第48話 苦悩と成長と初恋………とそれを見守る者
【CASE① グラウスの苦悩】
拝啓
俺はグラウスという者だ。
以前は、バルブメント王国の南部都市カイーシャで都市長という任に就いていた。
至って普通の一般人である俺が、この地位まで上り詰めたのは所謂ただの運、真面目な性格が功を奏した結果なんだろう。
同郷で幼馴染のネルソンとは道を違えてしまい後悔してる。あの時、ああしてればよかったなんて思ったことは腐る程ある。
その友が、まさか……遺体になって帰ってくるとは夢にも思わなかった───いや、今のは嘘だ。
ネルソンは中央部で横暴してたと聞いている。
これは天罰なんだろう、そう思う方が気が楽だ。
その皺寄せというべきか、俺の方にも不運は舞い込んでしまっている。
バルブメント王は倒れ、新しく征服王を名乗る、ルクツレムハ征服国という国ができてしまった。南部地方が炎で壊滅した時は死も覚悟したし、生きたとしても奴隷生活を送ると思った。
だが神は、まだ俺を家族を見放すことはなかった。職を失うどころか、南部都市だけでなく、東部都市オーディスの都市長もすることになったのだ。いずれは、南部と東部の間に合併都市を作るという構想案もあるらしい。
更には、優秀な部下が1人増えた───いや、お嬢さんと言う方が正しいか。
彼女の名は、アリサ。
俺の子供と同じくらいの年齢の女の子を、直属の部下にと命じられたのだ。
最初は戸惑いしかなかった。
子供を戦場へ連れ出すのかと憤ったりもした。それが俺の子供だったらと思うと断固反対していただろうよ。
ただ、アリサという娘は急な環境変化にも怯まず、毎日しっかり働いている。
俺よりも真面目にやれている。心配したのが馬鹿馬鹿しいくらい、やる気に満ちているんだ。
不思議だ。
何故そこまでの情熱が持てるのか、彼女を突き動かすのは何なのかと考えたりもしたが、結局は分からず仕舞い。
でも、それでいい。彼女には、過度な大人の干渉は不要ということなんだろうさ。
それに、他人ばかり心配しても仕方ない。問題は俺の方にこそある。しかも山積み。どこから手を付けるべきか、いつも迷ってるほどだ。
俺は凡人だ。ネルソンのような才覚もなければ、アリサのように情熱もない、普通のおっさんでしかない。
陛下は何故俺を抜擢したのだろうか?
ただの気まぐれか、はたまたこれが生きてしまった報いなのか。
こんなに大変なら、ネルソンと同じようになってた方が、幾分マシだったかもしれない。
特に、零様からの要望は毎回冷や汗ものだ。報告書も、きっちり精査される。書き直しは日常茶飯事だ。以前は監査が緩く気楽にやっていた仕事も、今は重みでしかない。
重圧は俺の心を蝕んでいる気がする。早く医者にかかって、ずっと病欠扱いにしてほしいと思っているんだが、つい最近属国になったばかりの小国レジデントの持ち込んだ薬を処方したら、気分はかなり楽になってしまった。
勿論直ぐにまた、胃がキリキリと痛くなるんだが、以前ほどは感じない。
全く持ってタイミングの悪い良薬だと思う。もしかしたら、陛下はここまで読んでいたのかもしれない。
俺に胃薬が必要になることを知っていたとしたら……ああ!恐ろしい!!
美女を配下にしてるのは、ちょっと羨ましいなと思ってた時期もあったが、もう考えないようにしよう。妻にも悪い気がする。
はぁ……というか、この前陛下とは全然喋れなかった。
俺なんかと話す気分ではないだろうが、次お会いした時は一言くらい会話すべきか? それよりも何か献上すべきか? ん〜、分からん。あんだけ美女がいるんだ。下手な物は怒りを買うかもしれない。
『陛下』ではなく、アリサが呼ぶように『ジュン様』と言うべきなのだろうか?
いや、これも分からんな。気に障ったら首が飛ぶかもしれん。はぁ、考えることばかりでツラい。
せめて、同じ境遇の奴でもいたら悩みを打ち明けるんだがなぁ。
どこかにいないものか。今度、零様───もしくはアリサにでも尋ねてみるか。俺の心友になってくれそうな奴を探してるって感じでな。
そうでもしないと、俺の精神が持ちそうにない。ネルソンに代わる、まだ見ぬ友よ、早く会いたいぞ。
敬具
◇◆◇◆◇◆
【CASE② アリサの成長】
拝啓
皆々様、お元気ですか?
アリサです。私は頗る元気でやっていますよ。
こちらに着任した当初は緊張で呂律が回らないなんてこともありましたが、兵士の皆さんや街の皆さんが優しくしてくださって、直ぐに馴染むことができました。
ただ、私の村同じく家を失っている人は、この都市にはまだ多くいらっしゃいます。グラウスさんと都市の運営に加えて軍の増強もしていく中、並行して復興も手伝っていますが、完全な復興にはまだまだ時間がかかりそうです。
こんな時に、式様や紫燕様が居てくれたら、すぐに家が建つんですが、まだこちらには来れなさそうでして……。
甘えてばかりではいけませんね。役不足かもしれせんが、私に出来る事、求められている事をしていきます。
いつか、ジュン様の側付きとして迎え入れて貰うためにも、今は頑張るのみです。
特に今は軍強が一番の課題ですので、毎日兵士さん達と訓練しては、傷を癒しています。私の能力も少しは成長したと思っています。でも素人の私が軍を率いるのは無理がありますよ。知識の無い私では、単なるお飾りのリーダーですから。
でも幸いに、協力者が来てくれました。属国になったばかりの小国レジデントの皆さんです。
剣術も指導してくれて大助かりです。このまま上手く事が運べば、ジュン様も褒めてくれるかもしれません。それを続けていけば、いつかきっと────
大変な毎日ですが、未来は明るい筈です。いえ、明るくしてみせます!必ず私は、夢を叶えますから、待っててくださいね、ジュン様。
敬具
◇◆◇◆◇◆
【CASE③ ユージーンの初恋】
拝啓
僕の名前はユージーン、以前は小国レジデントで王子をしていた者だ───といっても属国になったばかりで王の位を剥奪する儀式的なことはできていないから、まだ一応は王族としての役割をしている。
元々僕の国は、昔に比べて王と民の区別が無いくらいに庶民化しているから、王族という単語は意味を成していないんだ。
父さんも毎日のように街に出て、民と親交を図ってたくらいだよ。僕も知見を広げようと、街の人達の仕事を見て回っていたよ。こんな風に国が変わったのは父さんのおかげだって、口々に皆が言うんだ。
僕の本当の父の顔は思い出せないけど、それでいいと思ってるほどだよ。父さんこそ、僕の尊敬に値する人物だからね。これからも父さんに付き従うつもりさ。国が敗戦して、隣国の属国となった今でさえもだよ。
確かに僕たちは3人ががりでも紅蓮様には勝てなかったよ。
でも父さんは属国になることを嫌ってなかった。以前のバルブメント王国は閉鎖的で、友好条約も結べなかったらしいから、ある意味で言えばこれは開国になるって言ってた。
父さんは、常に色々な事を考えてる。
僕なんてまだまだだよ───とまぁ、前置きはこれくらいにして、そんな事もあって、今はルクツレムハ征服国にいるんだ。現在地は、この国の東部だね。ここまで色んな人達に会ってきたけど、僕は初めて恋というのをしたよ。
僕が出会った人はアリサという女性なんだけど、とっても可愛らしいんだ。可憐で健気で皆から信頼もあってさ、僕より歳下なのにだよ。
剣術を兵士に教える傍ら、アリサに声を掛けることも多くなって、自然と仕草とか目で追っちゃてる。
アリサに気づかれてはいないと思う。滞在期間はもう少しならしいけど、僕だけここに残れるか、父さんには相談してみようと思ってる。アリサの好きな事とか、もっと知りたいからね。
それで、いつかは────
神様、どうか、僕に勇気をください。
敬具
◇◆◇◆◇◆
【CASE④ 見守る者達】
拝啓
ウチはエリカっていう名前、よろしく。実は今、困ってる。超絶心配してる。義兄のユージーンが恋してるみたい。間違いない。
国でも爽やかに街の人達に笑顔を振りまくけど、アリサの時はちょっと違う。下心というか、なんか照れを感じる。周りに兵士もいるけど、積極的に声掛けしてる。ウチが、こうやって天幕の後ろから覗いてても気づいてない。
明らかにこれは恋、視野が狭まってるのがその証拠。ウチとしては、これが成就するかはどっちでもいいけど、失恋して、自暴自棄になって、家を出るとかはやめて欲しい。
そうなると、ウチが大変になる。属国になったからとかは関係ない。無理、荷が重い。本音を言うけど、たぶんウチは根暗、隅っこが似合ってる。
今はユージーンもいるから一緒に外に出れるけど、人と関わる必要がなければ極力家にいたい。はぁ、ゆっくりしたい。
何でウチはここに───、まぁ…それはいっか。
それよりも今は、この問題をどうするか。妹としては、仲を取り保つくらいしかできないけど、アリサとは性格が違いすぎるから、間に入るのは難しいかもしれない。
見守るくらいしかできないかも。父さんに気づかれてないといいけど、あの人、お節介だからなぁ。
敬具
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【CASE⑤ 見守る者達〜続〜】
拝啓
皆々様、元気でいらっしゃいますでしょうか。私はモウリ、小国レジデントで王をしている身でございます。
属国になりましたのでもう時期、王という役柄ではなくなるでしょうが、小国レジデントを支えることには変わりありません。
さて、ユージーンとエリカの前振りでも、お伝えしたように、実は義理の息子ユージーンが恋をしているようなのです。エリカが天幕の後ろからユージーンとアリサを見ているのと同様、私も更にその後ろの物陰から様子を見守っているところです。
草木に擬態しているので、兵士達から変な目で見られていることはないでしょう。
この擬態は完璧、自信があります。
息子の片思いについては、親として文句などはありません。色々挑戦するのが、成長には一番良いですからね。
ただ恐らくこれは成就しないと思います。
情報では、アリサはジュン様……陛下に想いを寄せている可能性があるとのこと。勿論これは、ユージーンにもエリカにも伝えていません。
全てを教える教育はしません。
自分で知ろうと、情報を集める努力をしてほしいからです。私がこれまで何度、擬態・変装したか、お分かりですか?
分からないでしょうな。これこそが、1つの国を治めてきた者の末路ですよ。
失敬、少し感傷的になってしまいましたが、レジデントの先代は、私の情報収集と行動によって失脚させるに至ったわけで、行動力が大事だと言いたいのですよ。
ユージーンにも頑張ってほしいのです。だから本当のことを言うつもりはありません。エリカあたりは、私のことをお節介と思っているでしょうが、今回は必要以上な手助けはしません。
相談されれば、客観的な意見は言ってあげます。最初から何もかも手助けしたのに、真実を知っていたと知られたら親子関係が拗れますからね。
それに、もしかしたらアリサの心情は変わるかもしれません。こればかりは、息子の手腕に期待するしかないでしょう。
さて今日はこの辺で、また次回お会いできることを祈っております。
敬具
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




