三バカがいく! 後編
兵隊にとって欠かせないのが食事であるが、かといって、全員が一斉に食事を取っていては艦の運行などに支障が出てしまうため、必然としてこれは交代制となる。
では、どのような割り振りでそれを行うのかというと、各部署を二班に分けて食事休憩時間を設けるのが一般的であり、IDOL隊員の食事休憩時間もこれに則っていた。
それはつまり、前半・後半の両班が食事を終えてしまえば、ハーレー内の食堂はガラリと人が減るということ……。
アットン、ベン、クレイルの仲良し三人組が食堂に終結したのは、そのような時刻を見計らってのことである。
「……作戦会議だ」
三人では一番の年長者。
奇抜な髪形を選ぶ者が多い元スカベンジャーズ組の中において、軍人もかくやというきちりとしたスポーツ刈り茶髪のアットンが、あごの下で手を組みながら告げた。
「ああ……今回ばかりは、きっちり対策を練らないとな」
テンプレートな黒人キャラと笑わば笑え。
先祖から受け継いだ伝統的アフロヘアが大爆発中のベンも、真面目な顔でうなずく。
「おれたちが、いかにすれば日の目を見れるのか……。
このままじゃ、どれだけ活躍しても目を向けてもらえないぜ」
――ドン!
三人の中では最年少。
サラサラの金髪をセンターパートにしたクレイルが、テーブルへ拳を叩きつける。
「おいおい、モノへ当たるのはよくねえぜ」
「そうだ。
カトーの爺さんが睨んでるぞ」
アットンとベンがいさめた通り……。
厨房の中からは、嵐のような食事時を終え、次なる仕事に取りかかっているモワサ・カトーがじとりとした目を向けてきていた。
「わ、わりいわりい……」
そもそもは、チューキョー周辺宙域の裏社会を統べていた大物。
そのような人物に睨みつけられて、なおもイキがれるクレイルではない。
また、それ以前の話として、このような軍事組織においては独自の権力を持つのが料理人というものであり、なんやかんや厨房の長と化しているカトーの不興を買って得することなど何もないのである。
「とにかく、なんとかしねえとな。
このままモブ扱いじゃ、死んでも死にきれねえぜ」
「おれなんか、故郷のカーチャンに自慢するメール送っちまったんだぜ。
絶対に目立つ扱いされるから、銀河ネットをチェックしておけって。
それで、あの生インタビューだろ?
怖くて感想が聞けねえよ」
「ベンはまだマシ。
おれの方は、彼女へ同じことしちまった。
その彼女も、周りの人間に自慢して回ったらしくってさ。
別れるとまでは書かれてなかったけど、メールの文面から怒りがにじみ出ていたぜ」
「「oh……」」
これには、深く同情するアットンとベンであった。
クレイルの彼女も元スカベンジャーズ組パイロットであり、今はIDOL下部組織の一員として、銀河辺境部で諜報活動を行っている。
さぞかし、鼻高々で彼氏自慢をかましていたに違いない。
「まあ、そいつは気の毒だったが……。
だからこそ、ここら辺で一発逆転して点数稼ぎしとかねえとなあ」
「で、その逆転をするにはどうするかって話だな」
「話が振り出しに戻っちまったな。
ここは一つ、分析といかねえか?」
「分析? 何をだ?」
アットンが尋ねると、先日の生インタビューで一番ダメージを受けたクレイルがズズイと身を乗り出す。
「そこはほら、どうして現状じゃおれたちはこういう扱いなのかを考えねえと。
原因が分からなきゃ、対策なんて立てられねえだろ?」
「それなら、おれには一つ心当たりがあるぜ。
こういうのはいくつも要因が重なるもんだけど、多分これが一番でかいんじゃないか?」
「「ほう?」」
アットンとクレイルが興味深げな視線を送ると、超大昔の映画なら面白黒人枠に割り振られそうなベンは重々しく口を開いた。
「乗ってるのが量産機」
「ああー……」
「まあなあ……」
ベンが言ったのは、至極真っ当な指摘。
言うまでもなく、IDOLはPLを運用する部隊であり、報道陣の注目もPL戦に注がれる。
そこで個性的なPLに搭乗しているかどうかというのは、確かに重要なファクターであった。
「バイデントはいい機体だ。
あれに比べると、昔乗ってたヴァイキンはカスみたく思えてくるぜ」
「ただ、少数生産型とはいえ量産機には違いないしなあ」
「しかも、色がカラドボルグと被ってるし」
うーん……と、三人で唸りあった。
乗機の個性化。これは、目立つためならば避けては通れない道である。
が、当然ながらあれらは組織の備品。勝手にイジることなど許されるはずもなかった。
「カミュちゃまのアーチリッターみたいに、カスタマイズするってわけにもいかねえしなあ」
「そもそも、ユーリちゃんのアニキにこれ以上負担をかけるわけにもいかねえ」
「じゃあ、大前提としてバイデントはあのままで、いかにして戦闘時に目立つかって話になるわけだ。
また振り出しだな」
「いや、そうでもないぞ。
今、お前が言ったのはそのまま指針になるじゃねえか。
機体はこのまま。どうにかして目立つ動きを考えればいい」
短絡的なクレイルの意見を、年長者らしく是正するアットンだ。
そう、ここまで積み重ねてきた議論は無駄じゃない。
あと必要なのは、ひらめきなのである。
「……必殺技っていうのはどうだ?」
そのひらめきが走ったらしく、ベンがやおら口を開く。
「必殺技?
ていうと、あれだろ? か◯はめ波みたいな。
おれらが乗ってるのって、PLだぜ?
『ハーッ』とかやったって何も出ねえよ」
「バカ、必殺技っつったって色々とあるだろうが。
誰も光線技を撃てだなんて話はしてねえよ」
ハーッと例のポーズをするクレイルにベンが言う中、アットンの脳裏にも一つひらめきが生まれていた。
「……フォーメーションか」
「そうそう、それそれ」
「フォーメーション?」
両手の人差し指を向けてくるベンと、まだピンときていないクレイル。
二人に向けて、一瞬のフラッシュアイデアを説明する。
「つまりだ。
三人一組であることを逆手に取って、フォーメーションの必殺技を作るんだよ。
そうすれば、同じPLに乗ってるのもむしろ個性になるし、三人まとめて目立てるだろ?」
「そんな感じ、そんな感じ」
「おお! 確かにそいつはいいアイデアだな!」
とうとう突破口が開いた。
その実感に、三人でニヤリと笑い合う。
「じゃあ、具体的にどんなフォーメーションを組むかだが……」
「普通に戦うなら囲ってボコるだけど、それじゃ絵面が映えねえよな」
「じゃあ、単縦陣でどうだ?
三人で縦一列になって、グワーッて相手に迫るんだ。
で、接近した後にそれぞれ攻撃を叩き込んでいけばいい」
「「いいねえ」」
こういう感性は、やはり若者が一番。
クレイルの提案に、アットンとベンはサムズアップで応えた。
「フォーメーションの名前が必要だな……」
「トリプルアタックとか、ジェットストリーマーとかそんな感じじゃねえか?」
「ジェット! そいつはイカしてるぜ!」
やいのやいのと、三人で詳細を詰めていく。
もし、これが小説なら……。
おれたちに挿し絵が付く日は近い!
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――こんな所で駄弁っているから駄目なのだよ。
厨房から三バカに目をやりながら、そんなことを思うカトーなのであった。
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ここからは、後日談。
「おれを踏み台にしたあっ!?」
実機を用いた演習で、早速にも披露した必殺フォーメーションは、カミュちゃまの手でアッサリ破られたという。
ただ、演習後のカミュちゃまは妙に嬉しそうというか、えらいツヤツヤとした表情であったので……。
まあ、いいかということにしたバイデント隊なのであった。
お読み頂きありがとうございます。
次回はギャグ集のラスト。ユーリ君回です。
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