第169話 商国④
(ドドドどぅいうことだ??全然話が違うじゃないか!!シズクめ、あーークソっ………いや今はそれよりも、だ。あの御方たちの相手をせねば。何やらご迷惑かけてそうだし、丁重に丁寧に……だ。そ……れにしても、聞き耳立てるのは間違いだったかもしれん。胃が……胃がァァいたぁいぃッ!)
ルドルフ専用の執務室には、ルドルフが会いたいとは思っていない、出来れば帰って欲しい、茶を飲んで啜って寛いだとしても、そのまま居座らないでほしい御方達が、シズクに文句を垂れ流していた。ポンコツメイド長のフィと3人組も緊張な面持ちで傍にいる。
誰も代わりになる壁はいない。
今はまだシズクが相手しているから良いものの、数分しない内に矛先が変わるのは必然、ルドルフはそう思っている。その考えは至極正しい。妖艶な美魔女の視線が、ものすごーく痛いからだ。
靴音もやけに耳に障る。
胸が締め付けられ、無空間に居るのではと錯覚が起きる。
鼓動の速さは、最早隠しようがない。
「──話、聞こえてたかしら?」
「ええぇっ、はい……まぁえとっ、そそそうです、はい……はい」
「『はい』………は、一度で良いのよ、ルドルフ」
「はいっ!申し訳ありません!陰牢様、これは全て私の不徳の致す所ですッ!はい!!」
『やれやれ』の後付けは心に響く。
信用が地に落ちたと、嘆き土下座しても別段変な状況下ではないが、ルドルフには[嬉ションする変な奴]という醜い二つ名みたいなのがあるために、号泣会見を開いてでもしたら、『今度は上もか』などと罵られる可能性は大いに有り得る。城内外で囁かれることも間違い無しだ。それは何としてでも阻止しなければならない。国の代表者が笑い者になっては終わる。全てが、これまでの地位が、この国すらもまた戦争への一途をたどる、かもしれない。
(そうだ、ここは我慢だぞ。膀胱はまだ大丈夫、涙腺くらい我慢出来なければ代表者は務まらん………が、胃が痛すぎるッ!これホントに薬効いてるのか??)
シズクに用意してもらったいつもの薬、それを入室される前に服用したのは間違いない。だが、効果は薄い。
「聞いてるの、ルドルフ?」
「あっはい、なんとか!」
「なんとかって、はぁ。まぁいいわ。取り敢えず伝えた通り、ジュン様の認知度をどうにかしなさい。特に歓楽街ね。新参者が多いのは理由にならないわ。これは貴方の怠慢よ、理解してる?」
「仰る通りです、ぐうの音も出ません」
「案はあるのかしら?」
「それは………」
(誰かに演説してもらうとか、もしくは本人………いやいやそれだとお手を煩わしてしまうし、却下だな。商売人らしく似顔絵を描いてそれを高値で取引……いやこれもボツ。あとで何か請求されそうで怖いんだよ。だからといって陰牢様は聡いから、しっかり考えて発言しないとこれまた長い議論に成りかねん……ッ)
早く帰って欲しい、そればかりを考えてしまうルドルフ。胃が痛いという理由もあるが、上手くいなして回答は後日に持ち越したいのだ。
「まさか、何も無いとか言うつもり?」
「いえいえそんなつもりは滅相も!」
「じゃあ提示しなさい、今すぐに。出なければ私が一人ずつ貴族街の者達を拷問していくわ。あー勿論、ジュン様を子供扱いした奴等とは違うわよ。彼らは確定事項ね。それ以外の者達を順に拷問していけば早いのなら、いまからでも行動に移してあげるわ」
現実に起これば恐怖絵図である。拷問も一種の快楽ではあるが、歓楽街には不向き。それに新参者すら居なくなるだろう。それでは苦労が水の泡になってしまう。
「困ります、お許しください!近日中に、そう近日中に何らかの方法を考え報告致します!ここは何卒、私ルドルフを信じてくださいませっ」
「嬉ション男なのに?」
「ジュン様が信じないのであれば私も信じないわ」
「いやちょっ……ギッ」
(ほほほんとうに飲んだのか?胃薬を??マズい気がする。腹が痛い。胃だと思っていたが、腹の方が痛い、マズい……)
「ぎってなに?」
「な、んでもございま……せんよ。ただちょっと、あれなので、一旦、お暇、します、です、はい……」
途端に大急ぎで退室するルドルフ。
「クフッ」
無礼にも程がある行為だが、涙目になっていたのを誰もが理解し、そして察した。
「これ以上のレッテルを避けるとは、少し見直したわ」
「陰牢……あなたまさか最初から知ってたの?」
「ええはい、一応お仕置きという意味ですが、シズクを使って下剤を仕込ませたのは私です」
「あーーなるほどーどうりでねー。それ知ってると笑えるわね」
「お二人にサプライズが成功して良かったですわ」
「シズクも……大変ね」
「うっ……はい。ですが、問題を後回しにしてたのは事実でした、からやむを得ずです。それとですが、私の方から先ほどの問い、回答してもよろしいですか?」
シズクはフィと3人組メイドの横に立つ。無音かつ無駄のない動き。
「書面で国民、街の者達に知らせるのは簡単ではありますが、ルドルフ様の業務過多になります」
「街の職人を使ったらいいじゃない。費用が足りないなら、こちらからも出すわよ」
「いいえ、それには及びません。職人も多くはいないのが現状ですが、その問題に関してはルドルフ様があたっている状況なので、別仕事を任す余裕はあまりございません。それに書面だと堅っ苦しく、人々の記憶に残らない可能性もあります」
「だから?」
「フィ様達に働いてもらいます」
「「エエェッ!?」」
発言に驚き、シズクの首を揺らすフィだが、そのシズクは微動だにしていない。グワングワンされても表情1つ変えない。
「以前よりも、メイドの求人は増えており、数ヶ月以内に増員されるでしょう」
「ええっ!?また増えるの??これ以上大役なんて無理だよシズちゃん!」
頬をムニッと引っ張られても、仕事人体質はブレない。
「城外へ出る時は専ら買い物の時だけですが、言葉で伝えた方がより心に遺るのではと思います………時間が掛かるというのが難点ですが、どうでしょう?」
費用を抑える。国の復興を案じているのはシズクも同じ。それが、この国を一度破滅へと追いやりかけた者の末路だと感じてさえいる。
それに、だ。
シズクだって、陰牢には頼みたいとは思わない。“有実の誓約”で主従関係に近い状態であるとしてもだ。頼みを聞き入れ成し遂げるが、自分らから頼み事はしない、そんな関係。
「悪くはないんじゃない?」
「私も賛成です。普通と違って面白そうですしね。あとはルドルフが頷くかどうかですが、横に振りそうな時は胃薬を全て下剤に変えますので、ご心配なく」
「ほどほどにね、陰牢」
「はい、弁えております」
愉しそうに微笑む陰牢の前をスッキリ気分のルドルフが通る。
「あっ!!えっとぉ……いま、どういう状況ですか?」
「さぁ、それは貴方次第ね」
「ええぇぇっ!ご勘弁くださいまし、何卒急に退室したことをお詫びいたします!」
何も知らないルドルフに対し、タネ明かしをした陰牢。
彼の表情が引きつっていたのは言うまでもない。
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