第170話 帝国①
ギルテ戦以降、帝国は鳴りを潜めている───という情報には少し語弊がある。国は通常運転に観える。民も変わらず健やかに安全に過ごしている。だがそれは、中心市街地から外れた者達ばかりが該当する。
中心地、つまりは城に近い街なんかでいうと、不信感に近い嫌悪感が渦巻いている。空気はどんよりしているのだ。
原因がどこにあるのか、その答えこそが鳴りを潜めていると他国から思われている要因なのだが、それはあの場にいたものであれば誰もが知っている。
「ドラゴ……様、国民からまた声明が上がってきております」
文書は、『異業の種に守られる我らではない。釈明無ければ、我らの代表が取って代わるだろう。呪われし王よ、対話を求める』という内容。
これは明らかにドラゴの容姿を指している。それも変身後の現在、未だ戻れぬままの身体を。
ドラゴは【聖なる九将】のシルフと闘った。同じ組織に属するとはいえ、シルフは序列が上なだけあって想定通りに強く、勝利するためには奥の手を使うしかなかった。竜人となる前の以前の世界の姿、[勇者]に戻るという技。
結果、辛くも勝利を手にしたが、変身を解除しても全ては戻らず、顔だけが人間のおっさんで、身体のみ竜人という奇妙な状態。
大きな支障はない。
それはこれまでも。
竜人として二足歩行する姿を知るのは、城内の者とドラゴの息のかかった一部の国民。演説の際は、いつも姿形を隠して執り行っていた。王が別人種と囁かれることもなくはなかったが、世情が安泰だったおかげで、反抗勢力が蜂起することもなかった。
だから、気を抜いていたのかもしれない。
知人を見つけ出した安堵感と戦闘後の疲労感、そして無気力のゾビィーを気遣い、街にふらっと立ち寄ったことが仇となった。
身体を隠していても、釣り銭を渡す時はどうしても手が見える。それは隠してないのと同じ。顔が人間だからと安易な理由で、今まで一人では赴かなかった城下に行くのが間違いだったのだ。
その後は言わずもがな。トントン拍子に噂は広まっていき、縮小していた反抗勢力は待ってましたと言わんばかりに声を荒げている。この文書も反抗勢力らが作成したものに間違いはないのだが、住民の声であるのもまた疑いようのない事実。信憑性が、街の雰囲気にこそ現れているからだ。
更に言えば、『呪われし王』とは、今の姿を揶揄している。
竜の象徴は翼と尾、あとは頭部。翼と尾の有無は、然程影響が少ない部類であるが、頭部はダメだ。人々が思い描く竜という存在に大きく及ぼしてしまう。
文書では、異業の人間種と回りくどい言い方をしているが、直球に言い換えて変態。気持ち悪いと思われて致し方なく、〔コスプレ帝王〕のあだ名が付くのは秒読みかもしれないのだ。
「──またか」
「はい、反抗運動も日に日に大きくなっているようです。そろそろ、こちらも行動しなければ収拾がつかなくなるやもしれません」
(話すのは簡単だ───が、それでは何の解決にもならん)
回答求める他者に対し、一方的に喋るのは簡単であっても、納得させるための手札を持ち合わせてない。それでは民の不安は取り除けない。
だがこのままでは兵士の言うように、抑えきれない状況に成りかねない。
手札は無いが、どうにかこうにかするしかない。
「──王!」
とその時、走り寄ってきたのは側近のリカク。
「何事だ?」
「お客様です」
「この忙しい時にいったいだっ………」
何かを閃くドラゴ、その視界に映ったのは、紛うこと無き幼女、征服王ジュンと守護者の式だった。
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