第145話 立ち昇る煙
ネルフェール国と妖国グリムアステルの国境にて、ジュンとその守護者8名が、襲来するであろう敵を待ち構える。
敵影は未だ視えない。大軍が押し寄せる地鳴りもしない。
当然だ、入念な下調べをしたわけでもなければ、戦を促す布告状を突き出したわけでもないのだから。ともすれば、今日襲来しない可能性だってある。
これは明らかな情報入手不足、と思いきや意外とそうでもない。
ギルテの一軍は間違いなくやって来る。予想が確信へと至っているのは、ジュンが“黒の捕食者”を大っぴらに使用しているためだ。
女体化(幼女化)により、精神が安定してきた結果、これまでひた隠しにしてきた優れた力を解放した現実と言える。
そもそも、ジュンの能力は“魂に関すること”で間違いない。しかし、“魂に関すること”という名でないのも事実。簡略的な言い回しをとっている理由は、被害を防ぐためだ。これは二次被害という意味も多分に含める。
能力の〈真名〉を用いての技の使用は、魂魄を存分に使ってしまい、制限無き力は全てを破壊し尽くす恐れがあるのだ。制御困難に陥る可能性だって無くはない。
表立って戦わず、守護者に任せているのも、そういう理由からになる。単なる、戦闘不得意だけではない。
しかしながら、魂魄の消費を抑制するのは、枯渇を懸念しているから、でもない。
枯渇はしない。
ジュンが最強たる所以。
留まることを知らない魂魄は、増加こそすれ減少は稀。
それは、魂や魂魄の媒介者である“黒の捕食者”も同じ。無限に湧き出ると言っていいほどの力が存在するがゆえに、世界を見渡せる観測部屋を造るに達し、離れた場所の情報を知る手立てとなり得るのだ。
「───んで、奴らはあとどのくらいで来んだ?」
「ん~、数刻前に調べたから、もう来ると思うんだけど………」
“黒の捕食者”は、妖国グリムアステルに勢力が集中するのを捕捉した。これでは世理の世界観測は不必要になるのではと思えるが、そこは守護者を立てるし、一国の王が雑務を担うなど言語道断。戦場で対峙する他は、今まで通りに観測役は世理が担う。
「式、少しは待ったらどうなんだ?」
「オレは十分我慢したぜ」
「ジュン様から『待て』って言われてないから痺れ切らしてるんでしょ」
「そもそも、式だけ特定の言葉を言ってもらえるのは贔屓な気がします」
「あっそれ、唯壊も思ったの」
「犬っころは面倒ニャン」
「はぁ?やんのか、猫っころ!」
「猫っころなんて、誰も言わないのニャン」
時刻は昼過ぎ、陽は大地を照らすが、無駄に待つのは論外。妖国に赴くのもまた不可。征服王の由来の如く、蹂躙は簡単なのだが………
「おい臭うぞ」
「本当だニャン」
「唯壊は臭くないもん!」
「馬鹿は放っといて、これは………煙?」
喚く唯壊の文句を遮る零。いつもならまだ続く口論も、今日は控える。
守護者の視線の先、立ち昇る煙は後方より発生。
「どういうことよ!?」
ジュンの疑問は御尤もだ。予期せぬ方向からの火の手は、建てたばかりの【DS園】、その監視塔に燃え移る。火や煙とは別の紺碧色した妖気も、周辺一帯を覆う。
瞬時に現れる敵。
転移術を駆使し、組織【S】の者達を挟撃せしめんとする者の名は、【聖なる九将】が一人、序列第四位ギルテ、その配下1000名と序列第八位のゾビィー・序列第五位のシルフ、殺戮集団【六根】の本隊、更には眼下を見下ろす変人、序列第六位ニシミヤライト。
数多の思惑と制約が絡まる混沌の戦いが、今始まる。
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