第55話 夢有 VS 直属近衛兵
暴君ヴァルカン直属近衛兵のニグレットは走っていた。彼は定期巡回で、第3関門所を訪れていた者の一人である。
戦争国家ネルフェールの暴君ヴァルカン直属近衛兵はA〜Cランクの能力者で、D以下のランク帯は近衛兵ではなく、各軍隊への配属となる。近衛兵というだけあって基本は王都近郊を守備している彼らだが、定期的に各地の関門所に赴いては、軍を訓練させたりと暴君ヴァルカンを警護する以外の任にも就いている。
これが罷り通るのは、暴君ヴァルカンが能力者として強いからである。そうでなければ、王族の傍をわざわざ離れる必要は無い。
傍に居ない近衛を近衛と言うのも可笑しな話になるが、暴君ヴァルカンは独裁者でもあり、誰も逆らえない。
暴君の言葉は絶対。
よって、直属近衛兵の待遇は良く、名声も高い。 ニグレットもBランクに所属する自分には自信を持っていたほどだ。同時に近衛兵の中では悪くない立ち位置でもあり、いつかは楽な人生を歩む設計を立てていた。
しかし、その夢は今、崩れようとしている。
第3関門所が破壊され、一緒に行動していた仲間たちは儚くも散ってしまった。肉塊が足下に転がってきた情景は今尚蘇り、感触は脳裏に焼き付いている。駐留していた軍や兵士も、どうなったか分からない。助けを求めに息を切らしながら向かったここは第4関門所。
だが残念なことに、同じような悲鳴は聞こえてくる。第3関門所が破壊された時と情景が酷似しているのだ。轟音を背にして走ってきたにも拘らずだ。ニグレットにしてみれば、何がどうなっているのか分からない。
遠ざかったはずの巨人は、またしても眼前に存在している。どこかでニグレットを追い越したということになるが、その記憶は全く無い。第3から第4までの距離はそれなりに遠く、能力者であっても数刻を要する。
加えて、時短で直線に進むとなると、内陸部に向かって聳え立つ、高く険しい剣山のような山を越える必要があるため、通常は迂回するルートを選ぶ。
(くっ……ッ、そのまま山越え、もしくは山に穴を開けて通ってきたということか──いや、ならば途轍もない破壊音がするはずか……)
どちらにしろ、ニグレットにとっての悪夢は続いているということで闇は晴れない。が、希望も無いというわけではない。
数日前の定期連絡の際、この地にはAランクの近衛兵、スタークがいることを確認している。他にも数人の近衛兵がいるはずで、逆転の芽はまだ摘まれていない巨人が到着したのも、ついさっきの出来事であるのは、遠目からでも察することができる。
(なら一旦、スタークとは合流できるか)
僅かな希望に縋るべく、身体の疲れ取れぬまま、ニグレットはスタークが居るであろう管制室へと駆けたのだった。
◇◆◇◆◇◆
第4関門所の管制室にいるスターク、ここには今、彼しかいない。皆、出払っている。そう指示したのは紛れもなくスタークであり、彼らを死に追いやってしまったのもまたスターク自身。
(なんだこれ)
目の前に広がる惨劇をボーっと眺めてしまう。
(離れるのは簡単だが、逃げた先には何もないだろうな。ヴァルカンに殺されるのがオチだ)
スタークは、王である暴君ヴァルカンを崇拝も尊敬もしていない。1対1の勝負に負けて、直属近衛兵となって働いているに過ぎない。同じ境遇の者達は何人もいるし、互いを信頼し合うような主従の関係は無い。
そもそも、この国に於いて主従関係は成り立たない。強い者が偉く正しい、その一点に尽きる。暴君ヴァルカンも、寝首を掻かれることを何とも思っていないくらいだ。
(いつかは私が──と考えていたが、この国は時期終わる。身を売る先は帝国か妖国か……)
そう考え込んでいると、管制室の扉は勢い良く開かれる。ドタバタと入室したのは、まだ生き残っている近衛兵たちと居合わせたニグレット。
「申し上げます!巨人は我々では対処しきれません!まもなく、この管制室もろとも第4関門所は全て破壊されます」
「だな」
「だなとは……?」
「いや──」
(そうだ、こいつらを囮にしよう、亡命先は妖国だ)
「──全員で迎え撃つとしよう」
強者の言葉に奮起する近衛兵たちだが、この場の誰もは万に一つも、囮にされようなどとは思っていなかったのである。
◇◆◇◆◇◆
夢有は与えられた任務を確実に熟していた。
夢有の“巨人化”は、スクール水着の夢有が、単にそのまま大きくなるだけの追加効果も無い巨大化するだけの能力。
「んしょっと…」
積木くずしの要領で壁を剥がしたり、引き千切ったりしている。
(次はここかな?)
打撃による破壊は第3関門所でしたばかり。第4関門所での破壊任務も、尊敬する主は見ている筈であり、同じやり方では面白くないと思った、これは夢有の思いやり。
(あの人も……まだいるっぽい)
第3関門所へは、3人共に小走りで向かった。第4関門所には、夢有だけがジュンの“新界”を使ってやって来ている。
ジュンたちは後で向かうことになっていたのだが、既に戦場付近には強い気配が2つ、夢有はちゃんと気づいている。
(やっぱり、あの人すごいんだ)
ジュンの速さについていくのはそう簡単ではない。足の遅い夢有では、今の所は無理。
「むぅ」
嫉妬を覚える夢有。同僚以外で、この感情に浸ったのは初めてだった。
「負けてられない──や!」
積木くずしは終わり、打撃破壊へと戻る。蹴り崩した先に居たのは、未だ反骨心のある者達、ニグレットとスタークら直属近衛兵たちだった。
◇◆◇◆◇◆
巨人に立ち向かう4名の近衛兵。Aランク能力者のスタークのおかげで、士気は上々、各々が武を魅せる。
ニグレットの能力は“凝固する物質”。両手に収まる程度の無機物であれば、必ず凝固させることができる。瓦礫も山程ある。戦場に手ぶらで立ち向かえる男としても有名だ。
「固き弾丸」
槍を構えている女性は、ビビアン。彼女の能力は“氷の足”。地面を伝っていく氷は、やがて対象を捕捉する。動きを鈍らせた相手を槍で貫くのが彼女の殺り方。
「氷付け」
突っ立っているだけの男はバギー。彼の能力は“さぁいでよ盾”。大柄な者でしか持ち上げれないような重量感ある盾を召喚できる。能力発動中は動けないが、普段から動かない性格なので雰囲気はあまり変わらない。
「どデカい盾」
3名の後ろに控えるのはスターク。彼の能力は“輝く星”。能力発動中は頭部が激しく光る。
「堕ちろ星」
ニグレットの手数を超える数百の破片が宙へと浮かび、石礫のように堕石する。普通ならば、身体に無数の風穴が空いていたこと間違いなしだが、巨人には効果が薄い。
攻撃力が低いのではない。威力十分であり、連撃で怯んでいいくらいなのだが、倒れないのは圧倒的な防御力と体力に加え、物理攻撃に耐性があるように視えるからだ。士気が下がり始めたのはスタークも実感して───
(ここしかない!)
「光輝け!」
スタークの叫びに呼応して輝くのは、頭部から足先までと身体全体。
眩い光は周囲を包む。
攻撃性の無い、ただの眩しい光。
敵味方を惑わすための、必勝とは遠くかけ離れた、逃げの一手。
スタークは計画通りに逃亡を開始したのだった。
◇◆◇◆◇◆
スタークが“光輝け”を発動する少し前、夢有は戦いを多少なりと煩わしく感じていた。
飛来する石礫は自分にダメージを与えるものではない。痛みは無いが、集中砲火されたのは初めてだった。バルブメント王国の北部を制圧した時も、この国の第3関門所を破壊したときも抵抗という抵抗はなかった。
見た目に恐れを為して逃げ惑う光景に慣れていたのもあった。抵抗されるということは、敵が勝機を見出している可能性があり、不安が増す。
(何で逃げないのかなぁ?)
いつもと違う。攻撃にもブレが生じてくる。
更に───
「わっ!?」
激しい光が目に入る。
(びっくりしたぁ……今のなぁに?)
擦りながら見開く瞳には、同じように目眩ましを受けた者が3人と、少し先に遠ざかっていく者が1人と映る。
この光景は、いつもと同じ。夢有の目にも勝機が宿る。
(逃げるのはダーメなの!)
人間の大きさを悠々超える瓦礫の山を泥団子のように丸めては投げる。投擲は目標に真っ直ぐと飛び、ブレていた攻撃は、今日一番の会心の一撃となった。
「た~まや~!」
やる気も元に戻り、即席屑爆弾は残る3人にもぶち当てる。盾を置こうが、氷で固めようが、跳ね返そうと抵抗しようが、全て無駄。巨人化した、お子ちゃま怪物にそうは勝てないのである。
それこそ本当に、Sランク以上の能力者を相手させるしかない。
第3に続き、第4関門所も遂に破壊尽くした夢有は、強い気を感じる方へと笑顔で手を振ったのだった。
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