第160話 逃亡者②
妖国グリムアステル北域都市ノウエル────
都市の外れにある鬱蒼と木々が生い茂る森、その奥地の薄暗い洞穴に臭み、血の先を辿った先に倒れ込んでいる者は、この場に転位離脱したばかりの【聖なる九将】序列第四位ギルテ。妖国の王。
(しくじったか……)
予想超える大きな消耗。あわよくば取り込み血肉へと変える算段も、ここまでのダメージを負えば想定外。戻り隙を突くのも不可。ここは一時、いやかなりの回復を待たなければならない。それくらいに生命の身代わりとなる蟲たちを使ってしまった。ただの回復であれば、そう時間はかからないのだが────
(なんだこれは?)
普通の打撃ではない。ごく普通、いやそれ以下の幼女パンチだった筈であるのに回復が非常に遅い。使用していない蟲たちまでも抉られたような感覚。これまでの貯金が無駄になるほどの嫌らしさ。
更には、多くの駒を失ってしまった。
元々切り捨てる者が多かった戦いだが、王が逃げた時点で戦場となった首都が陥落したのは間違いない。【六根】の者達も気付いた頃合い。各々が勝利していれば、まだ別の未来があっただろうが、殆どの組が敗戦、もしくは引き分け、勝利は1つもない。
(イチョウたちが攫われなければまだ望みあったものの、まさか征服王が彼らを匿うとはな。生かしていた理由はそれか……にしても【五連星】も落ちたものだな。あの程度でにげ───いやそれは同じか、介入は大助かりだったが、こうなっては【S】の者達の危険度を引き上げねばならんな)
各地の状況を洩れなく把握しているのは蟲たちのおかげ。身体から這い出る極小の蟲たちが情報を掻き集める。離れても視えるのは究極のスパイ足りうる。
そうやってギルテは生きてきた。
地を這いずる虫のように。
細かく調べ、入念に入念を重ね、利用できるモノは利用してきた。
全て。
夢を叶えるために。
自分の思うがままに。
ただ残念ながら今回の戦いが、ご破産でしかないのは事実。
ゼロの復活を不完全状態へとするべく、敢えて不必要な戦いを仕掛け、場を乱そうとした結果、自身を含め惨敗した。
未だ自分の計画が、ゼロの仲間内に漏れてないのが救いと言える。
「どちらにしろ、回復を待つ必要がある、か───それと国は放棄せねばならんな」
事実上、征服を受け入れたことにもなる。
だがそれはいい。間違いではない。安全な場所に退避しても、相手の能力が似通っている可能性があるならば、同じ所に留まるの悪手。絶えず移動する必要がある。事前に、世界各国に散りばめるよう設置していた転位門が役立つ時。
「入念に入念を、その時が来るまで………」
今後は更なる序列上位者が征服王を強襲するだろう。なればそこに乱入すればいい。自分の計画が露呈してない間は、その繰り返し。いつか勝利はやってくるし、夢も叶うはず。
「踏ん張りどきのようだ」
「───では、私もお供します」
ツカツカと洞穴に、ギルテの横に立つ存在は、四隊長筆頭のシン。
「フッ、生きていたか」
「ご存じだったでしょう?」
「まぁ、な……さて───」
命令されずとも、肩を貸すシン。
阿吽の呼吸。互いに互いを理解しているからこそ。
暗闇這いずる蟲の瞳はまだ生を諦めず、虎視眈々と次を狙う。
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