第96話 笑顔な理由
組織【S】が台頭する以前、まだ征服王が各地を属国化していなかった頃から、ドラゴニアス帝国は周辺諸国と様々な条約や協力体制を築いていた。
その中で、一番の友好相手は商国。有事の際に兵力を貸し与え、見返りに金銭を得るという決め事は、帝国を潤沢にする効率的な手段の1つだったのだが、商国がルクツレムハ征服国の属国となったことで廃止無効となった。
戦争国家ネルフェールとの停戦条約もだ。但し、無効になったと言っても戦端は開かれない。
侵略する意味が無いからだ。帝国はルクツレムハ征服国とは唯一の友好国であり、帝王ドラゴも征服王を気に入っている。
わざわざ不快にさせる必要はない。
他に協力体制が築かれている国は3つあるものの、その1つは商国や戦争国家ネルフェール同様に廃止無効される予定になっている。
確定していないのは、正式な発表がなされていないからだ。
これは単なる噂でしかない。残る2つの内1つは完全に廃止。属国が決まり、様々な事柄が変更され、ルクツレムハ征服国に帰属されたからだ。
しかし、これらは永久に無くなるものではない。
征服王の許諾を得れば、属国相手とも友好な条約は交わせる。
廃止した条約を、再度決め直す。征服王という大元の存在を意識しつつだ。今日はそのための話し合いであり、帝王ドラゴの側近者であるリカクは、砂漠地帯ジルタフの王都へと訪問している。
「なんと……!?」
しかし、予定していた会談は、対談者である王が熱で寝込んだために急遽中止となる。財務や外交などを担当する者達も一斉にだ。征服王に提出する国の法案を何度も訂正是正され、やっと完了したことで気が抜けたのが原因らしく、医者からは数日安泰するように言われたとのことで、リカクと会談できる者は誰一人としていない。
一応、王女は無事なのだが───
「私では何とも──良ければ、数日王都を見学して下さい」
あいにく拒否られてしまい、用意された宿で一休憩も、王女の指示でやって来た取り巻きらに外へと連れ出される。
彼らは自警団、王都を警備する者達。
一部の王族を警護する任もあったりするので、護衛役には申し分ないが、リカク的には心休まらない。ドラゴニアス帝国から砂漠地帯ジルタフまでは、かなりの距離がある。丘陵もあれば、国を跨ぐ必要もあるし、砂漠もある。
馬車の類は使えないし、使う気もない。
リカクも、一人の能力者だ。自身の足で歩くことの方が早い。
だが長旅に変わりない。休息も取りつつだったが、疲労は溜まっていた。通常通り会談できれば後は休むだけだったが、できないのであれば、その間宿で自由気ままに過ごす方が絶対にいい。
強引に手を引っ張られるのは願い下げだったのだが、2人共ウッキウキな笑顔だったために断れなかった。
「これなんてどうですか?」
行き先も勝手に決められる。接待客に意見は聞かれない。服屋に入ってもそう、頼んでもいないのに、国の衣装を着せられる。頭に被り物をするのは久し振りだった。
「主は、確かナタリーと言ったか?」
「はい、そうです!こっちはリックです!」
「こっちって、雑な言い方……ナタリー、俺はもう自警団No.3なんだぞ」
「私は認めていません」
「ガーン!!」
「……」
人選も間違いなのではと不思議に思いつつ、騒がしく喋りも絶えないために、余計に疲労が蓄積していく。
(宿で休みたい)
フカフカな寝具に包まれ目を閉じたいのに、終わりそうにない気配。
「リカクさんには、これも似合うと思うんです!」
「いや、拙者は……」
「ナタリー違うぞ、男ならこっちだ!」
「これは遠慮する」
「ガーン!!」
「リックは黙ってて、服のセンスないんだから」
「ガガガーン!!」
「……」
服屋の次は雑貨屋、ここでもまた欲しいと言っていないのに勧められる。この世界に、砂漠地帯が1つだけということもあり、文化は特殊で流通する商品は他国にない物が多い。
店には珍品が並ぶ。それもあって、過去の条約では商品を安く提供してもらうというのが見返り条件にはあった。
つまり、リカクは王都の街並みを知っているのだ。商品こそ多少の変化はあったとしても、この70年の間に何度かジルタフを訪れている。
見学する必要はなかったのだ。
「すまないが、そろそろ拙者──」
「次はこれを付けてみてください!」
「いやいや違うぞナタリー、俺はこれが良いと思う」
「リックは全てに於いてセンスないんだから黙って!」
「ガビーン!!!」
「………」
(いつになったら終わるのだ?)
王女の余計な気遣いで、体調を崩してしまいそうだったが踏ん張る。そう何度も砂漠地帯ジルタフに来れるものではない。
結局その後も、幾つかの店を見て回され、時刻は夕方、現在地は自警団の屯所。自警団特有の砂漠の馳走を頂きながら、体を休めている。
「──して、何故それほどまでに笑顔なのだ?」
屯所には、他の団員らもいる。ナタリーやリックと一緒で、全員がウッキウキな表情をしているのが不思議でならないのだ。
変な薬を飲んでいるのでは、と怪しむほど。
「ミズキが、お菓子作り大会で勝ったからだよ」
「お菓子作り大会??」
(確か、ドラゴ様が呼ばれてないと嘆いていた件か……)
「ミズキさんは最高です!」
「流石は俺の超える壁と言ったところだな」
そうは言っても、それが彼らを終日笑顔にする理由にはならない。
優勝の一報は少し前の話だからだ。
「俺は、俺だけのファンクラブを作りたい」
「??」
「私は、色々な国に行って知見を広めたい」
「??」
突然、それぞれが思い思いに願望を口ずさむ。しかも国を整備して欲しい、地下都市を復活したい、異文化交流したいなど多種多様。聞けば、大会優勝の褒美を決めるにあたり意見を出して欲しいとミズキが言ったからなのだが、この興奮状態を見るに一人一人の願望を叶えるまでに変わっている気さえするのだ。
「それは……ちと違うのではないか?」
だが誰も聞く耳は持たない。妄想に耽っている彼らに歯止めは効かない。話の尾ひれが広がっている。
これは新進気鋭な国に陥りやすい症状。決め事は早めに決めた方がいいのだ。そうでないと、あとで揉めるし、収拾がつかなくなる。
(まぁ、よいか)
征服王に情は湧くが、他国の王に変わりない。
自分の主は帝王ドラゴ。征服王の失敗を反面教師にして、ドラゴニアス帝国を一層良くしていけばよいだけのこと。リカクも、よりその責務に励むことを決意するのだった。
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