第167話 商国②
ジュンと陰牢は、ルクツレムハ征服国を出発して国境付近のアリサの村に一度立ち寄り、商国本土内へと歩を進め、貴族街を散策し、中央街にやって来ている。幼女を抱いた婦人、傍から見ればそんな図も、そう思われないのは陰牢という存在を一般市民が認知しているから。
一番認知度が高いのは式、彼女で間違いない。〔廃街レース〕で勝利を手にした記憶は新しい。
次いで認知されているのは陰牢になるのだが、表立った行動は一切していない。それは管理者になった今でも。施策・法案・活動に口出しはしても、国民の前に姿現すことはない。なのに、認知されている理由は、商国代表者ルドルフに畏れられているからである。無論それはシズクも同じだが、ルドルフに至っては元々貴族街に住んでいたことから、近くの者達が噂を聞きつけ広まり、一人歩きした結果、誇大化。国内全土に知れ渡っているのである。とかく、大人達は恐怖で認知している。子供にも人気ある式とは真逆と言っていい。
ジュンに関してはだが、名前くらいは誰だって知っている。以前男の姿でしか街を散策していないとは言えど、詮無きこと。この世界には魔法同等の能力があるのだから別人間とは思われない。それに、あの陰牢が敬う相手であれば、真実として認識する他に選択肢は無いというのが、人々の道理なのである。
問題を起こさない、事を荒立てない、丁寧に接客をし、商業商売国である民として征服者を饗すことこそ、魔女のような陰牢に管理翻弄された一般市民の末路とさえ捉えられる。
「───お気に召したものはございました?」
「う〜ん、どれもパッとしないわねー」
管理者である以上は、その国の評価が守護者へと直結する。商品然り、国の状態に於いても。
「でしたら今後は、各地からの珍しい品物取り寄せ特化に努めます」
商国なのだから可能だろう。だがそれは、地産地消の排除、ひいては国力低下に繋がる恐れがある。商売人も高騰品ばかり売って儲けられるとは限らない。商売上手というよりは販路持ちが生き残る世界と成り果ててしまう。
これが[強化]ならば、それほど問題にならない。しかし、[特化]であれば厳しいものがある。
がしかし、管理者とはそういうもの。代表者に、唯一上から意見できる存在。
勿論、その更に上には守護者を創造したジュンが席を置くわけだが、創造主ジュンがとやかく言うことはあまりない。つまりは、商国の未来は、陰牢の判断に委ねられると言って過言ではないのだ。
「んー、別にいいわよ。どうせ全部征服するんだから、1ヶ所に集めても意味ないし、ほら………国の特色みたいなのなくなっちゃうでしょ?」
「かもしれません。しかしながら、商人の国である以上は多種多様なものがあって然るべきと思います」
「一理あるけど、全部そうしたら、他国の商売が成り立たなくない?」
「………そうですね。私としたことが、うっかりしていました」
ジュンの懸念により、商国の未来は保たれた。
ついうっかりしてしまった陰牢は丁寧にお詫びするも、ところがどっこい、彼女は全くそんなウッカリ状態には陥っていなかった。
(んー、残念だわ。ここで一番になって褒めてもらう算段が白紙になったわね。さて、どうしようかしら?)
管理者の中で最高位の評価を戴く。それは、この前の会議で称賛を戴けなかった所為もある。零だけでなく陰牢も、称賛を掻っ攫われたことを妬んでいたのだ。
(ジュン様ファーストであるのは必須だけど、それだと管理者として務めが中途半端になる。盲点、ね。指摘していただいたのは感謝を超えて感激……いいえ、もしかしたらそれを気付かせるために、こうやって一緒に散策の話を持ち掛けてくれたかもしれないわ)
ジュンは“新界”を使用して各地を移動できる。技を使用せずとも、能力者であれば移動術は心得ているのが普通。ゆっくり街を見て歩く必要など本来無い。
ゆえに、自分への教えの可能性が高いと、陰牢は認識する。
(流石はジュン様。今日はこのまま夜の街に───っと、以前私が申した言は覚えてくれているでしょうか?)
〔ジュンの初めてを奪う〕
その囁き言葉を、陰牢は確かに主に伝えた。
その日の事は明確に覚えている。
そして間もなく夜は更け、歓楽街が賑わい出す。
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