第98話 新たな守護者
古城内の未稼働だった研究室には二人の守護者。
1人は陰牢、研究室と拷問部屋は対になっており距離的に近いため、いつもの葡萄酒ではなく珈琲片手に様子を見ている。
もう1人は新しく創造された守護者の博。
白い研究服を着て、この世界では唯一とも言える煙草を咥えている。
勿論、室内の換気は良好、誰かが肺炎になることも無い。衣服に加えて煙と髪も白いため、褐色肌はより際立ち、美人に魅せる。
今現在、博が行っているのは、劇薬と秘湯効能の成分分析。それぞれ分析するよう創造主のジュンから命令された、博の初仕事。
「劇薬の効果時間は約3時間、興奮剤と増強剤が組み込まれてる。経口摂取だけでなく、経皮吸収も可能なことから別バージョンが存在すると思って正解。紅蓮が持ち帰った物と、この辺りの押収品に見た目の差もないから、これにて一旦終了──」
劇薬を飲ませる対象は、拷問を受けていた者達。
罪人は、いつも少なからずいるため問題ない。
劇薬摂取させる事自体は陰牢でも可能だが、効果内容を正しくは分析できない。
それくらいに、博の賢さはズバ抜けている。
IQ200超えと言っても過言ではない。
但し、一番かと言われると判別はつかない。
博が創られる前は、零・紅蓮・陰牢が頭脳トップ3として君臨していたが、各々の指標は出していなかった。
それに、IQという漠然とした数値では全てを測れない。
日常における賢さと、仕事や戦闘における賢さは別物だからだ。
順位付けする必要性もないのだが、陰牢の考えでは自分を超えていると認識している。
(零とトップを争う感じね)
次いでに言えば、紅蓮よりはと自負するため、トップ3からも陥落していないと判断。自画自賛している間に秘湯の分析も終わる。
「これに、声を変える以外の効能はない──ので、今からジュン様に報告しにいきます」
「へぇ、そう」
二人にしてみても温泉の効能を調べる理由が分からない。
しかし、文句は垂れない。根掘り葉掘り聞くこともない。聡明な主が、意味の無いことを調査依頼しないと思うからだ。
創造主とはそういうもの。尊敬に値する存在。
「後学のために、私も一緒に行っていいかしら?」
「どうぞ。丁度、他者の意見を聞いてみたいところでした」
「あら、私の……じゃないのね?」
「ええ、まぁ」
「ふぅーん、そっ……じゃ、行きましょうか」
出会って数日。仲が悪いでも趣味が合わない訳でもない。創られた順番に上下関係もない。
これは、単なる静かな対抗心。分野が近いと火花は生まれる。
◇◆◇◆◇◆
守護者には基本、各人の個室が設けられている。仕事する部屋と生活する部屋は別。
陰牢は拷問部屋で寝たりしないし、博は研究室で食事を摂らない。
嗜好物程度は口に入れるが、それは時々。
例外があるとすれば、世理と翠。
世理は観測部屋とほぼ一体化、翠はジュンの作り出した別空間に居る。
その二人を除けば、普通は各個人の部屋で日頃生活している。古城内に、桃色の女の子ぽい扉や野性味溢れる扉があるのはそういうこと。
居住棟には、現在15の部屋が存在する。
その1つ、黒と白を基調とした扉は新しく創造された守護者の部屋。その扉を開けると目に入って来るのは、床を埋め尽くすほどの人形と小さい衣装。部屋の真ん中には丸机が1つ。
横に座るのは、新守護者の籠畏。
髪色こそ黄色いものの、着ている服は床にある人形たちと同じ黒と白を基調にした衣装。
胸には十字架を装飾しており、どこか幻想的な雰囲気を併せ持つ、俗に言う〈ゴスロリ〉という服装だ。
籠畏の部屋には今、新人を出迎えるという名目で夢有が遊びに来ている。
「ねぇねぇ、これは?」
「それは──」
部屋には子供向けに遊べる物がいくつもある。人形しかり、本しかり。全ての本を読むのはできないが、中には童話本もあり時間を潰すには丁度いい。人形たちの衣装は同じ物しかないため着せ替えたりはできないが、髪を梳いたり、ままごとに似た遊びは出来る。
「今度はこれしよう!」
「……いいよ」
独特な装いだからといって口調もそれに合わせたような感じではない。
翠ほどの無口ではないが、籠畏も多くは喋らない、基本単語は少ない。
但し、会話は成立するため、このように他の守護者が訪問しには来る。
「そろそろ……いい?」
基本は一人を好む。本を閉じ、遊びは終わりと告げたのだが、お子様は帰ろうとしない。
「これなにぃ?」
あろうことか、触れようとしたのは籠畏の横にある手持鞄型の遊戯盤。
「だめ」
ヒュイっと、颯爽に動くのは流石は能力者といったところ。急な回避に遊戯盤に触れることなく転ける夢有、涙目にはなってないが意味は分からない。
「なんでぇ?」
「これは──」
遊戯盤は遊び道具ではない。
これは武器。
敵を殺すための道具。
おいそれと触れる物ではない。
開くことは遊戯開始を意味する。
「──秘密」
好奇心旺盛、興味津々の子供には酷だが、引いてもらうが吉。
また今度、別の機会で遊ぶことを取り付けさせたことで、夢有もやっとこさ帰っていく。それをきちんと確認した籠畏は自室へと戻り、鍵を閉めるのだった。
◇◆◇◆◇◆
古城には薄い膜状の障壁が張っている。これには暑さを防いだり、風を阻んだりする効果は無い。侵入者を防ぐ警戒網であり、守護者もしくはジュンが認めた者しか無事に入ることを許されない。
古城の壁に触れることも、またできない。それができるのは、先ほど容認している者達だけ。ゆえに、古城の屋根で寝そべっているのも関係者に限る。
「ん~ニャフ」
日光を浴び、気持ちよく寝ているのは新守護者の型。
欠伸までしている彼女は高い所が好きな猫。
式と同じように獣属性を持つ彼女は、同様に獣の尻尾と耳を持ち、夜目が効く。違うのは犬か猫かということと、それに即した性格。
型は好戦的ではないし、武器は持たない。外出は少ないし、主の横に寄り添いたいなどと我儘言わない。
自由奔放。
型と式は同じようで同じではない。
「ん〜~」
寝転んだまま背伸びする。
「ニャにかニャ?」
名を呼んでいたのは月華だった。
「やっと見つけたぁ。急にどこかに行かないでよね」
型は先ほどまで、月華と組手をしていた。
しかし、途中で消えた。
組手の最中と言ってもいいくらいに中途半端な所で居なくなり、慌てて心配した月華がここまでやって来たのだ。
「ニャって、疲れたんだニャー」
「自由過ぎる……型はそういう性格なの?」
「そうだニャ、型は堅苦しいからケーちゃんて呼んでいいニャよ。こっちもツッキーって呼ぶニャン」
「えっ、あ……うん、いいけど……」
「嬉しいニャン、また一人友達ゲットだニャン」
「友達って……ボクたち元々同じ守護者じゃん」
「ふんふふーん♪」
自由過ぎる猫につられて月華も寝そべる。
但し、起きたのは夕刻夜手前。勿論、猫は居ない。
「何でー!!起こしてよ!!」
翻弄された月華、風邪を引かなかったのは日々の鍛錬のおかげ。
しかし、また後日被害は出るのだった。
(ニャハ♪)
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守護者が増えたことで、主要登場人物の紹介ページを更新しています。
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