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悪役令嬢に転生しましたが、人型機動兵器の存在する世界だったので、破滅回避も何もかもぶん投げて最強エースパイロットを目指します。  作者: 真黒三太


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暗殺騒動

「よお、諸君!

 楽しんでくれているかな?」


 この銀河において、最も尊き人物が、そう言いながら姿を現す。

 皇帝という身分にありながら、その身を飾る冠もコートも、王笏もない。

 ただ、一流のテーラーによって仕立て上げられたオーダーメイドスーツを、ビシリと着こなしているだけだ。

 その簡素さが――粋。


 真の紳士たれば、それでよし。

 その姿を保ってこそ、権威というものが示される。

 そのような心意気が、言葉にせずとも伝わってくるかのようであった。


「どうやら、カミュ殿に挨拶するのは後回しだな」


「仕方があるまい。

 ああもロマーノフ大公家の派閥に囲まれてしまっては、我らが立ち入る隙はなかった」


 さすがにいつものキモノは脱ぎ、スーツに視力補助用のゴーグル姿となったケンジが、アレルの言葉へうなずく。

 普段ならば――例えば仕込み杖など――なんらかの形で刃物を携帯するサムライであるが、今のみは寸鉄すら帯びていない。

 これは、銀河皇帝主催のパーティーであるのだから、当然のことであった。

 入場前に、金属類は必ずチェックを受けるのだ。


「まあ、挨拶は後回しにしよう。

 今は、陛下の話を聞くのが先決だ」


「うむ」


 うなずいたケンジと共に、手近なテーブルへ手にしていたグラスを置く。

 翠玉の間を見回せば、他の招待客たちも同じようにしており……。

 かなりの人だかりができていたカミュ嬢の周囲や、ヒラク社長の周りからも、人が離れていた。


「うん……。

 まずは、和やかに談笑を楽しんでくれているようで、何よりだ。

 礼節が、人を、形作る。

 こうして、ここに集っているのは有力な貴族諸侯や、これからの帝国を担っていく各界の有力者たちであるわけだが……。

 その諸君に、紳士淑女たる精神が宿っていることを、誇りに思うと共に、頼もしくも思っている」


 朗々たる声の響きは、人の上に立つ者にとって、重要な資質だが……。

 その点でいけば、カルス・ロンバルドという人物は、まさに生まれながらの支配者であるといえるだろう。

 インカム一つ用いていないというのに、その声は、広大な翠玉の間の隅々まで響いており……。

 しかも、歯切れよく爽やかなその声は、声量に反していささかの聞き苦しさもないのだ。


「――が!

 残念なことに、この帝国を構成する全ての人間が、そのように高潔な精神を宿しているわけではない」


 舞台役者じみた所作でパーティーの中心へと歩んできたカルス帝が、大仰な手振りを加えながら、周囲の人物に語りかける。


「各地で跳梁する宇宙海賊……。

 そういった非合法組織へ兵器を提供する闇商人。

 おまけに、巷ではゴチソウアニマルの買い占めと転売が大問題だ!

 俺もチョコゴチソウ欲しいのに!」


 転売云々に関しては、皇帝陛下一流のジョークといったところだろうが……。

 まるで、大宇宙の大いなる意志から天意を受けているかのように感じられるのは、彼が受け継いできた血の高貴さによるものだろう。


「……と、まあ、我が銀河に問題は山積みだ。

 部屋の片隅へ、埃が積もるかのように……。

 放置してきた汚れというものが、いよいよ、無視できないレベルに達している。

 しかも、嘆かわしいのは、諸君らと同じく大いなる責任を課されていながら、それを放棄し、悪事へ加担する輩もいるということだ」


 そこで、カルス帝がおもむろに手を差し出す。

 その先にいるのは、他でもない……。

 カミュ・ロマーノフ嬢その人だ。


「そこで俺は、直轄の秩序維持機構――Imperial Directorate of Order and Lawを創設した。

 略称はIDOL!

 指揮官は、こちらのかわい子ちゃん……カミュ・ロマーノフだ」


 カルス帝に促され……。

 スカートの裾を摘んだカミュ嬢が、さすがにやや緊張した面持ちで礼をする。


挿絵(By みてみん)


 その可憐さに、周囲の客たちが息を呑んでいた。


「知っての通り、カミュちゃんは名門中の名門ロマーノフ大公家の令嬢であり、貴族の中の貴族だ。

 そんな少女が、幼いながらに部隊を率いて行ってきた活動については、諸君らもよく知るところだろう。

 そして、その動きは、この場にいない数百億の帝国民たちにも、知るところとなっている。

 彼らは、熱狂しているが……。

 それと裏腹に、面白くない思いを抱えている者も多いだろう。

 どう言い繕ったところで、これは俺による内政干渉だ。

 これまで培われてきた帝室と貴族の関係を一度ぶち壊し、再構築しようというのだ」


 そこで、カルス帝が一拍の間を置く。

 招待客たち……ことに貴族階級の者たちが見せた反応は、難しいものだ。

 薬が、病の体に対して用いられるならば、よし。

 だが、行き過ぎて予防薬の役割まで果たそうとし始めれば、その先にあるのは健全なる身体活動の阻害である。

 皇帝が直属の部隊を、好きに臣下の領内で動かすというのは、そういうことなのであった。


「まあ、つまりは、こういうことだ。

 ――Trust Last!

 信じ抜けるか、どうか……。

 俺も、お前たちもな」


 カルス帝は、主催の挨拶――いや、改革の宣言を、そう締めくくる。

 招待客たちはそれを受けて、しばし、考え込んだが……。


 ――パチ、パチ、パチ。


 ここですかさず拍手を贈れたのは、アレルが持つ嗅覚によるところであろう。

 やや遅れて、隣にいるケンジや他の客たちもそれに追従し……。

 やがて、翠玉の間は万雷の拍手で包まれた。


「さすが、外さないな。

 皇帝陛下の記憶へ、真っ先に拍手を贈った忠臣のことは刻み込まれただろう」


「野心たっぷりな若手貴族家当主としては、こういうところでポイントを稼がないとね」


 冗談めかした言い方で、友の言葉に答える。

 事件が置きたのは、その時だ。


「――皇帝覚悟おっ!」


 カルス帝の周囲で、賛辞を贈っていた人々の中……。

 貴族男性の一人が、そう言いながら懐から刃物を取り出したのであった。

 玩具めいたあの造りは――セラミック。

 セラミック製のナイフだ!


「――うっ!」


「――むっ!」


 これには、離れた位置にいるアレルとケンジでは、対処のしようもない。

 ユーリ少年のみは、恐るべき身の軽さでテーブルというテーブルを乗り越え、皇帝と主の下へ向かおうとしていたが、到底間に合うはずもなかった。

 凶刃に晒されたカルス帝とカミュ嬢が、ギクリと動きを止める。

 やけに、ゆっくりと時間が流れる中……。


「――感心しないな。

 このようなオモチャを、陛下主催のパーティーに持ち込むなんて」


 一人の紳士が、そう言いながら暴漢と化した貴族男性を締め上げていた。

 ナイフを持った腕は捻り上げ、その上で自分の体重も使い、悪漢の体を押さえつけており……。

 関節も極まったこの状態は、完全なる制圧体勢である。


「――感謝します!」


「――こいつ! なんて奴だ!」


 駆けつけたSPたちが、悪漢を取り押さえ……。

 皇帝を救った人物は、立ち上がりながら自分のスーツを直すのだった。


「あれは……?」


「知らんのか?

 ヒラク・カンパニーの社長、ヒラク氏だ」


 尋ねた自分に対し、ケンジはそう答えたのである。


 お読み頂きありがとうございます。

 次回は、今章の重要人物本格登場です。


 また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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