第56話 月華 VS 直属近衛兵
夢有が第4関門所に到着した頃、月華は第1関門所で一人戦闘を開始していた。ジュンの読み通りに、関門所の破壊というよりは軍の制圧を中心に動いている。
月華の攻撃は殺傷力が低い。
武術では死に至らしめることができない。それこそが月華、最高峰の能力者ジュンにより創造された者の名。
ゆえに気絶させる程度に留まりながらも、一人ずつ着実に倒していく。泡吹く兵士を増やす傍ら、壁や建物へと近づいた時には必ず気功を打ち込む。
(塵も積もれば山となる、だよ)
意識ある兵士達は困惑状態。何をしているのかと、不思議に目をパチクリさせては、壊れるはずのない壁へと打ち込むその姿を嘲笑う。
兵士達は、ただ拳を痛めるだけの行為としか思っていない。
(いくらでも笑うがいいよ、ボクは必ず破壊任務も成し遂げてみせるから)
勿論、笑った兵士は処罰対象、普通よりも重たい一撃が入る。
月華の能力“組み込み武術”は、基本的に1対1の時に使用することが多い。
“組み込み武術”を複数人に使うとなると、全員倒しきるならば良いが、そうでない場合は隙が生まれる可能性が十分にあり不利に働く。
多勢を相手する時は普通の体術・武術のみを使用して、能力は発動させない。毎日鍛錬するのは、能力者としての技を磨くためだけではないのだ。様々な状況を想定して臨機応変に対応できるようしている。
「ハアアッ!!」
「ギャ!!」
また一人、また一人と倒していく。女だからと侮った兵士達の末路は暗く、後退も出始めるが、敗戦を喫するとはまだ彼らの誰も思ってはいない。
何故なら、この地にも暴君ヴァルカンの直属近衛兵がいるからだ。間もなく、この場の月華と接敵する。
◇◆◇◆◇◆
第1関門所管制室にいるのは、2人の老兵。暴君ヴァルカン直属近衛兵のギーラとコロッカスだ。
どちらも頑固な老害としては有名で犬猿の仲。全盛期はAランク能力者でもあった二人に、駐留軍の兵士達も頭が上がらない。
「若いのが遊びに来ているようさね、コロ爺」
「そのようじゃのぅ、ギーラばぁさん」
「あ゛ぁん!何だって?」
「やれやれ、耳も遠くなってしまったか」
「私はあんたより3つも若いんだよ!四捨五入したって私はまだ60、あんたは70だ、糞ジジイ!」
「あまり変わりゃせんよ」
「変わるね、数も数えられなくなっちまったのかい、老いるのは怖いねぇ」
「……わしと殺るのか、ギーラ?」
「それもいぃけど、後回しさね。今は──」
絶えなかった言い争いを牽制したのは、管制室に雪崩込んだ兵士。侵入者は手に負えないと訴えてくる。
「では───、行くかの」
「指図はしないで頂戴」
剣を持つ老害と杖を持つ老害。普段は険悪ムードな2人を知っている兵士達は、今日ほど、その背中が勇ましく思える日はなかった。
◇◆◇◆◇◆
「むんっ、ふんっ、とりゃぁ!」
掌底が、回し蹴りが、踵落としが、炸裂する。次々に薙ぎ倒されては、壁に激突する。気を失っていない者には追加攻撃、壁もろとも打ちつける。
「ん〜〜、そいっ!」
数人の兵士達が一度の掌底で吹き飛ばされる。木製の扉如きでは彼らのクッションになり得ない。
(さて……ッ、とぉ?)
兵士達を退かして現れたのは老兵2人。
(ここの大物は、あの人達で間違いなさそうだね)
それぞれ武器を構える老兵。人数差ある能力者同士の戦いは以前もした。バルブメント王国東部を制圧した時は3対1、それでも不利にはならず勝利した。
熱い戦いをした、あの女斧戦士はもうこの世にいないが、それと同等ランク以上はあると、月華は感じていた。だから老兵とて甘えはしない。2対1の状況ならば、尚更。
「おいたが過ぎたね、小娘」
「この程度に負ける軍とはのぉ、落ちぶれたものじゃて」
月華も構える、そして───
「道場破りにやって来ました!所属は【S】、名は月華!いざ、尋常に勝負!」
いつものように、口上を云う。
◇◆◇◆◇◆
剣と杖の猛攻を防ぎつつ反撃する展開になると踏んでいた月華の予想は大外れ、剣使いのギーラと1対1で戦っている。サシ勝負は望むところも、違和感に気づく。
(あれは……詠唱!?)
その僅かな隙を、歴戦の猛者ギーラが見逃すことはない。
「2つの値─火炎─」
炎撃が、防具を着用していない月華の横腹を打ち抜く。
「イ……ッたあぁぁ!」
咄嗟に防御体勢に入った月華は自らの腕で撃を防ぐも、大きく仰け反ってしまった。
「フンッ」
ギーラの能力は“2つの値”、彼女のみが視える数値によって攻撃の度合いが変わる。
常に変動する威力数値と命中数値を止めた際、それぞれ100に近い数値を出した場合、高火力を引き出せるというもの。
ギャンブル性が強く、タイミングの悪い場合は威力大でも命中しないといった問題が起こり得る。さながらゲーム感覚に近いが、彼女は別に転生者ではない。ネルフェールが建国される以前から戦場を渡り歩いてきた猛者だ。
ちなみに、今の数値は威力50%に命中80%といった値で、ここの兵士ならば気絶はしているし、場合によっては死んでいる。
但し、どちらも出血はしない。
それは、月華も同じ。
出血しなかったのは月華が頑丈だったのでもなく、威力数値が低かったという理由でもない。ギーラがなまくら剣を使用しているからだ。
いつしか研ぐのを止め、鋭利だった剣は錆付いた。60歳を過ぎても尚、身長が高く、経験豊富でプライドが高い。尖っていなくとも並大抵の相手なら、錆付いた剣で倒せてこれた。
月華はギーラの自尊心に救われたのだ。
「あんた、硬いね」
「鍛えてるからね」
ただそうはいっても一撃は重く、月華にはしっかりとダメージが入っている。
(想像以上に、このおばさんパワー系かも)
受けた箇所に切り傷は無くとも痣はできている。不意打ちだったとはいえ、防御した状態でこの威力ならば、クリーンヒットした時はどうなるか。真っ二つにはならないだろうが、致命傷となる確率は非常に高い。
(ふぅ、大丈夫。ボクは負けない。一人ずつ倒す。集中する……)
月華が能力を発動しかけた、丁度その時───
「待たせたのぉ」
ボンッという音と共に召喚されたのは、白い狼にも似た獣。
コロッカスの能力は“白き猛獣”、二足歩行の獣を召喚し、使役することを可能とする。獣の爪は鋭く尖り、切り裂かれれば出血確定。ギーラのなまくら剣とは違う。
「白き猛獣、行くのじゃ」
「ガルルルアアァ!!」
吠える猛獣が加わり戦況は2対1───いや、コロッカスも入れて3対1、絶賛な不利な状況と言えるも彼女、月華は絶望しない。
「よし!」
パンっと両手を1つ叩き、頬と太腿も叩いてく。
「まとめて相手します!」
守護者の中でも特にポジティブ思考の持ち主、月華にとっての激戦は始まる。
◇◆◇◆◇◆
剣を弾き、爪を捌き、杖をいなす。考えるよりも感覚で相手する。
「はっ………ッ!」
続く猛攻、息をつく暇もない。
「くっ………ッ」
攻撃に転じれない。組み込み武術はまだ発動できないる。
「ぎっ………ッ」
次第に防御は崩れ、ダメージが入る。
「2つの値─雷轟─!」
「白き猛獣よ、2連爪じゃ!」
連携技が決まり始め、防戦一方、痣は増え、出血する。
「吹き飛べ、2つの値─風刃─!」
防御の上からみぞおちに、威力数値100%命中数値100%の撃が入る。
「いッ───ッ」
爆発にも似た音は、壁を貫通し、破壊音。その距離、数十メートル。関門所内の建物が1つ崩れていく。
ズシイィィンっと、地盤沈下が起きたかのように真っ逆さまに堕ち瓦礫に埋もれる。
「はっ!他愛ない、私にかかればこの通りさね」
「いやはや耄碌しては困るのぉ。どう見ても、わしの白き猛獣の攻撃が致命傷だったじゃろ」
「はは!だったら、このまま勝負するかい?」
「ふっ……、それも良きじゃな」
勝利に酔いしれ笑う老兵達。土埃舞う瓦礫の山の呟き声は聴こえない。
◇◆◇◆◇◆
月華は初めての死線を体験している。
(ふぅ……)
瓦礫内は薄暗く冷たい。さっきまでの熱気が嘘だったかのように、静けさも感じている。
(アレはだめ、まだ許可が降りてない、それは皆一緒……なら、やっぱり……)
ブツブツと独り言のように声を発し出す。
「①番と⑦番──のあとに⑥番、次に⑫番と⑲番……」
否、これは、攻撃手順の読み上げ。
固まる手順。
連動し始める身体。
ミシミシと骨が軋んでも関係ない。
痛みを感じるのは後、除去も全て終わってから───
ドカンっと、瓦礫の山が吹き飛ぶ音に反応したのは全員。
信じ難い光景を目の当たりにしても動じないのは老兵のみ、反して兵士達は慌てふためく。
「ボロ雑巾じゃないかい、まだやるのかい小娘?」
「連戦か……こうも日に気力を使うのはのぉ。ギーラ、ここはわしに譲れ、引導は、わしが渡してやろう」
「分かったよ、コロ爺に譲るさね」
会話中、月華はずっと、ぶつくさと呟く。
その言葉は老兵の耳には届いていない。
「正気を失ってるようじゃな、可哀想にのぉ。これにて終いじゃ」
「ガルアァァ!!」
吠えた白き猛獣は飛び掛かり、月華の首を狙う……しかし───
「①番───っと、⑦番」
「ギャンッ!」
「なぬ!?」
攻撃を躱した瞬間に放つのは拳による殴打、それは見事に決まる。
それもその筈、組み込み武術には必中効果がある。
①番は回避系、⑦番は反撃系。
「⑥番」
「ギャンッ!」
「⑫番と⑲番」
「ギャンッ、キャイィィン!」
⑥番は突攻撃(今回は右脇腹手刀)、⑫番は膝攻撃(跳び顎下打ち)、⑲番は上段蹴り攻撃(左回し蹴り)。
「な、なんじゃこやつ、急に滑らかな動きをしよる」
「…………」
流動性を帯びた技。
組み込み武術は敵の情報や動作を知覚し終わってから攻撃手順を考えるため、発動までに時間がかかるが、発動してしまえば有利に働く。
「おい、ギーラ加勢せんか!」
言葉を無視するギーラ。
食い入る様に見るのは、変化した小娘の動き。
「②番と④番」
「ギャッ──フゥーン……」
②番は拳攻撃(今回は左横腹突き)、④番は掌底攻撃、連撃により、召喚獣は消滅する。
「な…待て──」
「①番と⑦番」
「オブッ!」
顔面に渾身の一撃を受けたコロッカス。気絶し倒れ行く反対側、背には最後の老兵。
「はっはっは、いいね小娘、精神集中してやがる。こういう時はね、相場は決まってるもんさね───さぁ、一撃だよ!」
呼吸の暇を与えないかのように飛びかかるギーラ、彼女の感度と動きも絶頂に至る。
「2つの値───」
「⑧番」
「──重岩!!」
ガキイィィンっと、金属と金属がぶつかり合うような衝撃音。
「……っは!!」
⑧番は防御系。
両腕を交差して正面から剣撃を受け切った月華、地面は砕け、沈みかけるも眼光は見開く。
地に足がついていないギーラに対し────
「④番」
一呼吸、大きく息を吸って放った掌底は───
「うっ……ガハッッ……ッ!」
最後の老兵を貫き飛ばすには十分な威力だった。
壁に打ちつられ、衝撃は伝心していき、全域に広がってはひび割れていく。
そう、第1関門所は遂に崩れたのだった。
作品を読んでいただきありがとうございます。
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