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悪役令嬢に転生しましたが、人型機動兵器の存在する世界だったので、破滅回避も何もかもぶん投げて最強エースパイロットを目指します。  作者: 真黒三太


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ティアー ④

 眼下のストリートで繰り広げられる光景……。

 それはさながら、飼い犬に振り回される人間のごときものであった。

 ただし、犬の方は全長六メートル近くあるし、人間の方も十八メートル級のサイズであるが……。


「よくないねー。

 よくないよ、カミュちゃん。

 それじゃ、ジリ貧だもの」


挿絵(By みてみん)


 Dペックス公式大会が開催された901ビル屋上……。

 特等席とも呼べる場所から戦いの様子を見たクリッシュは、そう独り言を漏らす。

 周囲は、いまだ避難が完了していない観客たちでごった返しており、そんな少女の様子に気を払う者など、一人としていない。


「人間が動物へ対処するようにしたらさー、勝てるわけないんだよー。

 だって、人間って、生き物としてはすごく弱いんだしー?」


 クリッシュの言葉通り……。

 戦いは、ひどく一方的な様相を呈している。

 例えば、勢いよく跳躍し……。

 例えば、すぐ脇にあるビルの壁面を利用した三角跳びで……。

 あるいは、跳躍などせず、アーチリッターの足元目がけ……。

 ヴァンガードがティアーと呼んでいた機体は、様々な方法でアーチリッターへと襲いかかり、徐々にその装甲を粒子振動爪で削り取っているのだ。


 まだダメージは表層的なものに過ぎないが、すでに右手のマニュピレーターは使い物にならないほどズタズタにされており、機体本体が同じようになるのも近い。

 いや、それ以前に、このままいけば体格差を活かして壁になることもままならなくなり、ティアーの突破を許すことになるだろう。

 そうすれば、ティアーを操っている名も知れぬパイロットは、与えられたコマンド通りに、目標のビルへ背部ビーム砲を撃ち込むのだ。


「まーねー。

 カミュちゃんが勝っても負けても、関係ない計画ではあるよー。

 ヒラク社長もバカじゃないから、とっくに皇帝ともども避難してるだろうしー?

 でも、どうせなら推しには勝ってほしいかなー」


 のんびりと……。

 それでいて、言葉よりはどうでもよさそうな口調で、独り言を続けた。


「ヴァンガードを追い込んだっていうセンス、ここで発揮していこうよー」


 それは、応援というよりは、願い……。

 いずれ狩ることになる獲物は、強ければ強いほど良いのだ。




--




「このままでは、突破される……!

 運動性能に違いがありすぎるんだ……!」


挿絵(By みてみん)


 謎の獣型PLと数度の攻防を終え……。

 アーチリッターのコックピット内で、俺はそう漏らしていた。

 すでに、腕と言わず、脚と言わず、機体各所は敵機のクローによって無数の裂傷が走っており……。

 このまま攻撃を受け続ければ、ダメージが装甲だけでなく、内部フレームにまで及んでくることは明らかである。

 そうなれば、ただでさえ差がある運動性能の違いは絶対的なものとなり……。

 図体の大きさを利用して壁となることも、成立しなくなるだろう。


「まだ、皇帝が避難したという通信は送られてきていない。

 ここで食い止め続ける……。

 ううん、倒してしまわなければ……!」


 だが、どうする?

 こうまで一方的な状況に追い込まれている理由……。

 それは、戦闘のシチュエーションと、人型に対する獣型の利点が理由である。


 繁華街のストリートを戦場にしている以上、こちらは飛び道具など使用できるはずもなく、格闘戦で挑まざるを得ない。

 それが、相手を有利にしているのだ。


「これじゃ、人間が大型の野犬を相手にしているようなものだ……。

 例え近接武器があったとしても、勝負にならない……」


 またも飛びかかってきた敵機のクローを、右腕で防ぎながらつぶやく。

 そもそもの話として、人間という生き物は、野生生物としてひどく貧弱な存在である。

 それが生態系の頂点に立てたのは、武器――それも、主として飛び道具を扱ったからに他ならず、もし、道具を生み出すだけの知性が目覚めなかったならば、とっくの昔に地球で絶滅していることだろう。


 つまり、今の状況は、もし人間がろくな武器も持たず野生の獣と戦ったらどうなるかを、再現しているようなものなのだ。

 ただ一つ、その想定と異なる点があるとするならば……。

 生の生物同士で対峙した場合と異なり、機体が大型な分、パワーでは確実にこちらが勝っているということであった。


「だったら……!」


 俺は、思考を切り替え、正面のタッチパネルをつっつく。

 表示させたのは、格闘戦に関するモーションパターン……。

 人間のそれがそうであるように、PLの格闘戦というものは非常に奥が深く、モーションパターンは様々なものが用意されている。

 そこから、選び出すのは……。


「そんなモーションなんてないから、寝技をベースに即興でアレンジするしかない……。

 いけるか……!」


 多くのアクション映画がクライマックスで披露するように、結局、人間同士の格闘戦というものは、取っ組み合いが究極形であった。

 従って、PLのモーションパターンにもそれは存在するが……。

 そこから、マニュアル操作でさらに派生させる……!


「勝負は、ここからです」


 路面スレスレにまで下がっていくメインカメラの映像を見ながら、俺は口元に笑みを浮かべていた。




--




「おい、あれはなんだ……?」


「カミュちゃま、ついにヤケになったのか……?」


「それとも、機体が立てなくなったとか……?」


「ああ、だったらもう戦わなくていいから、逃げてくれ……!」


 逃げ惑う人々の一部が、眼下のストリートで繰り広げられている戦闘の変化に気付き、そのような言葉を漏らす。

 一方的に機体を切り裂かれ続けたアーチリッターが見せた動き……。

 それは、四つん這いの姿勢となって、メインストリートに低く構えるというものであった。


 さながら、それは人間が動物の真似をするかのごとく……。

 弓矢を扱うため、関節可動域が強化されているアーチリッターならではの構えだ。

 戦闘というものが分からぬ人々は、それを見て何も理解することができずにいたが……。


「ふうん……やるじゃん」


 ただ一人、クリッシュのみはカミュの意図を正確に理解し、笑みを浮かべる。

 今、カミュがやろうとしていること……。

 それは、同じ状況ならば、クリッシュ自身も行うだろうことであった。


「相手が獣である以上、人間の戦い方してたら、勝ち目なんてないからねー。

 だったら、やるべきことは一つだよー。

 ……ふあ」


 思わずあくびが漏れ、口元に手を当てた。

 すでに、眼下で行われているショーは、見るに足らない代物と成り果てている。

 先が見えた勝負ほど、退屈なものはないのだ。


 お読み頂きありがとうございます。

 次回は、VSティアー戦決着です。


 また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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