第127話 囚われのホスト
ひんやりとした地下牢に両手両足を鎖で繋がれているのは、変人ニシミヤライト。
(つっ………ッ)
能力が使えないのは鎖が原因───ではない。更に打ち込まれた数本の楔が、発動を制限させている。
「──どうですか、お味は?」
鉄格子の前で様子を覗き見にやって来たのは、ギルテの部下、四隊長の一人、シン。
聖人君子のような牧師が、この場所でニッコリと笑うのは奇妙でしかない。
「大したことないですね」
「強がりはいけませんよ。確かに私程度の能力で作り上げたものですが、ほら効果は絶大でしょう?」
「どこの世界の入れ知恵なんでしょうかね」
「まぁ、それは置いといて………哀れですね、ライト」
「貴方程度に、気安く呼ばれたくないですよ」
「言いますねぇ、無様に惑わされたのはそっちでしょうに」
「………」
ライトは罠に引っ掛かった。
征服王の姿をした偽物の後を追ってしまった。
以前の、男の姿だったがゆえだ。
「──にしても、危うい賭けでした。今は女性の姿なのでしょう?ライトの趣味が変わってなくて何よりです」
「くっ……」
(追いますよ、だって仕方ないでしょう?クロウとの契約が不履行、もしくはクロウの死亡で男の姿に戻るなら、その可能性を信じたっていいじゃないですか!)
「何か言いたそうですね」
「何もありませんよ」
「ふぅん、まぁ暫くは繋がれておいて下さい」
ジャラッと重石に繋がれた鎖は、生身では動かせそうにない。
「これからどうなるんです?」
「知る必要はありません」
「1つ聞きたいのですが──」
「ですから知る必要はないと言っているでしょう」
「──捕らえた理由は先程の採血が目的だったとか?」
「!?」
「ビンゴのようですね」
「腐っても第六位ということですか」
「伊達に貴方より歳食ってませんよ」
「それは……分かりませんよ」
「へぇ、そうなのですか、意外ですね」
「………」
「………」
(戦力分散もあると思いますが、あれ程の驚きようであれば採血目的が一番で問題ありませんね。ですが、今の私ではどうすることもできない。誰かに助けてもらわないと、それこそ男のジュン様に、お願いしたいものですね)
「──長居し過ぎました」
「一向に構いませんよ、なにせ一人ですから」
地下牢は広いが、他の誰かがいる様子はない。以前は沢山の人間が繋がれてた形跡があるのにだ。彼らがどうなったかも、聞きたいところではある。
「私はギルテ様の所に戻ります」
「次はいつ来ます?」
「さぁ?知る必要はありませんよ」
「ふふ、そうですか」
広い空間に足音だけが響く。
ライトは耳を澄ませ、位置の把握にだけ努めていた。
◇◆◇◆◇◆
地下牢の上層は、【聖なる九将】序列第四位ギルテが住まう城、妖国グリムアステルの首都グレーメン。
城の内部は複雑化してあり、城の者でない限り通れないし迷う。ジュンの古城に近い造りをしているのは、同じ転生者だからかもしれない。
コツコツと足を響かせやって来たのは、下層から上がってきたばかりのシン。
「面を上げていいぞ」
「ありがとうございます」
スクッと立ち上がり一礼。 上下関係がしっかり成立しているのは日頃の賜物。
「──彼の者の様子は?」
「効果上々のようで、私の力でも押さえつけられています」
「そうか」
ギルテがまじまじと観ているのは、水の瓶だ。
至って普通の瓶だが、中身の水は一滴も溢れない。
逆さにしても、重力の影響受けずに、縁いっぱいの水がプカプカとしている。
「飲みたいか?」
「飲めるのですか?」
「ふっ……」
手で掬っても、掴めないし、濡れない。そこに有るのに、そこに無い。
この水の瓶は、本来存在しえない。
「異世界の宝具という高次元の道具は、やはり便利ですね」
「この世界にとっては異物だがな」
水瓶は、【五連星】のスイジンが持ち込み、妖国訪問の手土産としてギルテに渡っている。
逆さ瓶の水が溢れないのは、現象の逸脱を意味しており、その状態の瓶に物を入れ願う事で新たな効果を生み出す。
瓶に入る大きさが条件となるが、使用したのはシンが能力で生成した楔。
磔にして動き封じをするのが通常の効果だが、更に能力封じも加えた。
ライトのような強敵に対して絶大な効果を発揮している時点で成功と言える。
「しかし、所詮は人の道具だ。重複効果は生まれないし、新しく願う事も叶わん。お前が死なぬ限りな」
「私であれば、いつでもこの身差し出します」
「いやいい、そういう意味ではない」
「──ですが、同胞は職務を全うしました」
「そうだ、実に誇り高き死だった」
言いながらギルテはシンに文書を渡す、報告書。戦場となったネルフェールのありとあらゆる内容をまとめたもの。
「拝見致します」
事細かに記述されているのは組織【S】の面々、その能力や見た目だ。仲間の死に様は一文で終わっている。
「………敵には賢い者もいるようで」
「あぁ──だが、身体回復技と能力上昇技があるのが分かっただけでも御の字だ。征服王の能力もな。無論、全て観測できたわけではないが、まぁ概ね良しとしよう」
「流石はギルテ様です」
「ルゥたちの死も無駄ではない。場はまた1つ温まった。このまま速攻と行きたい所だが、回復技がある以上、あまり意味は為さないだろう──それに、順序というものがある。【六根】の本隊との交渉もしなければならない」
「それでは……」
「あぁ、だいたい1ヶ月後だろう」
「畏まりました。それまでに準備完了させます。彼の者の見張りも怠りません」
「頼むぞ。次は、今回以上の戦いになる」
頷き、頭を垂れるシン。
「仰せのままに……」
ギルテが退室したあとも、牧師は笑みを絶やさない。
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次回は、第七章(本章)のサブ登場人物紹介編です。




