよ」
「ほう、楽しみだ」
誘いに乗る紅蓮は先に移動、ヤンとミズキも、その後を追うように階段を上がっていく。
仲間の救援は放棄するのではない。ヤンはナタリーの実績を信頼している。見ず知らずの誰かが助けるかどうかは、天運を信じる他無いが、これまで多くの人達に耳飾りを渡しているナタリーならば、まだ希望はある。
逆に、この地、この戦場に希望は無いに等しい。しかし、負けは許されない、勝利しかない。
国の未来のため、明日の仲間のため、王族として、一層決意を固めたヤンは、より戦場に身を投じるのだった。
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