第38話 いざ、ジルタフへ
翌日、ジュンは昨日の出来事を思い出していた。海に落ちてしまった後のことをだ。
守護者含め、誰も溺れたりはしないし、人工呼吸をする機会もない。では何故、何度も思い返しているかというと───
「水色……」
そう、唯壊の下着が脳裏に焼き付いているからだ。
水に濡れた服からは下着が透けて見えていた。恥じらう姿も鮮明に記憶している。貧乳だったとしても、その仕草は可愛らしく悶絶もの。
幼女体型の二人にジルタフ行きを見送られたあとも、胸打つ鼓動は収まらない。
(ああぁ……いい!昨日はシャッターチャンス盛り沢山だったわ。機器が無いから記憶するしかないけど、私なら問題ない。守護者のエロ情報は決して失わないわ)
政治の取り決めは忘れても、欲求関連は忘れないのがモットー。変態極まっており、いつか全員で海水浴も良いかもしれないと想像さえする。
その実現のためには、始めてしまった世界征服を終わらせることが必要ではあるが、早急に全てというのには無理がある。
ジュンもそれは承知で、周辺国の平定・征服くらいは早めに終わらせたいと思っていた矢先、砂漠地帯のジルタフ国とは、戦わずして友好を結んだとの情報が入った。
今向かっているのは紅蓮と月華が休む宿場、友好を結ぶに至った経緯などの報告を受けるためである。
「お待ちしておりました」
二人は丁寧に膝をついて出迎えるも、ここは宿、仰々しいのは必要ない。
ましてや豪華な椅子や机もない普通レベルの内装に、威厳ぶった態度も相応しくない。ここはいつも通りの会話が無難となるも、寡黙設定のジュンがべらべらと喋り、根掘り葉掘り聞くのも変。
したがって簡潔に報告するよう頼むのが正解であり、指名された紅蓮は要点を押さえつつ、大まかに話し始める。
「まず、お話しの前に零より国名改称の件、聞いております。ルクツレムハ征服国、誕生おめでとうございます」
「うむ」
(礼節は不要と言ったばかりなのに、紅蓮はいつも通りね。零も相変わらずの伝達速度だし、どうやって伝えているのかしら?)
誰かを使って早馬を走らせているのかもと思ったジュンは、一瞬グラウスの顔を思い浮かべる。
(彼が窶れてるのは、その所為かもしれないわね。この前はあまり喋れなかったし、また近い内に様子を見に行ってもいいかも。アリサちゃんに悪影響及ばすかもしれないし……、それに人材の流出だけは防がないと──うんうん、私の未来のハーレムライフのためにもね!)
などと考えを巡らせていると、紅蓮の報告は既に始まっており、半分以上を聞き逃す。やってしまった感は出さずに、聞いていた素振りを見せるため、頷くこと数回。なんとなくではあるが、ジルタフの王や姫、友好条約についての単語は聞こえた。
(政治的な部分は紅蓮に任せましょう。その方がいいわ。私が交渉の場に出ようとすると空回りするのか、何故か上手くいかないのよねぇ)
「──報告は以上となります。抜け無くお伝えしたつもりですが、不備があれば訂正しますので、気遣いなく仰ってください」
政治に疎いジュンは純粋に、あの疑問だけをぶつける。
「月華が同行を嫌がったのは?」
名を呼ばれ、痛い所を突かれたと思った月華は、身体をビクッと震わせる。更には、黙秘状態で赤面している。それを見ていた紅蓮の溜め息は意外にも深い。
「大した理由ではありません。この者は紫外線を気にしただけですよ」
「は?」
「ちょっ、紅蓮!言わないでよ!」
「はぁ…、私はジュン様の質問に答えただけに過ぎないが?そもそもだが月華、貴様の言う紫外線とやらを、我々守護者が気にする必要はないだろう?」
「そ・お・だ・け・ど!!ボクは気にするの!」
「ま、まぁ無敵ではないからな」
「そうなんです!だからジュン様、日焼け止めクリームを作れる守護者を新たに創ってください!」
「……」
守護者は誰一人として無敵には創られていない。これは間違いない。ダメージは受けるし、場合によっては出血する。
精神が蝕めば、裏切り行為をする可能性だってあるかもしれない。
無敵設定にすれば、そのような事態は起こり得ないが、そうしなかったのは、感情を持って欲しいと思うからだ。
機械とでは、ハーレムライフはできない。
彼女達は欲を満たすだけのラブドールではないのだ。
「れ、零に聞いておこう」
「それでも構いません!お願いします!」
「……」
月華が肌荒れを気にしてしまうのは、他の守護者よりも女子感が高い設定になっているからだ。
しかし確かに、紅蓮の言うように、紫外線を気にする必要性も無い。ただ全く気にする必要が無いというわけでもない。
それは創造時の、とある設定値が関係するのだが───
「──確か、手付かずの研究所に、守護者を配置するんですよね!美肌クリーム作ったら、真っ先にボクが使いますので実験台役は任せてください!」
「うっ……」
(気が早すぎわよ。構想案はあるけど、予定はまだ先、もう少し落ち着かないと、せめて周辺国を征服しないことには無理でしょうね)
「……追々な」
「待ってます!」
「うっ……」
月華の眼は純粋に輝いている。
紅蓮から『ジュン様に迷惑かけすぎだ!』と、一喝されながらもだ。
「あとで指導します」
「う、む」
こればかりはジュンも否定しない。
守護者同士に身分の差は無いため、『頼む』とも『任せる』とも言えないので、了承だけに留まる。
「他に気にかかることはございませんか?」
「いや……」
(私の気になることと言えば女の子に関わることだけなのよねぇ。だから、ここのお姫様が気になるけど、率直に言うのは変だから──)
「この国の王族はどうだ?」
「可もなく不可もなく、どこにでもいる普通の王だったかと」
「姫とやらは?」
「普通です」
「普通か」
「はい」
秒で話が終わる。
紅蓮は真面目に正確に伝えているに過ぎないが、ジュンの───いや早乙女純の質問の答えにはなっていない。
(そういうのじゃないのよねぇ。まっ、こればっかりは自分の目で確かめる方が早いわよね。守護者にはなり得ないけど、アリサちゃんやエリカちゃんのような候補は幾つあってもいいもの)
「──っと、関連して言い忘れていたことが1つございました。恐らくは、AかS程度だと思いますが、王女には護衛か付き人……当人同士は友人と申していましたが、強い能力者が1名おりました。世理の世界観測で感知していた強者は、その者で間違いないかと思います」
「ほぅ」
「この国の王に挨拶させますか?」
「うむ」
「承知しました。向こうとの段取りは私が進めておきますので、ジュン様はお休みください」
「ああ」
紅蓮の計らいにより、休息を取るジュン。
自動治癒する身体には不要な発言かもしれないが、それを言うのは野暮。当人たちは理解しているし、これは単なる礼節、主従の関係が良好な証。
おかげで、フカフカの枕でなくとも、ぐっすり眠れたジュンだったが、翌朝の目覚めは最悪となる。
理由は、枕元に置いてあった零からの文。
商国シンディの征服と王城半壊の知らせは、遂に彼女たちの創造主へと届いてしまったのだ。
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