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悪役令嬢に転生しましたが、人型機動兵器の存在する世界だったので、破滅回避も何もかもぶん投げて最強エースパイロットを目指します。  作者: 真黒三太


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ブチギレ

「ふわ……あ……。

 なんかなー。

 ヒラクっちも必死なのは分かるけどー。

 シラけちゃったよねー」


挿絵(By みてみん)


 ルガーのコックピット内で、クリッシュはあくび混じりにそんなことを漏らす。


『ふん、足掻くものだな。

 興醒めというのには、私も同意だ。

 ここからどう切り崩していくか、盛り上がっているところだったのだが、な』


 通信ウィンドウに移るのは、古代のサムライじみたフルヘルムを被るヴァンガードの姿だ。

 仮面を被っているゆえ、表情は読めない。

 また、この距離では、思念波をキャッチすることも難しかった。

 それでも、彼がガッカリしているのは伝わってくる。


「まーねー。

 わたしの方も、武器を失って絶体絶命!

 これから、どうなっちゃうの!?

 って、ところだったのにねー」


『ガンロッドを破壊されたか。

 まあ、お前なら漂っている残がいの武器を利用するなりなんなりと、いくらでも対処できただろうが』


「そんな感じー。

 それで、どうするー?」


『どうもこうもない。

 せっかく、先方が手をこまねいてくれているのだ。

 我らとしては、予定通りに離脱するまで』


「ヒラクっちはー?」


『捨て置け。

 向こうとしても、我らに助けてもらうことなど、今さら期待はしていまい』


「だねー」


 同胞の言葉にうなずき、ルガーを発進させる。

 二度に渡るカミュとの戦いやミストルティンとの攻防でダメージは受けていたが、そこは遺跡のテクノロジーを導入した正規オムニテック。

 失った右脚を除けば、機体の稼働に問題はない。


「じゃーねー、カミュちゃん。

 また遊ぼー」


 両腕とシールド以外の武装を失い、漂うティルフィングに言い捨て、ヴァンガードの方へと飛翔した。

 向こうは、何やら取り込んでいるらしくてレーザー通信を遮断しており……。

 返事が返ってくることは、なかったのである。




--





「で、では、いきます。

 ミュージックスタート!」


 俺の操作に合わせ……。

 ティルフィングのスピーカーから、ありふれたクリスマス・ソングのBGMが流れ出す。


「――――――――――ッ!」


挿絵(By みてみん)


 俺は、それに合わせて歌い出したが……。


『……なーんか、イマイチっつーのか?

 あんま乗れねえなあ』


 と、いうのは、ジョグの評である。

 遺憾なのは、実際に歌っている俺自身の評でもあるということだ。

 だが、甘く見てもらっては困るな。

 「でも」と「だって」は、俺の得意技だ!


「仕方ないじゃないですか!

 わたし、この曲歌ったことないんですよ!?

 むしろ、ぶっつけ本番でとにかくメロディに乗れていることを、もっと評価するべきです!」


『そうは言ったってよォ……。

 実際、どーなんだァ?

 皇帝さんとこの回線借りて、電波ジャックみたいなノリで流し始めてるんだろォ?』


 ジョグが問いかけたのは、ユーリ君に対してであった。

 彼が乗るグラムは、遠距離砲戦仕様……。

 当然ながら、高度な計算処理能力が必要となるため、揃いも揃って白兵戦仕様な俺たちの機体と異なり、電子装備も充実している。

 そのため、皇星ビルクに中継するオーサカのそのまた中継地点となって、銀河ネットのコントロールを担当してくれているのだ。

 言ってしまえば、TV局で番組放送するに当たって必要となる様々な裏方スタッフの役割を、ワンオペでこなしてくれているわけだな。


 そのように、メカニックやってパイロットやってTVクルーもやって時には美少女もこなす少年の反応は、かんばしくない。


『……一応、ヒラクが使った侵入経路を分析し、乗っ取る形で呆けている人々の端末から流してはいます』


 ユーリ君の言葉を引き継いだのは、お父様だ。


『患者の容体は、こちらの方でも観察している。

 残念ながら、特に変化は起きていない』


『ほら、やっぱな?

 歌で目覚めさせてやるんだろ?

 だったら、サイコーにノリノリなシャウトじゃねえとよォ。

 こう、スピリットを込めるって言うのかァ?』


 こいつ、言うは易しって言葉を知らんのか?

 お父様たちの話を聞いたジョグが、好き勝手なことをのたまう。


『くっ……!

 マイクだけでなく、カミュの持ち歌までをもダウンロードしておくべきだったか……!

 このウォルガフ・ロマーノフ、一生の不覚よ!』


『いや、大公殿。

 一大生産拠点たるチューキョーを預かる私が思うに、普通はマイクすら仕込みません』


『ともかく、どうする?

 こうなったら、アカペラでもいいから持ち歌に切り替えてもらうか?

 いっそ、僕たちもボイスパーカッションで加わるか?』


『そんな上品なもん、やったことねえぞォ』


『簡単だ、少年。

 さっきから流れているリズムの通りに、なんとなく音程を合わせてしまえばいいのだ。

 では、手本を見せるぞ!

 ……ボオオォエエエェェ!』


『ド下手クソじゃねーか!』


『許してやってくれ。

 ケンジは自覚してないだけで、昔からド音痴なんだ』


『一応言っておきますけど、ボクは中継の処理をするだけで手一杯ですよ』


『ならば、ここはおれが!

 カミュよ! 今こそ親子のデュエットを見せる時!

 ……ボオオォエエエェェ!』


『大公のオッサンも音痴じゃねーか!』


『ええい! ウォルガフ、どけ!

 よう、待たせたな皆の衆!

 ここは一つ、銀河皇帝様の無双シーンを見せる時がきたようだぜ!

 へい! ミュージックカモン!

 どんなカーペンターズでも構わねえぜ! ハズレがねえからな!』


『皇帝陛下、恐れながら、そのカーペンなにがしの曲も入っておりませぬ。

 というか、いつの時代の曲なのですか?』


『嘘だろ!?

 じゃあ、ひょっとして、ビートルズもキングクリムゾンもクイーンも入ってねえのかよ!?

 あれらは全人類必修だろ!?』


『ふうむ……。

 チューキョーにおけるジャムプロジェクトみたいなものですかな?』


『ケンジ、僕にはどっちも分からないぞ』


『クソッタレ!

 今度、文科省に乗り込んで音楽のカリキュラムを作り変えさせてやる!』


 やいの、やいのと……。

 ロンバルド城でお父様とマイクを取り合うカルス帝まで混ざり、皆で好き勝手なことをのたまい続ける。


「ふ、フフ……」


 このように、無責任なことを言われまくり……。

 俺の中で何かが充実し、膨れ上がっていくのを感じた。

 そして、極限まで膨らんだそれはついに逆鱗という名の針へ触れ、パアンと弾け飛んだのだ。


 ――……どいつもこいつも、好き勝手に。


 ――いいぜ。


 ――だったら、こっちも好きにやらせてもらおうじゃないの!


 すぐさまタッチパネルに触れ、ティルフィングのAIに命令を送る。

 命令の内容は、至極単純。

 単調なメロディを、繰り返し奏でろというものだ。

 無論、軍用機であるティルフィングにとっては、用途外にも程がある命令であったが、そう難しい内容でないこともあり、AIはすぐさま俺のオーダーに応えた。


 ――ズン! ズン!


 ――ズン! ズン!


 コックピット内に……。

 ひいては、それを拾ったマイク経由で、全員の回線に即席のメロディが流れ始める。


『……ん?

 カミュ殿、これは?』


『オイオイ、こいつは……』


 アレルやジョグの言葉には、構わない。

 今はただ、脳裏に浮かんだフレーズを吐き捨てるだけだった。


「Yo,クリスマスの夜に光る星!

 救いの使者が現れた真っ赤な空!

 ベツレヘムで始まるこのストーリー!

 幼子の誕生、それは栄光に満ちる!

 彼の愛は無限、壁を超える力!

 病んだ心に触れてくれる癒しのリズムさ!

 奇跡を起こす手に宿る純粋なスキル!

 最高にクールでイカした救世主のスピリット!」


 ※ラップパートはAIに作らせました。


 お読み頂きありがとうございます。

 次回はHey! Yo!


 また、「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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