第158話 其々の決着
≪合成獣 VS 月華&式≫
「───ってぇーなァ!チクショオ!!」
深く沈められたのは重力攻撃もあったからか。
地盤沈下の結果、ゴトゴト音を立てながら落ちていく瓦礫。
合成獣の合わせ技を真正面から耐え抜こうと意地張ったのもある。
その所為で、酷く損傷した。
無論本来であれば、“半自動治癒”で治せなくもないのだが、以前の四隊長ルゥとの戦いで、源である魂魄は消費したまま。
魂魄値の残存数値は0s。初期値から全て減らした状態。 (sはソウルの意)
初期値には未だ戻らず。
この状態では、“半自動治癒”は使用出来ないし、秘匿技の“限界突破”だって無理。
しかし、魂魄の補填注入が、平常時いつでも可能だったのは事実だ。
補填注入の行為自体に守護者の意志は解さないし、その守護者が願い出れば、増やす(元の数値に戻す)のが物理的に容易なことはまず間違い無い。
但し、魂魄とは、とかく強力。
個人及び他者への影響が大きいという意味合いに於いて。
適当に、生半可な気持ちで魂魄を注入すれば、力を増大化させる以外に、対象の精神を壊す恐れがある。
魂魄とは、すなわち魂の欠片。
魂を司る創造主ジュンが、エネルギー媒体として再利用するのが魂魄であり、元を辿れば誰かの魂の欠片であるがために、二重人格、もしくは別の記憶を呼び起こす可能性を多分に秘めている。
創造時と同じくらいに、補填という行為には慎重を来す。ジュンから、話題を切り出さないのには、そういう意図が含まれている。
と同時に、守護者の誰もが、この悪点を知らされず創造されている。
能力の概要や魂魄については、概ね教授されているのにだ。
ジュンにしては疎かと言うに値するが、違和感が絶対起こるとも限らないし、あくまでも可能性であるために、細かい説明が省かれているのだ。
それに、守護者の多くは好戦的。鍛錬を日課として好む者がいるくらいにだ。
何が言いたいかと言えば、先の戦の功績評価を鑑みれば、魂魄補填は十分有り得るものなのだが、本人たちが拒んでいる。
“限界突破”を無許可使用したことを悔いているからではない。
前回のルゥ戦でも似たような出来事があったが、これも単なる負けず嫌いが原因となっている。
同じ守護者の陰牢も、魂魄値0s状態ではあるが、『補填は暫く不要』と豪語しているくらいだ。
魂魄が少ない程度の理由で、創造主ジュンにお願い事はしない。懇願した時点で、同じ残存数値量の陰牢に精神面で劣ることを認めたと同義になってしまう。
それは由々しき事態。式の心は煮えたぎり、苛々は止まらないだろう。
創造主ジュンの説明不十分以前に魂魄の補填を守護者は必要としない、者が多い。
つまりは現状、この場の戦いに於いては、役立たずという他ない。
「チッ……」
だから託す、それしかない。
変わりに攻撃を受けたのだ、それくらいの事をしてもらわねば困る。
「オイッ、任せるぞ」
「うん!」
「このオレ様が、しっかり時間稼いだんだ、分析出来たんだろうな?」
「まぁ任せてよ、何処が柔いか大体見当ついたからさ」
知識に乏しい二人、されど感覚は研ぎ澄まされた。
加えて、今回は許されている。
創造主ジュンから事前に、直々に“限界突破”の使用許可が降りている。
一応なりとであるが、守護者全員にだ。
当然、必要に迫られなければ使うべきではない。
個人の判断。
見極めも彼女たち任せ。
見極め誤れば隙を作るが、そうでなければ有効打足りうる。
「“限界突破”発動!」
短期決戦。
式は追撃するのみ。否、正しくは月華の狙った所を叩き込むだけ。
「①番②番④番⑫番⑬番④番②番③番①番⑤番④番①番⑰番………」
「ハッハァー!」
水のように流麗に捌き、連撃。
今回、月華が使用したのは前回の式のような全体的な〈身体能力向上〉、ではない。何も選ばなければ身体能力と五感が満遍なく2倍以上に上昇するバフになるのだが、選べば別の効果となる。
打ち崩すのに、強大な力は要らない。
必要なのは、芯を突く一打。
分散させない、衝撃波。
今回、月華が選んだのは五感のみの超強化。
必然と通常よりも効果は上昇する。
極めれば分子レベルに実体を捉えるが、月華ではまだ無理。
がしかし、能力は最大限に活かせるし、スローに視える。
「ギョッ……ッ!」
ツギハギだらけの怪物、合成獣の弱点は節々の関節と首元。
それを戦いの中で察知した、必中武術の月華と感覚鋭い暴れ犬のチームプレー。
「「これで仕舞いだ!!/これで終わりだよ!!」」
炸裂する二重二種の衝撃波。
「ギョルアァァァァァ!?」
断末魔と思しき奇声発した合成獣は、遂に倒れ伏したのだった。
◇◆◇◆◇◆
≪ロクゼン&ゴイル VS 零≫
息が合うのは素晴らしいことだ。強大な力を前にしても屈せず立ち向かうのは、それだけ連携力あってこそ。負ける気毛頭ない、という気持ちが真に伝わってくる。
(恐れられるほどの気当たりはしていませんので、気の所為ですね、きっと)
現状、武器破壊は成っている。
創造主ジュンの言いつけ通りに実行出来ている。
順調そのもの。
後は、里長の対処のみ。
違和感を覚えることもない。
簡単過ぎるのを怪しむ必要もない。
単純作業、のようなもの。
これはいつも通り、通常業務の範疇内。
武器破壊が終われば、後は糸で縛ればいい。
(技を出す必要もありません……あっ、これもいつも通りですね)
守護者の中でこれまで唯一、雑魚い敵としか相対していない。強者と睨み合いにすら。
ジュンの隣に居る事の多い、守護者のまとめ役がである。
運命的であるし、実に雑務が得意な者向きだろう。
言い換えれば、ハズレくじを引いてるわけなのだが、能力を曝け出す相手が居なければ、それの方が良いのは純然たる事実。
なにせ、他に何人も自我の強い個性的な守護者が居るのだから。
一人くらい淑やかでなければ……否、淑やかであるからこそ、隣に立てるのだと自負出来るのである。
だからか、同僚である陰牢の思いっ切りには理解できない。
必殺技を繰り出す程の相手ではない。前回、魂魄を失っているとは言えだ。力加減出来ないさまには甚だ困り果てる。
(まさか、任務忘れてるなんてこと、ありませんよね?)
それくらい疑ってしまう。
互いを同程度の強さと認めているからでもある。
敵を不憫と思うより、仲間を情けないと思う方が強い。
(帰ったら仕置きですか、陰牢に対しては初めてかもしれませんね)
「ふぅ……」
溜め息さえ発してしまうのは、それだけの余裕があるからだ。
キンッ、ガチャンッ!
鎖鎌、手甲それぞれの武器破壊は達成する。
「まだ抵抗しますか?」
「おのれ……この程度で───」
言うは易し。
零も、丸腰とは言え訓練受けた者達が引き下がるとは到底思ってない。
「“鋼糸網み”」
「グハッ……ッ!」
網目状に縛り刻む。
これは多少の痛み。
気絶程度に抑え込むには好都合な技。
「あっ……」
徐に、技を繰り出してしまったと後悔した。
「私もまだまだ精進が足りませんね」
(ですが、これで───)
〈【六根】の者達を生かす〉その任、無傷には出来ないものの、この場において、零の戦域については全員、死者無しでの捕縛成功、任務完了へと至るのであった。
◇◆◇◆◇◆
≪シラン&サラギ VS 陰牢≫
「ははははハハハハ破破破破!!!!」
奇怪な笑みが空間を支配する。
踊れ、
蝶のように、
蜂のように、
虫螻のように、
ヒトのように、
藻掻き苦しみ恐怖し絶望し狂い怒り焦り驚き困惑し妬み哀しみ平伏せ、
さすれば、命だけは助けてやる────と、そう謳い文句言い出すのは陰牢。この場の支配者。
「ねぇネェ!死にたい、生きたい?どっち???」
霞む目的。
任務放棄したわけではない。
これは怠慢。
ある種の、自分の欲求を優先した結果。
地竜と融合し、理性が飛べば、あとは体力使い果たすまで。
「ふはははハハハハッ!!」
シランとサラギ両名の戦意は無い。そんなもの、とっくに消え失せている。生き残っている者達も一緒。空中自由に飛び交う優位性持つ相手に、誰が立ち向かえるというのか。この場の誰もが、そこまでの強者ではないし、【六根】の中で空中戦を可能とするのは第一の里長くらいだからである。
「あ、れは……?」
シランが見上げた先、陰牢の掌に黒い熱弾が収束していく。
“黒点”
四隊長カイ諸共、商国の城を半壊し尽くした技、“終わりの歌”に繋がるエネルギーの源力が作り出される。まともに浴びれば、骨すら残らない、拷問官に似合わない大技。
「縁も酣、終わりにしましょう」
あの時と……四隊長カイと戦った時と同じ台詞。
真っ黒な、闇の熱弾が大地に降り注ぎ炸裂。
黒く光る。
世界を包む。
何も残らない。
屍すらも。
それが、通常だ。
「え……?」
この驚きが誰の声か、無論一人ではない複数、すなわちさっきまで恐怖していた者達。
シランとサラギ、その部下全員、呆気にとられている。
「“終わりの歌──ドキドキ大作戦──”」
贋物、偽り、驚かすための演劇。
「嘘オォ!?」
「そうよ、私が任務放棄するわけないじゃない」
「任務、とは……?」
ガシャン。
「なッ……?」
誰もが恐怖したことだろう。
全てが大嘘と見抜けなかったのは、全くもってシランたちの所為ではない。
純粋に、陰牢という能力者が他より頭一つ賢いだけ。
罠に捉えられない者がいるなら破壊者を演じ、意識を逸らせて捕まえるなど、思い浮かぶ筈もないのだから。
損害を与えたのも、一種の演出だったに違いない。それほどに予想覆す結果に落ち着いている。
「貴方達が拷問を受けたいなら話は別だけど?」
融合を解いた拷問官。彼女はまたもや、不敵な笑みを浮かべたのだった。
◇◆◇◆◇◆
≪ゾビィー VS 型≫
「ニャフ?」
大地の砲撃が型を襲う。
膨大なエネルギー。直径3mは超える。
暗い地下に、急に光が灯せば、誰だって面食らう。
発光弾に近い。
但し、それは副次的効果だ。純粋に砲撃受ければ大ダメージ負うのは当たり前。守護者と言えど変わりない。
だが猫の型は違う。
回避可能であるし、避けた瞬間に忍び寄り隙だらけの敵を討つという選択もある。
しかし、選択は出来ない。
型は賢い方ではない。それは間違い無い。
式よりかは幾分かマシな方だが、知性を武器に扱う守護者とは縁遠い。
型は式と同じような感覚派。当然、嗅覚に関しては式の方が上位だが、他の部分では一緒。感覚が鋭いことに変わりない。更に、現在地であるこの場所は薄暗い地下という好条件。夜目が利けば、いつも以上に敏感になるというもの。
だから砲撃を避けた場合の未来を察した。
相打ち覚悟の雰囲気は感じ取れなかったが、苛立っていたことくらい分かる。仕向けた本人であるし、尚更。
避けた砲撃が壁に当たり、崩落する可能性は十分にある。
地下遺跡がどうなろうと知ったことではない。
潰れて構わない。
天井崩れても生き埋めになるのはゾビィーだけ。
型ならば、落ちてくる岩を伝って、地上へと戻れるのだが、その選択はやはり無し。
遊び相手が減るのはつまらないからだ。
本命と対峙するまでの遊び相手は死軍だった。その時は、ゾビィーを早く倒して再度、死軍と戯れる予定だった。しかし、ここまで遊びに付き合ってくれた相手を無下にはできない。
この感情は、猫が捕まえた鼠を直ぐに食べずに遊ぶ行為に近い。
言い換えれば、遊び足りない。
結果、避けるでなく、砲撃を吸い込むという選択になる。
つまり、“吸収と放出”の吸収だけを行う。
そうすれば、いとも簡単。身体丸呑みする砲撃をギュンギュングングンと吸い込んでいく。
呆気にとられるゾビィーが可哀想にも見えてくる。
「いやッ、えっ………はぁァア?」
吸収したモノを、そっくりそのまま放出することも出来るのだか、それでは能力発動した意味が無い。
崩落の危険性は何が何でも避けるべきだ。
だがしかし死軍とも遊びたいし、ゾビィーとも遊びたい。
であれば、ゾビィーも殺さず生かすしかない。
もしくは失神程度に追い込むべき。
「ニャンニャン!やるニャン!」
手をグルグルと回す型。
準備は万端。
最終的な選択は、気絶に追い込むこと、これにつきる。
「まっ待て!」
悪寒感じたゾビィーだが、もう遅い。
型の腹中は宇宙、異界。
吸収したモノを、自身のエネルギーにもできる。創造主ジュンに似た能力。
「ニャンニャンフー♪」
“限界突破”使用せずとも急激な増強可能にする型は、ある意味でブッ壊れ。
渾身の腹パンが、ゾビィーの鳩尾へと決まる。
「ガハッ……ッ!」
大地の蔓で覆われていようが関係ない。それだけのエネルギーを貰ったばかり。型は、それを返却しただけ。
「一件落着、だニャン!」
ピースサインは誰に向けたものか。
警戒心無きその後ろには、元の形態へと萎み倒れ込むゾビィー。
彼の顔を覗くのは目をまん丸にした猫。ピクピクするゾビィーの身体をツンツンと突きながら、どう遊ぼうかと頭巡らせているのである。
◇◆◇◆◇◆
≪シルフ VS ドラゴ≫
「“王者の流撃”」
「“聖光刃”」
「“王者の流撃”」
「“聖光波”」
「“支配者と王者の合技”」
「“聖光破”」
ガンッ、キンッ、ガガッ、ドンッ、ゴオゥン!!
技の連続。
絶え間なく。
延々、乱打。
二振りの大剣 VS 一振りの大剣。
剣聖 VS 元勇者。
似て非なるものだ、だがどちらが勝っても可怪しくない。
拮抗している。
序列第五位とか、第七位だとか、関係ない。
双方に勝者となる権利がある。
「やりおるな、元勇者」
「元は余計ぞ、我は勇者、ここに顕現しておるわ」
「フン、何を言うかと思えば……称号は昔、過去を捨てきれんとはな」
「それは同類だろう、シルフ?」
無言のシルフ、その天針が〈Ⅸ〉の位置にまで進む。攻撃防御に加え、ここに来て素早さが上昇。もう時期、無敵状態へと至る。そうなれば、この場の誰も止められない。元勇者とて、それは同じ。
時間にして10分から20分。
(本来の時計とは違う……だったような、我もちゃんと覚えておらん)
針の進み方、仕組みは、能力者本人しか知らない。
「そろそろ降参したらどうだ?貴君は充分に強い、いや強くなった……だがそれだけだ。針が〈Ⅻ〉まで進んだ時、貴君の変化は無駄に終わるぞ」
駆け引きは当然。的も得ている。
降参させれば、これ以上手の内を見せ合う必要もない。
それに同じ【聖なる九将】同士。互いに譲れないモノがあるから引けないだけであって、互いに互いの良心は知っている。降らせる提案は親心でもある。
対するドラゴの返答は────
「何を畏れる?」
「なに?」
「ギルテに手の内見せるのが嫌なのか?」
「畏れているだと…?」
「真剣勝負中だぞ、我はとうに覚悟くらい決めておるわ」
「聞いていれば偉そうに、私とて迷いはない!」
荒れる場。
空気、大気も揺れ。
刻一刻と進む針。
「我の剣は悪を斬る」
「私は悪でない!」
「あぁ、そうだ、それくらい知っている」
「ならば無意味!」
「それはどうかな?我の剣は迷いを断ち切る」
「くっ、五月蝿い!目障りだぞ、ドラゴオォォ!!」
二振りの大剣が、一本の細剣に。
“君臨者の絶技”
シルフの必殺技が、元勇者の心臓を───
「“聖光覇”」
「なっ……にィイ!?」
───貫くことはなく、[正]の衝撃波がシルフを叩き斬る。
「曇りある心に、勇者の我が負けるはずなどあるまいて」
肉を骨を斬ったのではない。精神、心、内なる気持ちをブッタ斬った。吐血し倒れる序列第五位、その姿が衝撃の程を物語る。
無敵状態になる既で、その僅かな時間で、ドラゴは勝利を手にした。
(むっ、あれは……?)
気絶したシルフに駆け寄って来たのは、彼女に仕える直属部下。
(確か、女のみで構成された三武人だったか?違ったような……まぁいい。戦略的撤退してくれるならば追う必要もないな)
目を合わせ、『引け』と合図したドラゴ。
行き先を尋ねたりと時間掛けないのは、まだやるべきことがあるからだ。戦いはまだ終わってない。戦場は幾らでもある。
「ゴフッ……ッ!」
だが願い叶わず、吐血した勇者。その反動は予想よりも早かった。
(体たらくだ。年を取りすぎたな……ままならんックソ!)
前方を見やるドラゴ。
その先には大きな力、禍々しい力、見知る力。
加勢に行きたいのは山々だが、暫くは休息が必要と判断したドラゴは、そのまま大地へと寝そべるのだった。
◇◆◇◆◇◆
≪ ライジン VS カンネ&スズ&夢有&紫燕≫
ライジンが知覚する数分前、共和国温泉屋敷から遠くへと引き離された夢有と紫燕は体勢を立て直そうと足掻いていた。
が、磁力で飛ばされたからといって電撃麻痺が皆無ではない。多少の痺れはあるし、一番の問題はやはり距離。
急いで戻ったとしても、逃げられる可能性は十分にある。
足の速さに自信のある紫燕でも、手足痺れながらでは、いつもの俊敏さを失う。
だから、“半自動治癒”を使用した。
同じく夢有も。
身体損傷以外にも効果発揮する“半自動治癒”は万能である。
だかしかし、依然として遠い。遠すぎる。
ここからでは攻撃は届かないし、助けを呼ぶ手段もありはしない。幸運を待ってはいられない、勝機は自らで勝ち得る必要があり────
「提案があります」
「なになにどうするの?」
紫燕は、“限界突破”の使用を決意。予め許可されており憂いもない。
但し、夢有には使わせない。
使用後、魂魄値0sになる“限界突破”は諸刃の剣。紫燕が行動不能に陥った場合の保険は必要不可欠。敗戦濃厚の状況下においては特にだ。
「おっきくなるだけ?」
「そうです。そのまま私を担いでください」
(見晴らしの良い方へ……)
高台からの固定狙撃。狙うは一点、ライジンの心臓。
威力はそのまま。
身体能力向上も、五感の向上も選ばず。
紫燕が選択した強化は武器の性能向上、といっても本来そのような効果は生まれないのだが、武器を愛で磨き毎日添い寝する異常性が、特殊な効力を発揮した。
これは、創造主ジュンも想定していなかったことだろう。
無生物にも愛情は伝わるのである。
ゆえに、超距離の狙撃可を選んだ。願ったと言う方が正しいかもしれない。
更には必中効果を選択。
物理攻撃無効化相手に必中したとて効果があるかは不明。
しかし、選択せざるを得ない。
それくらいに、切羽詰まっている状況だ。
武器の性能向上も必中効果付与も、本当に起きるかどうかの説明は受けていないが、やるしかない。
『効果発揮させる、否自分が成功させる』のだと、己を鼓舞する紫燕。
「撃ちます、反動注意!!」
夢有の『ラジャ!』の掛け声と共に、一縷の望みに賭けた一発が放たれる。
銃弾は計算通りに突き進む。
標的へと。
無音に、風を切り、真っ直ぐ。
超速。
雷撃の速度に匹敵する銃弾は、手招きするライジンのその手を貫通、腹中を抉る。
血吐く瞬間をスコープ越しに確認した紫燕。
一気に駆け出そうとするも、反動で身体強張り硬直。
巨人化した夢有がドカドカと担ぐのも計算内だったのだが────
「えっ……あっ、なんで……?」
スコープ越しに観た光景とは………
◇◇◇
銃弾が貫く一瞬、その手前、ライジンは妙な違和感を感じた。
恐怖というよりは危機感。
『この俺がか……?』とまで豪語できるのは、生物として人間として上位種に至っていると自負しているからこそ。
普通であれば、それほどに傲慢ならば、咄嗟の感覚を無下にしたことだろう。
だが何度も言うように、ライジンは馬鹿ではない。
油断はしても、一時の判断は見誤らない。
だから向かってくる銃弾に、僅かであるが磁力攻撃した。
軌道を曲げた。
急な変更は誰しも難しい。
生物の上位者だとしても、この銃弾が己を殺める程の威力を有していると感じ取っても、完全に避けることは出来なかった。
「グッ……ッ、フウッ!」
間一髪で命繋げた。
狙われた心臓に直撃はしていない。
だが恐怖はした。この感情は生まれて初めてと言えるくらいにだ。
同時に、しくじったと後悔した。
雷の化身であっても、人間種である以上は心臓があることを知られてしまった。更には物理攻撃無効化を白紙にする術を敵が保持していた。後者は脅威でしかない。
【五連星】にとっては特に。
損傷した部位は治せないとまで知られてはマズい。
これ以上の継戦は無意味。
既に情報が伝わっていたらと思うと気が気でない。
今となっては、引き離す行為自体が間違っていたと思えて仕方ないくらいにだ。
もう失態は出来ないがゆえに、逃げる必要がある。
が、何も無しでは帰れない。手土産は必須。
「糞がッ、覚えてやがれ!治したら、今度はギッタギタンにしてやるよ!」
この場に戻ろうとする二人に向かって、吠えたライジンは名指しした。エセ忍者だと。
直ぐさま、カンネだけを連れ、戦場をあとにする。これが、この戦域の結末。
紫燕がスコープで観たという光景。
◇◆◇◆◇◆
≪シン VS 唯壊≫
(厄介……だけど、抵抗出来なくはなさそう?)
〈能力封じ〉という能力者が本当に存在するとは驚きだった。
がしかし、抑えられたとて抜け道があるように感じるのは、元より彼我の差があるからか、もしくは戯言をほざいているだけなのか。心理戦を得意としない唯壊では真相は分からない。
だが、焦りも全くない。
低身長貧乳ロリの見た目をしていても、言動幼いと揶揄されても、中身は成人女性。生半可なことでは動じない精神力を持ち合わせている。
とは言え他の守護者、紅蓮や翠などと比較すれば見劣りするかもしれない。但し、個としては同程度に強く、この戦いも負けるとは1ミリも思っていないほどの自信。
それも圧倒的に揺るぎなく。
不利状況に陥っても覆すのが当然、そうなると信じ切ってさえいる。
それこそが、破壊者。
彼女の前に立ちはだかる者は等しく崩壊する。
だから、煽られようと関係ない。
泰然自若。
能力が封じられた今も尚だ。
「何故それほどまで───」
『自信に満ち溢れているのか』と続く筈のシンの疑問は、服を縫い付けるように刺さる楔が壊れたことで口止まる。
更にもう一本、服袖から外れる。
楔の壊れる様は、リドルの時と一緒。
唯壊に近く接近している部分から塵と化していく。
「バカなッ!」
狼狽えるシン。その横に佇むリドルは変わらず放心状態。
「本当に、こんなので唯壊を止められると思ったの?」
シンは核心突かれたに違いない。
残りの楔が壊れ行くのを呆然と眺めているのが、その証拠足りうる。
「ヒヒッ、ハハッ……」
笑い狂い始めたのは諦めたからと思うのが通説だが、唯壊の方はまだ半信半疑であった。
「ねぇ、本当に終わり?」
だから聞いて、尋ねた。
そのシンは、不用意に口開けたまま天を仰いでいる。
「ヒハッ!ハハッ、アァー……そうですね。いやはやすみません。感涙して呆けておりました」
分かりずらさはこの上ない。言動は道化師のよう。
「じゃっ、消すわ」
「お待ちくださいッ!」
『はぁ?』と首を傾げる唯壊。当然だ、前方の四隊長筆頭とやらは土下座しているのだから。
「何のつもり?」
「実は死にたくなくなってしまって……」
「はぁあ?」
「───ですので、トンズラします」
ユーモアある神父服着た道化師のような漫才師、という雰囲気。
唯壊にとっては苦手な相手したくないタイプであり、どこはかとなく、ペータン教の信者と同じ面倒臭さを感じてしまう。
「出来ると思ってるわけ?」
「はい、能力としての性能はそちらが圧倒的ですが、そんなに早くは動けやしないでしょう?」
「もしかして、舐めてる?」
「いえいえ、そんな、滅相も、ただ私も脚力には自信があるのですよ」
加えて、『殿はいるのでね』と付け加えたシンは、周到に用意していたであろう紺碧色の転移門で姿を消した。
あとに残ったのは霊体リドル。血肉は無いが、シンにとっては肉壁に変わりない存在。
「ぁ゙あー!!」
透明がかる存在が声荒げたのは、置いていかれたと認識したから。
「まぁ、霊体も壊せるか試したいところではあったのよね」
「あっ、ぁ゙あー!!」
霊体リドル。彼の断末魔は、そこで途絶えたのだった。
◇◆◇◆◇◆
≪ライト VS 紅蓮≫
『妾の剣の錆びとなれ!』
“恨み纏う一閃”
『平伏せ愚民!!』
“恨み纏う閃撃”
『どうだァ!妾の攻撃は?内から壊れていく様、もっと見せるがよいぞ!』
「厄介ですが、私がこの程度でヤられるとでも?“我が君のいる世界”!!」
怨嗟と重力。前者の紅蓮───でなく火怨魔人は剣技のみの近距離戦法、後者のライトは攻防両方を重視した形。中距離戦に持ち込もうとするライトに対し、攻撃の手を緩めない火怨魔人が執拗にライトを追う。
「まったく……何もかも紅蓮と違うとやりづらいですね」
怨嗟の剣は、文字通り怨恨が絡みついている剣。斬ったモノに精神攻撃を与え、能力を低質にさせる効果を持つ。更には、切っ先から柄の部分に至るまで、恨みったらしい亡者の嘆きが響き渡るため、近づく者に恐怖を与える。耐性ある者でも戦いにくい。
ライトが中距離から攻撃繰り出すしかない理由にもなっている。
だが、忘れてはいけない。
一番の脅威は剣技。
似合わない一人称を差し置いても問題無いくらいに、技術は向上している。達人級であり、その剣技は【聖九】のシルフに匹敵する。
この状態で、普段の紅蓮のような火炎攻撃があったならば決着は簡単についていたことだろう。非の打ちどころがない状況にならないのは、重力壁が硬いからなのもある。
今尚拮抗しているのは、重力という能力が万能だから。
つまりは、戦況が動くとすれば、重力壁が壊れた時に他ならない。
『暗き夜を味わうがいい、“闇の遣い”』
濃紫色の生物が空間を覆い尽くす。
すかさず重力波で晴らすライトだったが、二の手を読んだ火怨魔人が、死角からの攻撃を片手で薙ぎ払った。
『フハハハ、他愛ない』
「視えているならば鬼面は単なる顔でしかない……ということですか?」
『妾はお喋りが嫌いでな小僧、口を紡ぐがよい』
「フハッ、小僧ですか。そう呼ばれたのは実に久方振りですよ」
『安心せい、妾の方が年上じゃ』
「でしょうねぇ」
『女人の接待も出来んとわ、やはり小僧じゃな』
「さっきから、ギャーギャーと五月蝿いんですよ、お婆さん」
瞬間、空間が硬直したのは嘘ではない。
それくらいに激しい憤りが場を包み込む。
『容赦はせんぞ、小僧』
「望むところですよ、その言葉そっくり返します」
“恨み刻む破撃”
“崩壊世界”
互いが、互いに、眼前の敵を討ち滅ぼさんとする。
技の威力は広範囲に渡る重力攻撃の方が強い。より強い恨みを放っても斬撃程度では重力壁を破壊するには至らない。
と思っていたのは一人、若造と罵られた者だけ。
(何ですか、これは!?)
“虚なる光球”
(こんなものいつの間に!?まさか、今までの剣撃はこれを隠すため??こうなると、想定が狂ゥ──)
紅蓮の大技、天に浮かぶ“真なる光球”に対極する火怨魔人の大技は相反するように地に顕現。そこから生み出されるエネルギー弾は“小火山弾”と対になる、“大火怨弾”。天から振り注がず、地から振り上がる、重力を無視した攻撃。
これこそ本当に死角からの攻撃。
被弾しない理由がない。
怨嗟の塊。
重たい一撃は上からも。
斬撃との波状攻撃。
火怨魔人は紅蓮同様に中距離戦法がとれるということだ。
効果が少し違うだけなのだが、それを見誤った、想定していなかった所為で、自ずと敗者は誰か決まってしまう。
自慢の重力壁壊れたライトが地に倒れるのは当然だ。
消耗し切ったことで、異世界の宝具によって額に浮かび上がっていた紋様も消滅。普段の変人へと戻る。
(私の負けですか……)
シルフと戦った時ほどの傷はない。だがしかし、体力精神力共に大きく削っている。これ以上の継戦は不可。
降り立つ火怨魔人が、ライトを悠々と見下す。
『妾に勝負を挑んだ時点で確定事項だったわけじゃ。悔いる必要はない。運が悪かっただけ、安らかに逝くがよい』
「運ですか……」
『左様』
ライトの頬に触れる剣先。
だが笑っていたのはライトの方だ。
血が滴ったのは、火怨魔人もそう。
活動限界、否目覚め。鬼面ヒビ割れ、記憶曖昧な紅蓮が顔を出す。
そのまま膝をつく紅蓮。
こちらも消耗による気絶。
勝者は誰か分からない。
「これまた面白い結果です……」
眠るように目も瞑る強者二人、ここに沈黙す。
◇◆◇◆◇◆
≪ギルテ VS ジュン≫
ギルテの援軍として加勢に来た第一の里長イチョウと第二の里長ニリンを行動不能にさせ捕縛した創造主ジュンは、彼らの安全を確実のものとする為、“新界”でもって古城へと移動させた。ギルテとの開戦後、古城内での異常を察知していたが、程なく解決したようで【六根】の二人も任せられた。
(あっちは、これが終わったら聞けばいいわ。それにしても、面白い能力だったわね)
第一の里長イチョウは水墨画のように自身で描いた生物に跨り乗りこなしていた。空中における飛行(移動)を可能にする能力者が数少ないことは知っていたため、貴重だと感じた。第二の里長ニリンは名に恥じず、大車輪二つを武器としていた。大道芸のような身のこなしで、トリッキーだったのは言うまでもない。
だが、“黒の捕食者”の前では無意味。喰わずとも容易に捕まえることは可能。“黒の捕食者”の性質が何かの魂であるのも要因の一つ。霊体に近い部類のため、関連性ある能力者以外からは触れられない。逆に、“黒の捕食者”からはいつでも触れることができるという、対処不能状態。
この関連性とは、〈霊が視える〉などの特異な体質の者、もしくは創造主ジュンと似たような能力を持つ者を指す。
つまり、こと戦いにおいて数の優位性は、ジュンにしてみれば簡単に覆すことができるため、【六根】の参戦は脅威にならないのだ。
次いでに言えば、触手である捕食者たちが完全に消滅することも有り得ない。
個として倒されたとしても、大元の魂魄は大量にある。それこそ、守護者の何千何万倍以上。減ることもあれば増えることもあり、源が尽きることはない。
負ける可能性は万に一つもないのだ。
(敵さんの能力も大体判明したし、要らないし、目障りだし、邪魔するし、今後の障害になるからさっさと倒しましょ)
【聖なる九将】序列第九位クロウとの条件であるゼロの一派を倒す目的もあるにはあるが、それに関係せずともギルテとは因縁がある。ハーレムを満喫しようと画策する度に争いが起こり、その全てに関与していたであろう男に容赦する必要などない。
能力が似ているとも思っていない。
ギルテの先の言葉を暴言と思っているほどにだ。
(私は自分の好きを創造できる。他者に於いてのみだけどね。あんたのは造れても、そこに愛はないのよ)
だから違う。断じて、絶対に。
それを確固たる真実とするためにも、今此処で消す必要がある。
(でも食べるのはねぇ、なんか違うのよね。蟲を食べるのはアリだけど、能力者本人を、ギルテを喰わせるのは嫌な感じがするのよね)
否定はするが、能力が近しい以上は警戒して損はない。
(でも私、技なんてないのよねー)
触手攻撃 or ありったけのエネルギーをぶつけるか。
(グロいけど、拳一発で仕留めましょうかね)
手に膨大なエネルギーが収束、したりはしない。当然、見かけは変化せず。ただ握り締めるだけ。
(かよわい幼女パンチ喰らいなさいな!)
触手絡めようとしたその時、ズオオォッと現れたのは超巨大な髑髏蟲。ギルテの背後から、身体から生み出されていく無数の蟲たち。第二波第三波と続けざま。まるで、意図が読まれているかのように近づけさせてもらえない。
「ちょっ……あんた際限ないわけ?」
「だったらどんなに楽か、永遠不変を愛してやまない日はない」
「キモッ」
(──とは言うものの、私もそれは同じね。ずっと皆とハーレムしたいし……)
「心得ているさ。理解してもらうつもりはないし、負けてやるつもりもな。計画に邪魔な存在は排除させてもらおう」
更に増える増える。視界遮るほどの蟲。
「だが、全力は出さない」
「それで征せるの?」
「あぁ、簡単だ。もう戦場はここだけのようだからな」
「!?」
ギルテが発した瞬間、ジュンはその行動を理解した。
あまりにも顕著だったからだ。
意識が他方に向いていれば、もっと早くに察知できていたかもしれない。
蟲の群れは考えを読ませないという理由で生み出されたに過ぎない。
戦場からの離脱。
地面に転移門が出現した時点で明らかだ。
(ウッザァ、今更逃げるとか有り得ないんだけどォ?)
憤慨。
最初から事を起こす、邪魔するだけが目的だったと明確に理解できる。
「待ちなさいよ!」
「フッ、またいつかだ」
ギルテの転移門が、“新界”のように闇に沈むでなく、その場から消失する感覚に近いことをゾビィーの件で知っているジュンは直ぐ様動いた。
普段は“黒の捕食者”たちが先行する道を主自ら進んだ。
幼女ゆえのドタドタ歩き。
これでは間に合わないために、勢い良く跳躍。
突発的。
誘いだとは微塵も考えない。
「こちとらフラストレーション溜まってんのよ、ボケがァ!!」
他人に対する初めてまともな怒り。戦争国家ネルフェールの暴君ヴァルカンを殺ったときの感情とはまるで違う。
「なんだとっ!?」
咄嗟の行動が、今回は功を奏した。
逃げるギルテの横腹を当然に抉る幼女の拳。
「ガッハッッ、チッ、だが、まだ……」
散血。全て被らず、幼女にしては十分過ぎるほどの一撃だが、致命傷にしかなっておらず、ギルテは離脱に成功したようで───
「あぁ!!モオッ!逃がしたッ、面倒すぎィッ!」
後を追ってきた捕食者たちが、ヒトのように驚いたのも無理はない。
離脱先不明。
勝者も無し。
これにて、戦いの全てが終結した。
明けましておめでとうございます!
更新に時間を要しました。申し訳ありません。今後は、ペースを戻せるよう頑張ります。引き続き宜しくお願い致します。
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