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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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81話 オルガトの殺された場所

 薬草ロキッソの採取が終わった翌日。お昼までのんびり体を休めることになった。原因は、お兄ちゃんと私の体調がちょっと悪くなったためだ。


「アグス殿、リーナ殿、大丈夫ですか?」


 お兄ちゃんと一緒にテントで休んでいると、フォガスさんの声が聞こえた。


「私は大丈夫です」


 寝っ転がっていた体を起こして、フォガスさんに答える。隣を見ると、お兄ちゃんが気持ちよさそうに眠っていた。


「お兄ちゃんは寝ています」


「わかりました。ではアグス殿が起きたら声を掛けてください」


「はい」


 フォガスさんの足音が遠ざかると、もう一度お兄ちゃんの隣に仰向けになる。

 

「眠くはないけど……」


『大丈夫か? まだ少し顔色が悪いぞ』


 ユウに視線を向けると、心配そうな表情で私を見ている。


「そう? ちょっと体がだるい感じはするだけで、しんどくはないんだけど」


『そうなのか? 見た目はしんどそうに見えるけどな』


 そうなんだ? だから朝、私を見たフォガスさんとルドークさんが慌てたのかな。


「それより、どこへ行っていたの?」


 朝ごはんを食べたあと、ユウがどこにもいなくて、ちょっと焦ったんだよね。


『洞窟を探していたんだ』


「洞窟?」


『そう。オルガトが探していた洞窟から少し離れた場所に、オルガトが殺された洞窟があるって聞いていたからさ』


「あったの?」


『崩れた洞窟を見つけた。オルガトから聞いていた岩と川の位置から間違いないと思う』


「そうなんだ。崩れていたんだったら、中には入れないか」


『いや、中に入ってきた』


「んっ?」


 ユウの言葉に首を傾げて彼を見る。


『入り口辺りは崩れていたけど、中は無事だったんだよ』


「そうなんだ。それで?」


『オルガトの骨でもあったら手を合わせようと思ったんだけど、何もなかった』


 一五七年も経っているからかな? でも骨ってそんなに簡単に土に返ったっけ?

 

『おかしいよな。まだ一五七年しか経っていないのに、骨が残っていないなんて』


 やっぱりおかしいんだ。


『あと、洞窟の周りに動物の骨がたくさん散らばってた』


「えっ? 動物の骨?」


『動物の骨なんて教科書でしか見た事がないから、どんな動物なのかはわからないけど、人の骨ではなかった』


「そうなんだ」


 なんか、不気味な場所だね。


「んっ、リーナ?」


 あっ、お兄ちゃんが眠っているのを忘れてた。


「ごめん、お兄ちゃん。まだ眠っていていいよ」


「ん~、いや、起きようかな。寝すぎるのもよくないから」


『アグス、おはよう』


 ユウは、聞こえないとわかっているのに、お兄ちゃんに声を掛けた。


「リーナ、体調はどう?」


「大丈夫。朝、起きた時より良くなったよ」


「そう?」


 お兄ちゃんが私のおでこに手を当てる。


「熱は大丈夫だね」


「うん。あっ、フォガスさんが『お兄ちゃんが起きたら声を掛けてください』って言ってたよ」


「わかった。リーナも一緒にフォガスさんの所へ行こうか」


「うん」


 お兄ちゃんと一緒にテントを出てフォガスさんを探す。

 

「起きたか? こっちだ」


 ルドークさんの声に視線を向けると、フォガスさんと一緒にいた。


「おはようございます。ゆっくり休ませていただきました。ありがとうございます」


 お兄ちゃんが二人に声を掛けると、フォガスさんが微笑んだ。


「顔色も戻っていますし安心しました。そろそろお昼ですが、食べられそうですか?」


 フォガスさんが、火にかけてあるお鍋を見る。


「はい。寝ていただけなのに、お腹が空きました。リーナはどう?」


「うん。私もお腹が空いてるみたい」


 さっきまで感じなかったのに、お鍋から立ちのぼるいい匂いにお腹が鳴りそう。


「もう、大丈夫そうですね。お昼を食べてから、これからの予定を決めましょう」


「「はい」」


「今日の昼は俺が作ったんだ。冒険者たちがよく作る『食べるスープ』だ。まぁ、味は冒険者によって違うけどな」


 ルドークさんがお鍋の蓋を開け、お玉で混ぜる。いい匂いが強くなったと思ったら、お腹が鳴った。


「ふふっ。お腹の空く匂いだよね」


 お兄ちゃんの言葉に、お腹を押さえて頷く。


「うん。すごくいい匂い」


 私たちの会話を聞いていたルドークさんが楽しそうに笑う。


「味も気に入ってくれると嬉しいけどな。ほら、座って」


 椅子に座ると、具がたくさん入ったスープを深皿に盛って、ルドークさんが持って来てくれた。


「どうぞ」


「「ありがとうございます」」


 ルドークさんが「食べるスープ」と言うだけあって、本当にたくさんの具が入っている。スープも具材のうまみがにじみ出ていてすごくおいしい。


「リーナ、これ、すごくおいしい」

 

「うん、おいしいね」


 お兄ちゃんと私がおいしいと言いながら食べていると、フォガスさんとルドークさんが楽しそうに笑った。二人を見ると、ホッとした表情をしているのがわかった。


 私たちが体調を崩したことで、かなり心配を掛けてしまったみたい。帰り道は、体調にも気を付けていよう。


 お昼の食べるスープが食べ終わると、フォガスさんが地図を広げた。


「帰りですが、行きとは違う道を通ろうと思います」


「どうしてですか?」


 お兄ちゃんが不思議そうにフォガスさんを見る。


「えっ、大丈夫ですか?」


 フォガスさんの質問に、お兄ちゃんも私も首を傾げる。


「襲われた場所を通るのは怖くないか?」


 ルドークさんが私たちの様子を窺いながら聞く。

 

「俺は別に怖くないけど、リーナはどう?」


 お兄ちゃんが私を見る。私は襲われた場所を思い出しながら首を横に振る。


「大丈夫だと思うけど……」


 襲われた場所を怖いと思うようになっているなら、今の家には住んでいないからね。


「大丈夫そうだな」


「そうですね」


 ルドークさんの呟きに、フォガスさんがホッとした表情を浮かべる。


「では、行きと同じ道を通って帰りましょう」


『リーナ』


 ユウに視線を向けると、真剣な表情をして私を見ていた。


『オルガトが殺された洞窟周辺をフォガスに調べるように言ってくれないか? なんか気になるんだよな』


 えっ?


『頼む。なんとなく、あの場所が……。あ~なんて言えばいいのかわからないけど。気になる!』


「どうかしましたか?」


 ユウを見ていると、フォガスさんに声を掛けられた。


「えっと……ある場所を調べてもらえますか?」


 もう、なんでもいいや。ユウが気になるんだったら、調べてもらおう。


「ある場所ですか?」


 私の急なお願いに、フォガスさんが驚いた表情をする。


「はい。場所は……どこ?」


 ユウに場所を聞くと、彼は嬉しそうに笑って森へ飛んでいく。


「あっ」


 いや、動くのが早すぎて、もう姿が見えないじゃん。


『ごめん。ユーレイは早く動けることをすっかり忘れてた。こっち』


 ユウは慌てて私の傍に戻って来ると謝る。そして、飛んでいった方を指差した。


「こっちです」


 飛んでいるユウを先頭にして、森の中を歩く。一〇分くらい歩いていると、ユウが「そろそろ見えると思う」と呟く。


「そろそろ見えてくるはずです。あっ……」


 ユウの言葉を伝えながら大きな木を通り過ぎると、目に入った景色に足が止まった。


「アグス殿、リーナ殿。戻りましょう」


 フォガスさんが私とお兄ちゃんの手を掴むと、元来た道を引き返す。


「大丈夫ですか?」


 フォガスさんが心配そうに私とお兄ちゃんを見る。


「はい、大丈夫です。お兄ちゃんは大丈夫?」


「うん。驚いたけど大丈夫」


 見えた先に岩の崩れた場所があった。きっと、あそこがオルガトが殺された洞窟なんだろう。でも、その周辺が問題だった。


 ユウは確かに「動物の骨がたくさん散らばってた」といった。そう、たくさん。


 まさか本当に地面が見えなくなるほどの数だとは思わなかった。しかも、中にはまだ骨になっていない物もあり、不気味だった。


 でも一番気になったのは色。骨も、骨になる前の物も、見渡す限り黒かったのだ。


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