第100話 クロウとの契約
(コレハナカナカ…)
ライトから聞いていた通りに畏怖の象徴ではなかった。
神々しさもない、普通の存在。
但し、その強さは犇々と伝わってくる。能力発動していなくとも、圧倒的な強者がそこにはいた。
「オハツニオメニカカル」
「ああ」
(シカシ、ドウイウカンジョウナノダ?)
思考までは読み取れないが、感情の一部は流れ込んでくる。
これは能力ではなく体質。
部位の無い人外が持つ奇跡。征服王が発するのは、期待と警戒、それと何かを隠したいような感情が入り乱れている。
(ゼンシャハワカルガ、コウシャハ──)
何を隠したいかまでは感じ取れない。
秘密の能力か、はたまた欲求か。
その反面、期待感は理解できる。
誰かに自分の事を聞いたのだろう。
だが、その前に話をしなければならない。
「ゾビィートノタタカイヲミテイタ」
「ほう」
「スバラシイチカラダ」
「俺というよりは世理の……守護者の能力だ」
「ソレデモダ。カイケツリョクハ、ソンケイニアタイスル。ユエニ、ワタシト、ケイヤクヲシテホシイ」
「何をだ?」
「ホーリーナインニ、トッテカワルソンザイニナッテホシイ」
「ほう?」
この言葉に嘘はない。しかし、真実でもない。クロウの契約したい内容は少し別。能力の強さだけでは全てを測れないために、敢えて真意を外したのだ。
これは、契約者としての見極め。征服王を信用するか否か────
◇◆◇◆◇◆
ジュンの情緒は不安定だった。勿論、顔には出していないし、声色も同じまま。但し、心はクロウの読み取り通りに激しく揺れていた。
(ラッキー!日頃の行いが良いからだわ!でも、本当に私の夢を叶えてくれるのかしら?)
ジュンは少し前、恥を忍んでライトにクロウの能力を聞いた。
全て把握している訳では無かったが、情報を得た。勿論、整合性の確認という意味で帝国も訪ねた。
“新界”は隠密行動に大助かり。おかげで行動は守護者に気付かれていない。ドラゴの知識はライトと遜色なかったが、契約を交わせば願望が叶うというのは合っていた。
しかし───
(【聖なる九将】に取って代わる存在??普通に嫌なんだけど……)
契約内容がそれならば相当面倒くさい。
民意を左右させるような存在になりたいのではない。
確かに、興味本位で征服行動は始めてしまった。勿論最後まで全うしようと考えているため、【聖九】が敵対するなら倒す他ない。全て綺麗にした方が、後々邪魔も入らない。世界征服は理に適っていると言えよう。
但し、ジュンの主目的はハーレムライフを満喫すること。
女体化して、女の子同士でイチャイチャしたいのであって、人々に崇められる存在へと昇華したくはない。
人々も、神と称される存在が酒池肉林のような生活をしていたら許さないだろう。
幻滅は痛くも痒くもないが反乱は起こるし、絶えず戦争は続く。
ハーレムライフどころではない。
(どうにかして、クロウの希望を変えないと、私が面倒だわ)
しかし、あからさまにやりたくないと言って評価を下げる行為は避けたい。ゾンビ襲来を解決したことで、訪ねて来ているのなら尚更慎重に行動しなければならない。
「──詭弁だな」
「ナンダッテ?ウソヲイッテイルトデモ??」
よって、否定するしかない。クロウの希望を正面から受理しないと言うのではなく、少し捻じ曲げ、方向性を変える。
「嘘……ではないが真実性に欠ける」
「ナント!?」
(どうかしら?賭けだけど、この言い方なら悪くないはず、それに──)
最初から腹を割って話す可能性は低いと熟慮したのは正解だったようで、瞳も無いのにクロウは涙を流していた。
(うぇっ、気持ち悪っ)
「カンドウシタ。マチガイデハナカッタ」
「う……うむ」
「タシカニ、ワタシノシンジツハベツニアル。ケイヤクモシカリ……」
「それで?」
「ソノマエニ、コレヲミテホシイ」
クロウが取り出しのは透明な球体。
背景が、空間が、球体の中身と同一化し、まるで天体観測場にいるかのような感覚を思い起こさせる。
「何!?」
過去の情景が映像として映し出された。
◇◆◇◆◇◆
クロウは1000年以上を生きる長寿者だ。異世界転生も5回以上繰り返している。魂が消えずに毎回のように転生できるのは、実力でもあり運でもある。
そんなクロウがこの世界、ジュンのいる現在地に転生したのは500年近くにまで遡る。
当時のクロウは、服装こそ一緒でも顔や手足は普通の人間、食事から栄養を摂取し、排便し、口から会話をしていた。
【聖なる九将】に所属したのはそれから50年後のこと。
位階付けは直ぐにされず、第六位オーディンの部下の一人として、世界の均衡を保つべく働き、それから更に50年が経った。
実に100年、大きな事変は起きず世界は安寧だった。
安寧を崩すきっかけとなったのは、〈ゼロ〉と名乗る人物が所属してからだった。
ゼロは、現在のゾビィー同じく強大な能力故に、保護目的も兼ねて位階付けされた能力者だった。
【聖九】の序列は、強さと在籍年数、そして功績によって変わる。
この功績は、どれだけ敵を倒したかではない。
世界を守り救い、【聖九】として責務を果たしたかどうかだ。
総合的な判断とも言える。要するに、人々の信頼を得れば、自ずと影響力は増す。
序列が高いほど、人々に崇拝されている証という意味でもある。勿論純粋な強さもあるにはあるが、功績の方が意味合いは強い。
ゼロが第一位として登り詰めるのも、そう時間は掛からなかった。
【聖九】が正義の味方として台頭した全盛期と言ってもいいくらいに、ゼロを筆頭として強い能力者が組織的に行動していた。
しかし、それは長く続かなかった。ゼロを除籍しようという動きがあったからだ。事実、ゼロは戦争を誘発していた。争いの無い国に火種を持ち込み、解決して自分の功績としていた。
安寧をわざと壊し、象徴だけの存在を明確化したのだ。
当然、ゼロの言い分は罷り通ることなく、除籍まっしぐらだったが、最悪なのはゼロが人を惹きつける魅力を持ち合わせていたこと。
内部分裂が起き、多くの者がゼロの意を尊重した。長い長い戦いが始まったのである。結果論だけで言えば反対勢力の勝利ではあった。
但し、完全勝利とは言えない。
ゼロは、倒す方法が無いために封印する結論に至ったからだ。
封印には幾つもの命を使い、幾重もの呪文を掛け、何層にもする必要があった。
代償として使用したのは、当時の序列第七位・八位・九位とその部下の命。
第四位・五位・六位は戦いで散ってしまった。
更に念には念を入れ、封印に使った壺は異世界の神具、異世界の能力者たちも招き入れての応戦も、第二位と三位に敗れてしまい、彼らも死滅。
封印した壺は、逃げるように別世界へと消えてしまいそうな所で、阻止を試みたクロウとゼロの意識とが重なり、不意に〈ゼロの呪い〉を受けてしまったのだ。
身体や顔の部位を失ったのは、丁度その時。
クロウの行為は虚しく、世界に歪みが生じた瞬間に、壺と当時の第二位・三位に加えその部下たちは別世界へと転移。後に残ったのは、クロウと僅かばかりの組織の者達だけだった。
以降は、【聖九】をあるべき姿に戻すべく奔走した。300年以上、身を粉にして働いた。
その間、封印の壺を探すことにも努めた。
異世界を渡り歩けるようになったのは〈呪い〉が関係した言わば渡りに船なのだが、未だに壺は発見できていない。そのような状態にも拘らず、この100年もの間、ゼロの息のかかった者は組織入りを果たしている。
第一位・二位はゼロの意志を継ぐ者で間違いない。
肌が、五感が、そう感じとったのだ。
50年ほど前に変わった第三位・四位も可能性が高い。
そういう者達を台頭させないために、シルフを間に置いたのだが、効果は薄い。契約を破棄することはないと信じたいが、最近の行動を見るに心許ない。
「コレガ、ワタシノシンジツダ」
クロウはゼロを倒したい、呪いを解きたい。
しかし、自分の能力ではどうにもならない。息の掛かった者達には簡単に負ける。攻撃型の能力者ではないからだ。
故に、新たな契約者を擁立する必要がある。それも、とびっきり強い者を…………
「何で、今なんです?というか私や部外者が聞いても良かったんですか?」
「ライトハセイフクシャガワダロウ?キョウワコクノモノタチモダ、モンダイナイ」
「呪いだけを解くのは?」
「ムリダナ」
同じ事は何度も考えた。
それこそ、異世界を渡って呪いを解ける能力者や神具を探した。
結果は惨敗、どれも敵わないのだ。
ゼロの強さは絶大。
「やってみる価値はあると思うが?」
「ゼロハ、セイフクオウトオナジヨウナチカラヲモッテイル」
「ほう、だから?」
「タトエカラダヲトリモドシタトシテ、ゼロガイタラナニモカワラナイ」
「ん?では、私たちに壺を探す手伝いをしろと言うのですか?」
「チガウ、ヤツハヤッテクル」
「どういう意味です?」
「サイショノシツモンニコタエテナカッタナ。ワタシノイノチハ、アトイチネンダ」
「「はぁ!?/え…?/なに?」」
クロウとゼロの意識は少なからず接続している。
余命1年と数字が視えるのは、ゼロの復活を意味するものでもある。
要するに、壺が壊れようとしているのだ。封印が解けるのは時間の問題。壺を補強する術は、異世界で身に付けているのだが、肝心の壺が無い始末。
発見できなければ、ゼロを倒すしかない。
「復活と同時にクロウは死ぬのでは?」
「ダカラケイヤクヲムスブノダ。ケイヤクリコウチュウハシナナイトナ」
「ふむ」
「1つ聞いてもいいですか?」
「ナンダ?」
「新たな契約を結ぶということは、現在契約中のシルフの契約は破棄されるのですか?」
「チガウ、ケイヤクスウノセイゲンハアルガ、ムコウカライッポウテキニフリコウニシナイカギリ、ケイゾクサレル」
「なるほど……」
取って代わる存在も、あながち間違いではない。本命はゼロを倒すことに他ならないが、戦力を減らすのは必要。
時期的にも、これ以上待つのは無理。
したがって───
「サイドユウガ、ワタシトケイヤクヲムスンデホシイ。ゼロヲタオシ、ノロイヲトイテホシイ。イノチヲツナギトメテホシイ。ソノカワリ、ヒトツダケネガイヲカナエヨウ」
「ふむ……」
◇◆◇◆◇◆
ジュンの気分は好調だった。過去の映像は兎も角として、契約内容を変更させるだけでなく、クロウの言葉から“願いを叶える”と聞けたのだ。
これには安心しかない。
但し───
(敵の居所が第四位しか分からないのは面倒ね。一網打尽案は無しみたいね)
クロウに居場所を詳しく聞いたところ、第一位・二位は同じように異世界を渡る力を持っている可能性があるらしく、捕捉するのが困難とのこと。
第三位は詳しく判明していないが、能力が防御型であるために見つけにくいらしい。
(つまり、いつも通り各個撃破。おそらく、世界観測でも見つけられないのでしょう。なら、国の制圧も1つずつしていって問題はなさそうね。寧ろ、そのやり方のが安心かも───にしても不便ね、いや不憫と言うべきかしら?自分の身体だけ変えれないなんて、誰かのことを思い出しちゃうわ)
一歩間違えれば、自分だったかもしれない。500年間、女体化できなかったかもしれない。
しかし、運命は違い、もうすぐ夢が手の届くところまで来ている。
(あとは、守護者にどう言い包めるかね。実は女子になりたくて皆とイチャイチャしたかったなんて真正面から言えないし、変態と蔑まれそうだし、男の時からムラムラしてたなんてバレたくないのよね。何ていうか、築いてきた尊厳が壊れそうで……)
考え込むのは野暮。
クロウを持たせすぎるのも良くはない。
ここは直感勝負。
(まぁ、女子になったらなんとでもなるわ。何か聞かれたら、コミュ障を治したかったてことにしましょ)
「ヘントウハイカニ?」
「いいだろう」
「アリガタイ。デハサッソク、ケイヤクシキニウツル」
クロウの呪文により、一本の糸が繋がる。
「ケイヤクフリコウジョウケンハ、ゼロタチヲタオセナカッタバアイト、ミズカラノイシデホウキシタバアイダ」
「わかった」
展開する契約陣。
「ナニヲカナエタイカ、フカクネンジヨ」
(美女!!巨乳!!お姉さん系!!お嬢様系でもいい!!陰キャはダメよ!!)
「フクザツスギルノハヨクナイ」
(女体化女体化女体化女体化女体化女体化!!)
「ココロヲシュウチュウサセロ」
(はぁはぁはぁ、早く!身が持たない!女の子とイチャイチャさせなさいよ!!女体化女体化女体化女体化女体化女体化女体かあぁ!!)
心の叫びと共に、光に包まれる。
皆の前に姿現した存在とは───
ジュンが憧れた姿───
最高峰の美女───
出るところは出て、締まるところは締まる───
ナイスバディな誰もが羨む姿───
ではなかった。
「えっ………?」
なんと、ジュンは幼女になっていたのである。
それも、夢有より幼く見える6歳程度の姿。
「「ええぇぇぇーー!!!??」」
作品を読んでいただきありがとうございます。
作者と癖が一緒でしたら、是非とも評価やブクマお願いします。




