第130話 不憫な男
戦争国家ネルフェール、元第2関門所指揮官のモジャルは馬車を引いていた。
「ハァ……なして、わちきがこんなこと……?」
本来であれば、モジャルは馬車を引く身分ではない。あくまでも家来や兵士が務めうる仕事だ。モジャル自身が雑務をこなしているのは、それだけ人が足りていないということ。
現在、モジャル家は父母と執事1人しかいない。
他は辞職したか屍人にさせられたか。
先日の家族旅行は運が良かったとしか言いようがない。
旅行から戻ったら母国が変わり果てていたなど夢にも思っていなかった。
(神は、わちきに生きよと申しとるだに。是が非でも生きる……いや天下を取るだによ)
だが資源は滞っている。
馬を引くのは、まだ残っているであろう作物などの食糧を回収するためだ。
周辺に誰もいないのだから仕方ない。物流も止まっていれば、作物を献上する役人や領民もいない。
つまり、自分たちで現場確認する必要がある。
であれば、家の執事に任せるべきと判断してもおかしくないのだが、ところがどっこい、執事には家を警護する役割があるし、食事洗濯といった家事も行ってもらわなければならない。
手が回らないがゆえに、一番若いモジャルが働くしかないのだ。
(パッパとマッマは老齢、いつ死んでもおかしくないだに。仕方ないだによ。でもちょっと休憩す───)
モジャルの目線に入ったのは僅かな人影。
しかし、目を凝らしても茂みがある他は誰もいない。
「気の……せぃ……だに、か?」
「──違うニャよ」
強襲は背後から。
「なっ、何奴だにえ!?」
突如の暗転は目隠しによるもの。
「確かに、この男だねぇ」
「こんな所で何やってたんですかね」
「散歩だと思うニャ」
「どうでもいいだろう。後は、この袋に詰めて家族諸共拉致だ」
「その言い方はどうかと思うよ紅蓮」
「ネルや【六根】の者共が口を割らないんだ。このカスが何か知っている可能性だってある」
「今日はその理由で拉致ってはないじゃん」
「まぁな──だが、容赦する必要もなかろう?」
「!?おたしゅけー!!おたしゅけぐだざれー!!」
「うるさいな──型、このカスの口も縛れ」
「アイアイニャー」
「い──のちだけわあぁ……フガモゴ……モゴ……」
視界奪われ、呼吸難しく、更には亀甲縛りで袋に詰められる。
(何も視えないだにぃ〜〜)
「後は、私と型でやる」
「了解。じゃ、あたしらはジルタフに戻るよ」
「モモ様に地下都市の建設が遅くなることを伝えて参ります」
「あぁ、宜しく頼む」
「いってらっしゃ~いニャー」
(こやつらはいったい何者だにえ??)
ドサッと荷物のように扱われるモジャル。
(ふごおぉ!)
「じゃ、行くか」
「アイアイニャー」
「おい、ジタバタするな!」
(フゴオォォン゙!!)
袋で覆われ視えない筈であるなのに、強烈な一発が鳩尾へと入る。
(なして……?なしてだによ……)
「変な声を出すな!」
(フゴオォォン゙ヌ゙!!)
さらに一発、最早サンドバッグ状態。
不憫な男モジャルは終始モゾモゾと動く。
その度に、炸裂する殴打。
手加減はされているが、声にならない断末魔が響く。
悶絶は、馬車が家に到着するまで続いた。
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