初撃 4
「お、おいおい……。
ウソだろォ……?」
IDOL旗艦ハーレーのブリッジ……。
ルガーという敵主力OTと、帝国大貴族のカスタムPLとの激突を目撃したジョグは、わなわなと肩を震わせていた。
「ば、バカな……。
簡単すぎる……!
あっけなさ過ぎる……!」
震えているのは、オペレートを務めていたユーリも同じ。
女装姿で巧みに各種観測機器を操る彼の腕前が無ければ、ここまで詳細に戦いの状況を追うことはできなかったであろう。
だが、そうして得られたデータは、こちら側へ絶望を与えるに十分なものだったのである。
一体、何が起こったのか……。
それを知りたいのならば、今、ハーレーの光学観測カメラが捉えている映像を見れば十分であろう。
ルガーという敵の主力オムニテックは、僧兵を思わせるどこか儀礼的なデザインが印象的であるが……。
今の敵機たちを見て、聖職者然とした印象を受ける者など、存在しないだろう。
むしろ、今の姿から得られるイメージは、肉食動物のごときどう猛さ……。
何故ならば、ワンオンワンでそれぞれが帝国PLと一騎打ちする形になったルガーたちは、三機共が倒した敵機の首をもぎ取り、片手で掲げていたのである。
古の戦場において、戦士階級が己の手柄を誇示するために行っていたパフォーマンス……。
戦場が宇宙に移り変わり、用いるのが十八メートル級の人型兵器となった現在においても、意味するところは同じであった。
そして、見せつけられた側に与える恐怖心もまた、古代の時代と同じだったのである。
それは、PLという機械が人間をそのまま抽象化し、巨大化させたようなデザインだからであり……。
もぎ取られた頭部の付け根からぶら下がるケーブル類やフレームの残骸が、嫌でも人間の血管や骨格を連想させるからであった。
ああ、なんということだろうか。
これは……これは……!
「いや、弱すぎるでしょう。
帝国側のパイロットたち」
ジト目でエリナがつぶやく。
その身も蓋もない感想には、ジョグもユーリも苦笑いを漏らすしかない。
それだけ、一方的な戦いだったのである。
「バカスカバカスカと、景気よく二丁拳銃で乱射していましたが……。
カスリもしませんでしたね」
「まあなァ……。
余裕で回避し続けて、挙句の果てには、ロッド握ってない方の手で手招きまでされてたわな」
エリナの言葉で、最初に繰り広げられた射撃戦の様子を思い出す。
ジョグが操る二代目のカラドボルグもまた、両手に射撃武器を握る武装セレクトの機体。
それだけに、黄色のカスタムPLたちが見せた動きには、こう断じることができた。
――こいつら……。
――センスがねェ……。
……と。
なるほど、細やかな連射が可能なあのハンドガン二丁装備は、高機動力で接近しての弾幕を張るのが目的ではあるのだろう。
それを踏まえれば、エリナが言うところのバカスカとした乱射は、想定通りの使用方法ではある。
が、あれは……。
「……ロクに狙いも付けず、ただただトリガーハッピーと化していただけですからね。
ある意味、心を読めるハイヒューマンへの対策にはなっていたでしょうが、そもそものスキルが稚拙過ぎては、なんの意味もありません」
PLを用いた射撃戦に関しては、この中で最も明るいユーリも、さすがに冷たい目とならざるを得ない。
彼がグラムで行う射撃というのは、時に制圧を目的とした面砲撃であり、時にはスマート・ウェポン・ユニットを駆使した立体的な無力化射撃だ。
粒子振動アックスでの接近戦もチラつかせながら行うそれは、まさに機動兵器の理想的な遠距離戦マニューバであり、黄色のPLたちが見せた技術も何もない乱射とは比べ物にならぬ。
教師が出来の悪い生徒を見るような目になってしまうのも、致し方がないだろう。
「……機体は良かったんだけどなァ。
機体だけは」
「とてもそうは見えなかったですけど?」
ごく普通の疑問を聞くような顔のエリナである。
黄色のPLを操っていたパイロットは、三名共が脱出に成功しているが……。
もし、エリナからこの顔を見せられたならば、恥ずかしさで生きていけないのではないだろうか?
もっとも、大慌てでコックピットハッチから出てきたところを、敵がマニュピレーターで捕まえるでもなく見過ごしたのは、殺す価値なしと判断されたからに他ならず、つまり、生きていること自体が一つの恥ではあるわけだが。
「いや、本当に性能はいいんですよ。
カリバーンという伝説の剣から名前を取っただけのことはある。
全体的なバランスで考えると、ジョグ君のカラドボルグやボクのグラムよりも、よほど優れているくらいです。
ティルフィングやミストルティンみたいなバランスタイプの機体を、さらに高次元で昇華させた傑作といえるでしょう」
優れた機体を正当に評価したいのは、技術屋の意地といったところだろうか。
エリナの方に振り向いたユーリは、珍しく反抗的というか、抗議するような表情だ。
「けれど、あの仰々しい翼も、これといって有効活用することなく破壊されてましたよね?
なんなんですか? あの見た目倒しな装備は……」
「まあ、内側からロッドでぶん殴られちまうと、脆いもんだったよなあ。
逆側からなら、シールドにも使えそうな厚みだったのによォ」
破壊された時の様子を思い出しながら、同意する。
あのウィングはただの推進装置でなく、スマート·ウェポン·ユニットであり、しかも、粒子振動ブレードとしての機能も備えていたのだろう。
距離を詰めた際、両手のハンドガンを乱射する黄色のPLたちは、同時に両肩部からウィングを切り離し、敵OTたちに向けて飛翔させたのだ。
飛翔させて、そして、叩き落された。
ロッドを振るう敵の動きは、まるで、ハエでも叩き落とすかのようだったのである。
「接近してすぐに切り離してましたが、きょうび、スマート·ウェポン·ユニットは半ば高級機の必須装備となっているのですから、これも心を読むまでもなく警戒しており、不意打ちの効果は期待できません。
なら、せめて機体本体側と連携して扱えればよかったのですが、バカ正直に本体と同じ方向から攻撃させてましたからね」
「そういやあ、お前がグラムで円盤飛ばす時も、基本的に機体本体とは別の方角からビーム飛ばしてるもんな。
まあ、それが子機を使う一番の利点なんだから、そりゃそうか」
「ああやって、一機で交差射撃を成立せしめられるのが、自律兵器を使う最大のメリットですから。
おそらく、あの機体――カリバーンのパイロットたちにとって、スマート·ウェポン·ユニットというのは、ただなんとなく飛ばしている格好いい装備でしかなかったんでしょう」
やや不機嫌そうな雰囲気を漂わせながら、ユーリが鼻を鳴らした。
メカニックとして、これだけの高性能なマシンを手にしていながら、基本的な使い方すらできていないというのは、我慢ならないに違いない。
ジョグにしても、もしも、丹精込めてカスタムしてやったバイクを粗末に扱われたら同じ気持ちとなることだろう。
「それで、これはどうなるんでしょうか?
このまま、こちらを攻撃し続けてくるんですか?」
「さっきも言ったが、そうはならねえさ。
軽くひと当てするのが目的で、そのひと当ては、この上ねえ形で終わった。
ああほら、首を放り捨てた。
もう退散するつもりだな」
戦いが分からぬエリナに解説してやっていると、OTたちはこれ見よがしに掲げていたカリバーンの頭部をゴミのように捨て、素晴らしいスラスター加速で退散していく。
「まあ、カリバーンのパイロットたちも本望でしょう。
一番の目的である目立つことは、この上ない形で果たされるでしょうから」
ジトリとした目になりながらも、身一つで脱出したパイロットたちの捕捉を完了しているユーリが告げた。
果たして、その予言は的中するのである。
お読み頂きありがとうございます。
金をかけまくった至高のカスタマイズ機だからね。しょうがないね。
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