第137話 作業開始⑥
博が担当するのは美術館。作業は滞りなく順調で、建物の外観は完成済み。建物内をどうするかは、それほど難しい問題ではない。美術品を飾るのだから主体は品であって、内装でないのは誰もが心得ている。博の指示が的確であるのも要因だろう。作業する兵士たちの不満が上がらないのは、そういう理屈だ。
「これはあちらに、その道具は明日も使うので置いたままでけっこうです」
加えて、博の人気は高い。それは容姿が綺麗だからとか、プロポーションが良いからという理由だけではない。にこやかに笑うわけでも、可愛いらしい声を発するわけでもない彼女だが、気配りや協調性は他の守護者と比較しても群を抜いている。
紅蓮のように高圧的でなければ、零のように機嫌を伺う必要もなく、陰牢のような含みのある言い方もなければ、籠畏や型のように何を考えているか分からないでもない。零と同じように淡々と話す仕草はあっても、兵士の休憩時間・体調を気にする素振りがあるだけで、慕われ度に違いが生じるのだ。
但し、間違っても、零が嫌われているということではない。彼女もまた容姿は良く、指示は的確、ただおっかないだけだ。尖った性格の者が多い。そういう意味で言えば、博は普通の性格ということ。
美術館建設の担当守護者が一人なのも頷ける。二人組体制が必要ないほどに有能なのだ。
「ハク様、こちらの品はどうしましょう?」
「そうですね……」
兵士が持ってきたのは、各国から入手した美術品だ。美術館を担当するのだから、その美術品の仕入れも担当しているのだが、DS計画はまだ大っぴらには宣伝されていないために、持ち寄せた品もメインを張れるような知名度は達していない。
「それは、奥に展示しましょう」
「承知しました」
次々と美術品が運ばれていく。だが、やはりメインになるような、人の目を奪うような品は入って来ない。1つでもあればベストではあるが、入手困難な物を並べるには宣伝、もしくは改めて各国の代表者へ公表すべきであると、博は思うのだ。
(王族ならば、珍品があって然るべきなのですが……)
進言すべきかは迷いどころ。先の属国会議で、輪に入れなかった経緯を鑑みれば、意見するのは適切でないと判断してしまう。
(難しいですね。研究ならば好き勝手できるというのに、他者の介入を要す事柄は計画が大きいほど厄介な問題が多くなるということですね、さてどうしましょうか……)
無断行動も不可。その行為は、評価を下げる要因となる。つまり会議に参加していた者、もしくはその関係者にしか、相談はできない。
「───お待ちしていました、どうぞお掛けください」
「えっと、僕なんかで役に立てるのでしょうか?」
博が呼び寄せたのは、東部軍を指揮する一人、ユージーン。会議には出席していないが、グラウスやアリサから多少なりと聞かされているはずだからである。でなければ、ネルフェールが壊滅しているとはいえ、国家の守り手の1つである東部軍を半分ほど動員する承諾もしなかっただろう。
「貴方にお願いしたいのは、小国レジデントにまつわる美術品の入手です。それも世にはあまり出ない品をお願いしたい」
「ですが、これは王……父さんは知らないですよね?僕から伝えて良い案件なのですか?」
「いいえ、それはなりません」
「であれば難しいです。ハク様が所望するのは王族に関係する希少性の高い品でしょう?父さんが良しと言わなければ無理だと思います」
「それは問題とする所ではありません。私は、次期属国の代表者とお話しているのです」
「それでも……ですよ」
「なに、今直ぐにとは言いません。期間も定めません。ですが、この計画が成り、日の目に出れば多くの人が訪れるでしょう。その時に目を引く物があれば、良い宣伝になるのでは、次期レジデント代表者殿?」
「それは脅しに近い何かでしょうか?」
「いいえ、全く。私はそのような含みのある言い回しを好みません。貴方が無理なのであれば、ヤンに頼みます。砂漠地帯ジルタフの王族にまつわる美術品であれば、メインを張るに相応しいでしょう」
駆け引きは重要だ。得意不得意はあるが、相手が現王で無いのが幸いしたのか、ユージーンには有効打になったようで、漸く重い腰を上げてくれた。
「ふぅ、分かりましたよ。何とか、してみます」
「感謝します」
「品は、1つでも構いませんよね?」
「はい、勿論」
「盗難はありませんよね?」
「誓って、有り得ません」
「では、行動に移ります。東部軍の指揮官不在は、そちらでカバーしてくれるんですよね?」
「その必要があるとは思えませんが、何かあれば私が対処しましょう。ゆえに、ご安心ください」
準備の終えたユージーンは出発する。この密会、博が小国レジデントの管理者だったのも良い方向に導いた結果だろう。運は向いている。あとは、彼の帰りを待つだけ。
「今日のところは、ですね」
作業終了の言を伝えた博は、ジュンの用意した宿舎へと、兵士たちと共に、今日も一番に帰るのだった。
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