ハハッ!
※カトーの乱が起こっていた時のエピソードです。
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礼節が人を作る。
この俺……銀河皇帝ことカルス・ロンバルドの好きな言葉だ。
そして、故人に倣うのならば、俺はこんな言葉を残すだろう。
すなわち……名が本質を作る。
言うまでもないことだが、名前は大事だ。
だからこそ、世の企業はイカした商品名を生み出すため腐心しているのである。
「さーて、どうしたもんかね」
腰かけた椅子は豪華な革張り。天井にはシャンデリアが吊るされ、選び抜かれた木材を使った壁には絵画や剥製がズラリ。
戸棚を開けば、名の知れた酒が選び放題だ。
まったく……壁一枚隔てた先が、真空の宇宙とは思えない空間だね。
銀河皇帝様ともなれば、こっそりチューキョーへ忍び込むためのプライベートシップ一つとっても、かように金のかかった仕様となるのである。
「頭を回らせるには、ガソリンが必要だ。
ことによろしいのは……スコッチだな」
もちろん、部屋の外には腹心たる侍女も控えているが、この程度の給仕で呼び出すようなことはしない。
立ち上がって戸棚からお気に入りの銘柄を取り出すと、同じく取り出したグラスへこれを注ぎ込んだ。
「うん……豊かで甘美な香りだ。
脳細胞が活発化するぜ」
琥珀色の液体をくゆらせ、まずはその香りを楽しんでから、答える者のいない独り言を吐き出した。
「ん……ふう……。
エネルギー取り込んだところで、さっさと決めなきゃな」
腰かけて一口舐めてから、あらためて思案する。
俺ほどの人間が、一体何に頭を悩ませているのか……。
その答えは、ただ一つだった。
「カミュ・ロマーノフに率いらせる俺様直属の治安維持組織……。
ひとつ、バシッとした名前を付けてやらなくちゃなあ」
なぜ、銀河で最も偉い立場にあるこの俺が、こっそり静かにチューキョーへの密入港を果たそうとしているのか?
それは、同地で裏社会を束ねるモワサ・カトーという男の動きが理由であった。
端的にいってしまえば、反乱。
カトーという男は、長年仕えてきたタナカ伯爵家に対して内乱を起こし、自らが新領主として君臨しようとしているのである。
まったく、結構な年のくせして、元気なことだね。
つまりはケンジのケツの青さが招いた結果であり、通常ならば、この俺自らが首を突っ込むような真似はしない。
取って代わられるならば、その程度の器量。むしろ、より優れた統治者が君臨してくれるかもしれないのだから、それも一興というものであった。
が、今回ばかりは話が違う。タナカ伯爵領が、銀河有数の……ことに、俺の直轄領を含む帝国中心部において、最大の製造拠点であるからだ。
半導体、コンピューター、家電、PL……同地に依存している品は実に数多い。
ここを変な奴に抑えられちまうと、帝国経済は大打撃ってなもんだ。
ゆえに、こうしてわざわざ足を運ぶ。
カトーの作戦は、こっそり反乱を成功させて、何もかも終わってからなし崩しの形で俺から承認を得るというもの……。
反乱の真っ最中に俺が姿を現し、「全てまるっとハッキリカラッとお見通しだ!」と言ってしまえば、それでご破算になるのである。
バカだと「こんな所に皇帝がいようはずもない! 斬れ! 斬り捨てい!」という流れになってしまうが、カトーはバカじゃなさそうなのでそれはない。
んなことしても、皇帝殺害の不届き者を成敗する名目で周辺諸侯がこぞって軍を出し、タナカ伯爵領の切り取りに動くだけだからな。
だから、自分の能力と情報網を差し出す形で取り引きを望むに違いない――という考えでここまで来たが、予想外の事態が起こった。
ケンジのやつが、自力で反乱を鎮圧できそうな感じになってきたのである。
その中心となったのが――カミュ・ロマーノフ。
反乱鎮圧の決定打となるのはロマーノフ大公家の援軍であろうが、それが来るまで持ちこたえられるのは、このお嬢さんがスカベンジャーズなる宇宙海賊を取り込んだからこそ……。
そもそも、鉄の男という異名でおなじみのウォルガフおじさんが軍を出そうという気になった――つーかいつの間にか勝手に出してた――のは、愛娘――そんなに娘大事な奴だったっけ? ――が反乱に巻き込まれたからだし。
というわけで、カミュという少女は海賊を味方に引き込む度量と魅力……それでいて家柄まで備えており、しかも、自らがリッターに乗って戦闘へ参加しているという。
PLパイロットとしての腕前はどうだか知らないが、そこで見せた戦術眼はなかなかのものだ。
自分含めて少数精鋭で後方からかき回し、本隊には火力と機動力に優れたカスタムPLたちを配置。
本隊側がカトー軍の出鼻をくじいているところで後方もかき乱し、どうやらウォルガフ率いる黒騎士団の到着が間に合いそうだという……。
うん、欲しい。カミュ・ロマーノフは是非欲しい。変な意味じゃねえぞ?
と、いうわけで貰う。貰って、俺が最も欲しかったもの……求心力のある独立機動部隊として動いてもらう。
さすれば、最終的に俺が望む未来――帝政を排しての共和制国家樹立にも近付けるだろう。
そのために、あーだこーだやかましい周囲の進言にも耳を貸さず、女っ気のない人生送ってるわけだしな。
で、話は巻き戻る。
その独立部隊っつーか組織にどんな名を与えるか……。
「そうだな……。
基本的に、事が起こってから対処する組織だ。
つまりは、アベンジする存在なわけだろ?
じゃあ、アベン――」
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――今日も元気だ光子が美味い!
突如として、この宇宙に姿を現した存在……。
それは、まごうことなき――終焉の魔神であった。
ただ一見すれば、その概念を基に生み出された鋼鉄のマシーンとも思える。
事実として、その前身は人の手によって建造された機械であった。
だが、今やその身には、時間と空間の概念を凝縮して取り込んでおり……。
終焉の魔神という呼び名にふさわしい全能の存在として、あらゆる平行宇宙を渡り歩いているのである。
ちなみに趣味は――ウォッチング。
ある意味、自分の子孫にもあたる存在たちの活躍ぶりをいつくしみ、楽しみ……。
かつては閉ざし、友の言葉によって再び開いた想像と可能性の扉を、思う存分に楽しんでいるのだ。
まあ、推しがけなされたりしたら容赦なく左側に回るけどね!
――さて、この世界には……。
そんなこんなで、今日も今日とてゼロから始まったストーリーを楽しむべく感覚を巡らせる。
それがゆえ……捉えてしまったのだ。
この宇宙に顕現しようとする……あまりに強大で、圧倒的な存在を。
――こ、これは。
魔神は恐れおののく。これは、可能性の光によって無数に呼び出された彼らの手でスーパーフルボッコタイムに処された時でもあり得なかったことであった。
宇宙に姿を現したそのネズミは、おお……なんということか……。
これは……王国を作り出そうとしている!
それも、ただの王国ではない……。
千葉県にありながら、あつかましくも東京のそれを名乗るふってぶてしい王国だ。
気付けば、ドタ靴の音が鳴り響こうとしていた。
これは、恐怖の足音だ。
およそありとあらゆるエンタメをポリコレの色に染め上げ、逆らう者は金の力で叩き潰そうとする覇王の足音なのである。
――だ、駄目だ、勝てぬ!
――〇ッキーさんが相手では絶対に勝てぬ!
こうしちゃいられねえ! こんな世界はスタコラサッサだぜい!
パロディギャグだというのに設定の都合上、まぎれもなくご本人という大変ややこしい魔神が別の宇宙へ姿を消すと同時……。
――ハハッ!
……宇宙は消滅し、また再生した。
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「ようし!
Imperial Directorate of Order and Law――IDOLにしよう!
決定!」
……なんでだろう。
まるで世界が一巡したかのような悪寒に襲われた後、俺は誰にも聞こえない独り言を早口でまくしたてたのである。
お読み頂きありがとうございます。
次回は、ジョグ主役回です。
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