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悪役令嬢に転生しましたが、人型機動兵器の存在する世界だったので、破滅回避も何もかもぶん投げて最強エースパイロットを目指します。  作者: 真黒三太


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銀河アイドル カミュ・ロマーノフ

 例えば、皇星ビルク首都のオフィス街で……。

 例えば、水産惑星で漁船に揺られながら……。

 例えば、スペースコロニーの通勤列車で……。


 銀河帝国の民が、携帯端末で見るニュースや新聞で、ここのところ必ず目にする名称があった。


挿絵(By みてみん)


 ――IDOL。


 皇帝直属の秩序維持機構――Imperial Directorate of Order and Lawを略した名称であり、その実態は、現皇帝カルス・ロンバルドの意を受け、銀河中の騒乱解決に取り組む独立機動部隊である。


 報道媒体が告げるIDOLのニュースは、様々だ。


 ――騎士爵の専横に武力のメスが入る! 惑星オロッソで密かに起こっていた内乱終結!


 ――PLの密造を行っていた悪徳貴族、正義の鉄槌を受ける! 解決したのは皇帝直属の機動部隊!


 ――またしてもIDOL大活躍! 辺境宙域を荒らし回っていた海賊たちも、とうとうお縄に!


 いずれの場合も、これまで、各貴族家の独立権限が高かったがために、発生していた問題であった。

 貴族の専横や犯罪は言うに及ばずとして、そもそも、近年問題となっていた海賊の跳梁というものは、彼らが貴族領同士の領境を活動拠点としていたのが大きい。


 討伐するにしても、はたして、どの家がそれを行うのか?

 はたまた、連合艦隊を派遣するのか?

 連合を組むとして、旗頭となるのはいずれの家なのか?

 また、時に他家の領域へと飛び越えねばならぬ拠点探索を、どの家がいかなる権限で執り行うのか?


 まるで、警察が所轄ごとに捜査権を争い合うかのようなやり取りが、被害に遭っている各貴族家同士で交わされていたのである。

 一連のIDOLによる活動は、それらの問題に対し、ついに帝室が大鉈を振るったということであった。


 それに対する反応は、様々だ。

 まず、貴族階級の間に走ったのは、緊張であり、反発である。


 ――皇帝が、独自の諜報組織によって各貴族家を内偵している。


 ――しかも、そこから得られた情報を基に、強力な機動部隊による強制介入を行っている。


 これはつまり、これまで独立自尊を是としてきた帝国貴族に対する内政介入であり、現皇帝カルス・ロンバルドによる宣戦布告といってよい。

 確かに、銀河帝国の最高権力者は皇帝その人だ。

 しかし、その下につく銀河貴族たちは、自分たちの自治権を保証されてきたからこそ、帝室に仕えてきたのであった。

 そこへ、理由があるにせよくちばしを挟んでくるというのは、いわば約束を反故にするかのような行為なのである。


 とはいえ、いずれも帝国憲法に反する行いであったり、銀河の秩序を守るための活動であり……。

 貴族たちは、内心面白くない思いを抱えながらも、今まで通り服従の姿勢を――少なくとも表向きには――見せていたのであった。


 一方、庶民層の反応はといえば、これが単純かつ劇的なものである。

 すなわち……。


 ――熱狂。


 ……この一言だ。

 正式量産機としての機能性を追求した結果、いかにも無骨な工業製品然としているリッターと異なり、IDOLという組織が扱うバイデントなるPLは、やや攻撃的なシルエットながらも――カッコイイ。

 レッドカラーを用いているのも、古代地球時代からのマーケティングデータへ忠実であり、人気が出る要素の一つであった。


 そのような機体が活躍する様を、堂々と動画データなどで公開しているのだから、PLとそのパイロットへ強い尊敬の念を向ける帝国の民たちに、受けないはずもなかったのである。

 そして、独立機動部隊としての活躍以上に人気を集めているのが、IDOLを預かる指揮官であった。


 ――カミュ・ロマーノフ。


 ロマーノフ大公家の姫君であり、弱冠十二歳の美少女である。

 IDOLは各地での武力介入を行った後、必ず彼女による単独ライブステージを行っているのだが……。

 その人気たるや、尋常なものではない。


 そもそもが、まだ子供であるとはいえ、将来は傾国の美姫となることが間違いなしな絶対的美少女だ。

 それだけでも人気となる要素はあるのだが、パフォーマンスの質も素晴らしい。

 さすが、銀河最大の版図を誇る大貴族家のご令嬢……。

 幼い頃からの英才教育で培った歌唱力と舞踏技術は、アイドルという分野においても十分に通用していた。

 しかも、銀河ネットワークの掲示板で『匿名希望の先導者』なる熱心なコテハンが主張しているように、そのパフォーマンスは回を追うごとに研ぎ澄まされ、より洗練されているのである。


 各ライブのネット閲覧チケットは、常に十億単位で購入されており……。

 過去ライブのアーカイブ配信も、ランキングをのきなみ制覇していた。

 コール&レスポンスの決まり文句は――オッケーイ!


 やたら熱心にこのコメントをする一団がいた結果、次第にカミュナイトを名乗り始めたファンたちの間でも浸透していき、今や、今年の銀河流行語大賞間違いなしと言われている。


 艦隊を率いてカワイイ!

 PLに乗ってカワイイ!

 歌って踊ってカワイイ!

 なんなら銀河一カワイイ!


 今や銀河中が、彼女のトリコであり……。

 現地でのライブ参戦を望む民が、密かに自分たちが戴く貴族家当主の悪事などを暴き、様々な手段で密告したりもする有り様であった。


 ――次は、どんな事件を解決する?


 ――果たして、どこの惑星に現れる?


 任務の性質上、IDOL艦隊の動きは極秘である。

 従って、銀河ネットワークでは、様々な憶測が飛び交っていた……。




--




「で、その答えは皇星ビルクというわけか。

 久方ぶりに、我らも顔を合わせることになるな」


 三日天下を誇ったカトーから奪い返した屋敷に存在する茶の間……。

 畳敷きの上へ座布団を敷き、愛犬と共に携帯端末の画面を眺めていたケンジは、ビデオチャットに向かってそう告げていた。

 普段のサングラス姿とは異なり、視力補助用のゴーグルに着流しという姿である。

 これは、端末画面を眺めるのだから当然の格好であった。


『まあ、このタイミングで主立った貴族家に帝室からパーティーの招待状がきてるんだ。

 他の事情は、考えづらいね』


 画面の先にいる友――アレルが、やれやれという風に肩をすくめる。

 あれから……。

 教育役の任を終えたアレルは自らの領土に戻り、ケンジの方は、カトーが起こした乱の後始末に奔走していた。


 しばらく自領を留守にしていた若き大貴族家当主と、謀反を起こされた当主……。

 互いに成すべきことは山積しており、こうして通信を行うのも、IDOLの組織編成を手伝って以来のことである。


「皇帝陛下は、我らに迫りたいのであろうな?

 親帝室路線でいくか、あるいは対立するかを……」


『どちらにも付かぬ日和見は、対立として判断するつもりだろうね。

 顔ではにこやかに笑っていながら、やることは苛烈なお方だ』


「それが、本質だったということだろう。

 恥ずかしながら、私には先日まで見抜けなかったが、な……」


『僕だってそうさ。

 遊び呆けて、皇帝としての仕事は最低限の現状維持程度にしかこなさず、おまけに世継ぎ問題を残している人物……そんな風に思っていた。

 が、世継ぎに関してはともかく、他はあえてそうしていたわけだ。

 そうやって油断させていれば、内偵を進めやすいから。

 僕のところにも、当然ながら息のかかった人間は入り込んでいるのだろうね。

 下手をすれば、この会話も聞かれているかも』


「それに関しては、最高レベルのセキュリティを施してある。

 人に関しては……まあ、そうだろうな。

 私の所にも入り込んでいたくらいだ。

 しかも、いまだに誰がそうなのかは分からないから、そのようなものだと受け入れて過ごすことにしている」


 自身、意外なくらいに落ち着いた声でそう告げた。

 もっとも、ケンジからすれば痛くない腹を探られているだけであり、誰が手の者か分からないという不快感さえ目をつぶれば、そう気にするほどのことでもない。

 これが野心を抱いている者なら話は別だろうが、ケンジとしては、よほどの状況に陥らない限り所領安寧が第一であり、それ以上のものを望むつもりはないのである。


『フ……まあ、そんなものか。

 僕としても、とりあえずは痛い腹じゃない』


 その野心を抱いた者である少年が、苦味のある笑みを浮かべた。

 とりあえず、という言葉通り、何か直接に帝位簒奪へ繋がるような動きはしていないだろう。

 だが、アレルという少年が、今以上の地位を望んでいるのは、ケンジの見えない目にも明らかであり……。

 徐々に見えてきたカルス帝の本性を思えば、そこが察せぬほど手ぬるい諜報網を構築しているとは思えない。


『まあ、とりあえず、せっかくのお誘いだ。

 臣下としては、気持ちよく参じようじゃないか』


「私としては、先日の謀反に関して、公式な釈明をせねばならないので、少しばかり気が重いが、な」


『そこは、しょうがない。

 実際に謀反を起こされてしまったのだから』


「まったくだ」


 愛犬の頭を撫でながら、薄く笑う。

 統治に問題のあった貴族が、皇帝の下に赴きこれを謝罪する……。

 ごくごく当たり前のことだが、つい最近までは考えられなかったことだ。

 それが実現するというのは、帝国が変わりつつあるということであり……。


『どうしたんだい?』


「いや、こう思うと、少しおかしくてな。

 結局のところ、私たちはカミュ嬢の活躍に振り回されているわけだ」


『ああ……違いない』


 これには、アレルも同意を示したのであった。


 お読み頂きありがとうございます。

 次回は、原作ゲームと現状の相違点について分析する話です。


 また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
>『匿名希望の先導者』なる熱心なコテハン 多分あの人ですよねw
皇室直属の密偵の調査網を使って 皇室直属の督戦隊みたいな奴等を大公家の令嬢が率いて 「表では白だった貴族領の裏を暴いた所実は黒だった」と武力介入後に報道するのは、数年後には立派な悪役令嬢として扱われそ…
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