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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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83話 家に到着

 行きにいろいろあり過ぎて、帰りも少し警戒したけど、ランサ森を出発してから何事もなく三日後のお昼には家に帰ってくる事ができた。


「「ただいま」」


『ただいま』


 家の中に声を掛けると、バタバタと二つの足音が聞こえた。


「おかえり、何もなかったか?」


 お父さんが最初に玄関に着き、お兄ちゃんと私を見てホッとした表情を浮かべた。すぐにお母さんも玄関に来ると、お父さんと同じようにホッとした表情をした。


『やっぱり家はいいよな。ホッとする』


 ユウの家ではないけどね。


「うん。いろいろあったけど、フォガスさんたちが守ってくれたから大丈夫だったよ」


 お兄ちゃんの説明に、お父さんとお母さんが少し不安そうな表情になる。


「何があったんだ?」


 お父さんの質問にお兄ちゃんは玄関の外を見る。


「こんにちは、失礼します」


「こんにちは」


 フォガスさんとルドークさんが玄関に入って来ると、お父さんとお母さんは首を傾げた。


「冒険者のルドークさんが、どうして子供たちと一緒にいるんですか?」


 お父さんが、フォガスさんとルドークさんに視線を向ける。


「何があったのかお話ししたいので、お時間をいただけますでしょうか?」


 フォガスさんの言葉に、お父さんの表情が引き締まる。


「わかりました。どうぞ」


「失礼します」


 お父さんの返事を聞いたフォガスさんは、小さく頭を下げると家に上がる。みんなでリビングに行くと、ルドークさんが興味深げに部屋を見渡した。


「どうしました?」


 お父さんがルドークさんに視線を向けると、ルドークさんは少し申し訳なさそうな表情をした。


「前とは部屋の雰囲気が全然違ったので、つい見回してしまいました。すみません」


 ルドークさんが見たのは、襲われた後の片付けを手伝ってくれた時だよね。あの時に比べたら、かなり違うだろうな。


『壁紙の色も違うし、棚の大きさも違う。前に比べると雰囲気が明るくなったよな』


「あぁ、そうでしたね。直しながら、成長する子供たちに合わせて家具などを作り直したんです。だから雰囲気が変わったと思うのかもしれませんね」


 えっ、私たちに合わせてくれていたんだ。だから可愛らしい壁紙になったのかぁ。


 お父さんがみんなにソファを勧めると、お母さんがお茶とお菓子を持って来てくれた。


「それで、何があったんでしょうか?」


 お父さんの質問に、フォガスさんがランサ森へ向かう途中で起こった事を詳しく話してくれた。話が進むにつれ、お父さんとお母さんが不安そうに何度もお兄ちゃんと私を見る。


「そして、これがリーナ殿が見つけた魔石です」


 フォガスさんが直径五センチメートルほどの魔石をテーブルに置く。


 あれ? 洞窟から出てきたフォガスさんが持っていた魔石とは、違う魔石みたい。


『前に見た魔石とは違わないか?』


 ユウも不思議そうにテーブルに載っている魔石を見つめる。


「前に見た魔石とは違いますね」


 お兄ちゃんが呟くと、フォガスさんがバッグからもう一つ魔石を取り出した。


「俺が洞窟から持ってきたのは、こちらの魔石でしたね。新しいのは、洞窟の中を再度確かめに行ったキーフェとアテネが持って帰ってきた物です」


 テーブルに並んだ虹色の光を放つ二つの魔石を見つめる。

 

「俺たちが知っている魔石とはかなり違います。これはどんな物なんですか?」


 お父さんは、少し不安そうな表情でフォガスさんに問う。


「はい、見つかった魔石はかなり特別な物です。今、教会が探し求めている物なのです」


「教会がですか?」


 フォガスさんの返事にお母さんが驚いた声を上げる。


「はい。この魔石には『聖なる力』が込められているんです」


「「えっ?」」


 フォガスさんの説明に、お父さんとお母さんが同時に声を上げる。


「そんな貴重な魔石なんですか?」


 お父さんが険しい表情で魔石を見る。


「はい。そのため、リーナ殿を狙う者が現れるかもしれません」


「それは、どう言う事ですか?」


 フォガスさんの言葉に、お母さんが焦った表情を見せる。


「魔石は見つけた者に所有権があります。ですので、洞窟内にある魔石は全てリーナ殿の物になります。そのため、魔石を狙う者にリーナ殿が狙われるかもしれないのです」


「他の……フォガスさんが見つけた事にすればいいのでは?」


『ダメ! オルガトがあの魔石はリーナの物だって言ったんだから』


 ユウがお母さんに向かって声を上げる。


 いや、私はフォガスさんが見つけた事にしてもいいと思っているんだけどね。でもフォガスさんは、絶対に認めないと思う。

 

「それはダメです。精霊たちの怒りを買う事になります」


 えっ? 精霊たちの怒り?


 ユウを見ると、なぜか当たり前という風に頷いている。

 

「あっ、そうなのですか?」


 お母さんが困惑した表情で私を見る。


「はい」


 いや、精霊の怒りなんて買わないよ。だって、ユウはユーレイであって精霊ではないからね。でも「精霊ではありません」なんて言えない……。


「私たちはどうすればいいのでしょうか?」


 お父さんが真剣な表情でフォガスさんを見つめる。


「魔石の事はおそらく極秘扱いになるでしょう。ですが、情報というのはどこかから漏れてしまうものです。情報が漏れた時の事を想定して、家族全員で村から引っ越し、偽名で生活する方法があります。もう一つは、護衛を付ける方法です」


 村から引っ越すだけではなく偽名になるんだ。


『偽名で生活するのもかっこいいよな』


 ユウの呟きについ睨んでしまう。


「引っ越して偽名にするか、それとも護衛を付けるか、ということですか……」


 お父さんが深刻な表情で呟くと、お母さんに視線を向けた。


「子供たちが安全に暮らせるほうを選ばないといけないわ」


「そうだな」


 お母さんの言葉に、お父さんが頷く。


「どちらが、より安全に過ごせますか?」


「引っ越して偽名に変えたとしても、完全に痕跡は消せません。ですので、護衛のほうがいいと思います。ただ今の段階だと護衛は一人ずつ付き、交代制で大丈夫でしょうが、もしかしたら、もっと厳重な護衛が必要になる時があるかもしれません」


「わかりました。アグス、リーナ。どうする?」


 お兄ちゃんが私を見る。


「私は家族が安全に暮らせるほう」


 どっちというより、これが重要だから。


「俺は護衛がいい。引っ越したくないから」


 私とお兄ちゃんの話を聞いたお父さんがフォガスさんを見る。


「護衛でお願いすると、紹介していただけるのでしょうか?」


「はい、もちろんです」


 フォガスさんの返答にお父さんとお母さんが少しホッとした表情をした。


「一つお願いがあります」


「はい?」


 お父さんとお母さんが、不思議そうにフォガスさんを見る。


「魔石ですが、『聖なる力』が込められているので、教会が全て買い取りたいと言うでしょう。契約する時に、『家族を守る』ことを条件に入れてください。そうしておけば、この村の教会に護衛騎士が多く配属される事になり、もしもの時はすぐに駆け付けてくれます」


「わかりました。あの、今のは教会の動かし方ですよね? 話して良かったんですか?」


 お父さんが困惑気味にフォガスさんに聞く。


「どうでしょうか? でも、悪い事をそそのかしているわけではありませんから、大丈夫でしょう」


 フォガスさんが微笑んで言うと、隣に座っているルドークさんが呆れた表情を見せた。


『ルドークの反応から考えて、話していい事ではなかったみたいだな』


 そうだね。


「護衛ですが、冒険者ルドークと彼の仲間を予定しています。ただ、彼の仲間をまだ調査していませんので、決定ではありません」


 フォガスさんの説明に、お父さんとお母さんがルドークさんを見る。


「よろしくお願いします」


「はい、ただまだ決定ではないので。仲間の事は信じていますけど、もしもという事がありますから」


 冒険者ルドークさんの仲間か。ちょっと気になるな。


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