超電磁にラV・ソングを 13
「……状況が分からん。
何もかも、まったく分からん。
ひとまず、見守るしかないか」
どっからどう見ても急ごしらえな円盤型ドローンと、ただ単に大きく作っただけであることが丸分かりなドクロマシーンによるネオマニラ襲撃……。
あまりいえばあまりに意味不明な状況に対し、ヴァンガードが取った選択はといえば、これは観察であった。
あえて、避難する人々から離れて動くことにより、行動の自由を確保しながら経過観察へ務めたのである。
で、建物の陰に隠れながら見守っていたのだが、これはどうも……芝居の類なのではないかと思えた。
命がけの戦いになくてはならない闘争心や恐怖心が、ハイヒューマンの能力を使わずとも一切感じられなかったし、そもそも論として、わざとやっているのでなければ、射撃も操縦もヘタクソ過ぎるのである。
そして行われる、街に被害を与えないよう気配りしているのが丸分かりな茶番じみた戦闘……。
超大型ドクロマシーンとリッター隊が見せた大根役者丸出しな演技は、Z級映画を連発する会社が制作した超低予算フィルムを見ているかのようだ。
まあ、それでも平和ボケしたフィリピンV人たちは、非難しながらも「PLがかなわないなんて!」とか「どうなってしまうんだ!?」とか、なかなかいいリアクションをしていたが……。
そうこうしている内に、ネオマニラの街中へ大型のホログラムウィンドウが展開され、緊急ニュースを垂れ流し始める。
……ニュース自体はともかく、ホログラム展開などしている場合ではないと思うのだが、その内容こそが問題だ。
『……たった今、ネッド男爵から公式の発表がありました。
現在、ネオマニラを襲っている謎のマシーンたちを操っているのは、ハイヒューマンと名乗る謎の勢力……。
我々のフィリピンVは、悪しき侵略者により攻撃を受けているのです!』
……なんか、濡れ衣を着せられた。
言うまでもないが、今回、ヴァンガードたちはまだ何もやっていない。
強いて言うなら、情報収集しながらバイトに精を出し、ネッド男爵へ接触する機会を伺っていたくらいである。
それがいきなり、武装もヘッタクレもないクソショボマシーンによる侵略という冤罪を着せられた……。
「ま、まあ……。
実際、我々は侵略者側だしな。うん」
額に青筋を浮かべつつも、どうにか怒りは飲み込む。
それより問題なのは、だ。
「我々の名を語っての自作自演……。
一体、なんの意図があってそのようなことをしているのだ?」
このことである。
考えられるのは超大規模かつ本格的な避難訓練であるが、わざわざ経済活動を停止に陥れてまで行うそれに、どれほどの利があるというのだろうか?
首を傾げながらもホログラムウィンドウに注視していると、状況が変化を迎える。
『ご覧ください!
あれこそは、ネッド男爵が密かに建造していた秘密兵器――コネクマシーンです!』
「単なる戦闘機のように見えるが……。
しかし、形状がおかしいな。
機能性も何も無い」
何やら大興奮しながら語るリポーターの言葉と共に、コネクマシーンなる戦闘機たちの戦いが映し出された。
それなりの性能はあるようだし、こと出力においてはPL並のそれを確保しているようだが、五機の戦闘機が見せた戦闘は、凡庸そのもの……。
パイロットの腕前もお世辞にもよくはなく、ますます、何がしたくてこんなことをしているのか疑問が増す。
そうこうしている内に、ひとしきり円盤型ドローンを撃ち落とした戦闘機たちは、ドクロマシーンとの交戦を開始し……。
無駄に装甲だけは分厚いガラクタ相手に、無力を晒したのである。
「見たところ、出力やベイロードには随分と余裕があるようだ。
ならば、もっと高出力の火砲を積むなり、ミサイルを搭載するなり手はあるだろう。
どうしてまた、あのようにしょっぱいバルカン砲しか積んでないのだ?」
ヴァンガードが浮かべた疑問へ答えるように……。
『あ! 皆様、ご覧ください!
五機のコネクマシーンが、フォーメーションを取っています!
それに、機体の間へほとばしっている聖なる稲光……。
あれこそは、ネッド男爵が秘密裏に研究開発していた超電磁テクノロジーです!』
「超電磁だ!」
「イエアアアアアアッ!」
街中の至る所で、避難済みの人々が叫ぶ中……。
「な……あ……」
建物の陰に隠れながらホログラムを見ていたヴァンガードは、唖然とするしかない。
なんとなれば、これは……。
「――パクリやんけ!」
……だったからである。
『実は悪しきハイヒューマンたちによって技術の一部が盗用され、ラノーグ公爵家の事件で悪用されていたようですが、あっちがパクリ! こちらこそ元祖にして本家です!
いいですか!? これは非常に重要なことなので、SNSにもバンバン拡散してください!』
「何が本家だ!
明らかに鹵獲したマグを解析した技術ではないか!
ズッケー! こっちが大々的に動けないからって、起源を主張しおって!」
文句を言ったところで、あらかじめリークされているか、あるいは台本を渡されているアナウンサーには届かない。
『さあ、いよいよ五機のマシーンによる超電磁合体――コネクインが開始されました。
まず、変形を開始したのが一番機コネククルーザーで、今入った情報によると、なんとラゴール男爵家ご令嬢であるマリアンヌ様が――』
もはや、報道ではなく実況か。
やけに早口となってアナウンサーがまくしたてる中、映像内の戦闘機たちは次々と変形を繰り返し、超電磁力によって合体していく……。
そうして完成したのは、全長六十メートルに達そうかという超大型の人型機動兵器……。
『ついに、ついに完成しました!
これこそ、コネクトV!
ファイブの部分をVと書いてコネクトVです!
我々をハイヒューマンから守る正義のスーパーロボットが、ここに降臨したのです!』
なんの意味があるのか知らんが、空中で決めポーズするロボットの名を、アナウンサーが連呼する。
「ふ、ふふ……」
それをよそに……。
「ハーハッハッハ!」
ヴァンガードは、大笑いをしていた。
「なあるほど!
要するに、あのロボットを造りたくて皇帝が直々に研究させている技術を盗用。
その追求を避けるために、我々ハイヒューマンをスケープゴートとしたわけか!
――ふざけるなあ!」
そこら辺に転がっていた小石を蹴飛ばす。
何か……紐のような何かだ。
それがブッツリと、己の中で切れるのを感じる。
「ク、クク……。
いいだろう……そこまでしたいのなら、だ」
ホログラムウィンドウの映像内では、たっぷり決めポーズを堪能したコネクトVが、地上へと降り立っており……。
今まさに、ドクロマシーンとの対決が始まろうとしていた。
だが、この戦いが成立することはない。
なぜならば……。
「お望み通りにしてくれるわ!」
自分たちを散々愚弄され、技術もパクられ、挙句の果てには濡れ衣まで着せられた怒りに駆られ、取り出した携帯端末を操る。
アクセスするのは、ステルス偽装し惑星周辺に漂わせている輸送コンテナ……。
より正確にいうならば、その中へ格納されている悪夢の強襲マシーン――ファイタービーストだ。
「乗り込んで操縦するわけではないから勝手が違うが、しかし、あのようなオモチャ相手ならば関係はない!」
操縦画面に切り替わった端末を横にして持ちながら、叫ぶ。
ファイタービーストのカメラ映像は、内部からコンテナを破壊し、この惑星へと降下する様を映し出していた。
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