第114話 各地の情勢②
東部基地を襲撃した主な面々は、イリム、ノートン、クルシュア。彼らが率いるのは、ペータン教の一部の信者と以前より征服王に反発意志があった者達、延べ百名ほどの反乱分子。
イリムの姉イリスは戦いで死んだ。征服王の組織する【S】に属する一人、紅蓮という人物に焼き殺されたと聞いている。訃報は、きっちり届いた。どこからの手紙かは分からないが、イリムは感謝している。
『恨みを晴らせる』、『仇を討てる』。
事実を知ってからは、それだけを胸に秘め生きてきた。
「倒す……全部、姉さんの仇だ」
「突っ込み過ぎるな」
イリムの単独行動を制したのはノートン。牢屋からイリムを救った張本人でもある。
「うっ……分かってるよ。指示には……従う」
「それでいい」
イリムの能力は“鳥類化”、名前の通り飛行ができる。だが飛行だけでは訓練された兵士を倒せない。よって、イリムも武器を持つ。斬って首を断つのだ。返り血は、姉の事を思えば何も感じない。
(もっと力がほしい……)
赤眼の劇薬効果は長時間と維持される。しかし、身体能力の向上には個人差がある。服用数を増やせばどうにかなる問題でもない。
こればかりはどうしようもない───が、僅かな希望に賭けるくらいの気概を持つ者にとっては、体壊れるからと臆病風に吹かれることもない。
そういう輩に反乱部隊のまとめ役であるノートンの言葉は届かない。
(あーあ、壊れたか……)
ノートンは、【聖なる九将】序列第四位ギルテが部下に持つ四隊長の一人、カイの下で働いていた。カイが殉職する前から、宗教に潜伏していたのは本当だ。
ここでの問いは、本当にペータン教創設者の一人であるかどうかだ。
無論、これも間違いはない。だが、ノートンは本物のノートンではない。
創設者のノートンは殺されているという話だ。
それが、ノートンを名乗る人物の能力“変身”。イリム同じく低ランクの能力だが、殺した相手の姿形声全て乗っ取る力は不気味である。能力も奪えていたならかなりの強者であったに違いないが、あいにくそこまでの使い勝手はない。潜伏には長けるというだけ。
それもあってか、反乱部隊には火力強い者を欲した。最初に候補に挙がったのは、同じくカイの部下だったシズク。
(あの女は毒されちまった)
シズクは征服王を裏切れないと言い、誘いを断ったのだ。腹正しさこの上なかったが、商国に長居もできなかったため、次の場所を目指した。誘った相手は逃亡していたライラックだったが───
(あの男も昔より腑抜けちまってダメだった)
シズク同様、使い物にならないという結果。復讐果たせないまま部隊が自然消滅するのだけは避けたかった。
(仕方ないんだ……クルシュア、お前が導け)
劇薬を改良した未完成の薬、混合薬とはまた別の成分をクルシュアは飲み、そして───
「ギュアアァァァァ!!」
化け物と変異している。
(プロトタイプだが、これで殲滅する。俺達の光だ……)
化け物に成り果てた異教徒が生者を貪り尽くす。
◇◆◇◆◇◆
古城を強襲しているロクドウという名の男は、【六根】に所属する者の一人であり、同時に副長クラスで間違いない。つまりは、ネルフェールに居るはずの一人が、この地にやって来ているということ。虚を突く動きができるのは、殺戮集団の名を言わしめる所だが、城内に入るには障壁が立ち塞がった。
ロクドウが通過できたのは特殊な能力を有していたからではない。拷問を常日頃から受け、忍耐力を高めるのは【六根】の者ならば当然だったからだ。多少の痛みや血程度では顔色一つ変えないほどに体が出来てしまっている。
(先鋒は少女ですか)
負傷してしまっては不利というのは弱者の考え。それに、ロクドウにとっては何も意味は無い。
「“癒やしの輪”」
治癒系能力者であり、暗殺術に長けていることを考慮すれば、不利どころか寧ろ有利。
だがしかし、ロクドウに戦う必要性はなかった。
任務が破壊工作であるためだ。いたずらに暴れ周り脱出すれば良いのだが───
「遊戯開始」
「何!?」
何も変わっていない───のに、何かが変わったように感じてしまうのは違和感でしかない。
「何をした、貴様!」
「御託はいいから……そっちのターン……もう始まってる」
「なっ……」
上を見上げれば数字が進んでいる───否、減っている、時間制限、選択制遊戯。
「攻撃、防御、回避、あなたは何を選ぶ?」
ロクドウは主催者に囚われたのだった。
◇◆◇◆◇◆
〈帝国ヤクザ〉という仮称は、彼らに相応しくない。
理由は簡単、彼らは帝国人でない、共和国の人間でもない。
であれば、どこか───彼らは妖国グリムアステルに籍を置く不良。
ギルテの部下シンの口車に乗って、征服王の力を削ぎに来ているのだ。この地が終われば、次は共和国の王を強襲する手筈になっている。
ただ、彼らは大して強くはない。赤眼になっていても強度を比べれば、勝てるはずもない戦いに身を置いている。勝敗は戦う前から決している。そう言われて仕方ない。
だが尚突き進むのは、彼らにも家族がいるから。いざこざを起こし、争いに発展させれば、これまでの悪事は帳消しとなるほか、家族に報奨金が入る。国からの依頼に近い待遇を得るのだ。話に乗らない愚か者はいなかった。
「野郎共!全員飲め!飲んで飲みまくれ!!」
博打好き、派手好きが多い結果、薬への恐怖心は無いに等しい。
「ギョオアアアァァァ!!」
「グルアアァァァ!!」
ここでもまた、醜い化け物は生まれる。
人に有らざる存在が美女たちに牙を向く。
◇◆◇◆◇◆
商国を襲う怪物は、元【聖なる九将】第三位であり究極機械の異名を持つアルトの部下、五連星が一人、ライジン。
ライジンに目的は無い。ギルテの策略とは何の因果関係もない。ただの気まぐれ。
(さて、どうするか……来たからには少しは遊ばねぇとな)
ライジンほどのレベルになると、世界は自由に渡り歩ける───が、その許可はもらっていない。
ゼロの復活までは表立った行動は制限されている。
だが単独行動をしたことで、上司のアルトの機嫌を損ねはしない。
言及するのは、いつも仲間内。
小言を言われるのは目に見えているし、待機命令が出る可能性だってある。ならば、多少は遊んだ方がマシ、というのがライジンの考え方だ。
(紋様は……やっぱ視えねぇなぁ。ありゃなんだったんだ?)
ライジンが言うのは、陰牢がシズクにかけた一種の呪い攻撃、“有実の誓約”。
何かしらの怪我を負った場合、もしくは裏切ろうとすると、首に黒い蝶が浮かび上がる仕組みになっている。
それをライジンは、別世界から知覚し、気になってやってきたのだ。
シズクからしてみれば、理不尽この上ないだろう。
「ちっ……ッ、化け物め」
「そりゃ、褒め言葉だぜ嬢ちゃん──」
シズクには状況打破が迫られる───が、空間を裂く雷撃が行動を阻み、更には吸い付くように絡まる。
「はがっ……ッ」
「いいねー嬢ちゃん、悪くない動きだ──」
言いながら、縛る雷の追加攻撃。
「ぎゃっ……!!」
痺れた場所は焼け、皮膚から骨が浮き出る。シズクの能力では相性が悪い。細身のシズクは暗殺術にも長けるが、痺れが起きている時点では無理。
「頑張った方だが、終わりだ──」
───ドシュッッ!!
と鈍い音が響くも───
「おろ?嬢ちゃん、まさか不死身か?」
「はぁはぁ……っはぁ」
シズクの傷は治る。
“有実の誓約”の救済効果。
痛みや傷は術者に還元される。
「こりゃいい、まだまだ遊べるな!」
「あっ……」
また生命が躍動する。
「まだまだぁ、もういっちょう!」
「やっ……」
何度も何度も。
「痛いのと熱いの選ばせてやる!ヒャッヒャッヒャ、愉快、愉快!」
「めてっ……」
見えない終わり。
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




