80話 薬草ロキッソの採取
ルドークさんがきれいと言ったロキッソを採取する。
「ムリはしないように、疲れたら休憩を取ってくださいね」
「「はい」」
フォガスさんの注意に頷きながら、お兄ちゃんと一緒にロキッソの花畑に足を入れた。
「リーナ、頑張ろうね」
「うん」
お兄ちゃんとは少し離れた場所で、ロキッソの採取を始める。途中で採取するか迷った場合は、最初に採取したロキッソを見て判断する。
薬草採取は、家の周りや、森の中でお母さんに教わりながら行ったことがある。だから、少し慣れている。でもさすがに一〇〇本以上は大変みたい。どんどん疲れがたまってくる。
『リーナ、そろそろ休憩したらどうだ? かなりしんどそうだぞ』
ユウを見ると、ちょっと心配そうに私を見ていた。
「ありがとう。そうだね、ちょっと休憩しようかな」
ロキッソの花畑から出て、背伸びをする。収穫する時は中腰になるので、背伸びをすると気持ちが良い。採取を始める前に休憩したゴザの上に座ると、フォガスさんが用意してくれておいたお茶を飲む。
「あっ、リーナも休憩?」
休憩をしていると、お兄ちゃんがロキッソの花畑から出てくる。
「うん。お兄ちゃんも?」
「うん。一気に一〇〇本くらいは採取できると思ったけど、思ったより大変だったね」
「私もできると思ったけどムリだった。やっぱり一〇〇本は多いね」
お兄ちゃんが、私の座っているゴザの隣に座る。私は、お兄ちゃんにお茶を用意すると渡した。
「どうぞ。フォガスさんが用意してくれていたみたい」
「そうなんだ。フォガスさんって、いろいろなことができてすごいよな」
お兄ちゃんが、ロキッソを採取しているフォガスさんへ視線を向ける。
「うん、細かい事にも気づいてくれて、すごい人だよね」
私やお兄ちゃんが手伝いたいと言ったら、できることを見極めて、いろいろやらせてくれた。フォガスさんが、自分でやったほうが絶対に早くできるのに。
「リーナ」
「どうしたの?」
お兄ちゃんを見ると、なぜか私の頭の上を見ていた。つられてそちらに視線を向けたけど、気になるものはない。
『何かあるのか?』
ユウも気になったのか、私の隣から上を見上げる。
「精霊が一人、どこかへ行ってしまったの?」
「……えっ?」
一瞬、何を聞かれているのかわからなかった。でも、どうしてオルガトが去ったことに気づいたのかな?
見ているほうにユウはいない。だから、お兄ちゃんに精霊が見えるようになったわけではないみたいだけど。
「どうしてわかったの?」
『リーナ、その答え方はばらしているようなものだぞ』
しまった。いや、すでにいろいろ気づいているお兄ちゃんなんだし、隠す必要もないか。
「リーナの行動から、そう思ったんだ」
私の行動ってそんなにわかりやすいのかな? まぁ、ここにいるのは、精霊という名のユーレイが見えるってバレているので、気が緩んでいると思うけど。
「そうなんだ。お兄ちゃんの言う通り、一人は目的を達成して去ったよ」
まだやりたい事があると言っていたのに、洞窟に魔石があるとわかると、満足して去ってしまった。
「そっか。大丈夫?」
「うん。大丈夫」
少し寂しかったけど、もう大丈夫。
「それなら良かった。よしっ、ロキッソの採取を再開しようか」
「うん」
フォガスさんとルドークさんに任せきりにはできないからね。
ロキッソの花畑に戻り、採取を再開する。
「終わりにしましょうか」
遠くからフォガスさんの声が聞こえ、視線を向ける。
「あれ?」
ロキッソの採取に必死だったから、始めた場所から随分と離れたところまで来てしまっていたみたい。
「おつかれさま」
ルドークさんの声に視線を向けると、腕を回しながら近づいてくるところだった。
「おつかれさまでした。手伝ってくださりありがとうございます」
あれ? そういえば、フォガスさんもルドークさんも護衛だよね。護衛が薬草採取を手伝ってくれるのは、良いのかな?
「みんなのところへ行こうか」
「はい」
最後に採取したロキッソをマジックバッグに入れると、ルドークさんと一緒にみんなのところへ戻った。
ゴザの前に採取したロキッソをマジックバッグから全て出す。ロキッソの山が四つできる。
「私が一番少ない……」
頑張ったのにな。
「俺もフォガスさんたちほど多くないよ」
お兄ちゃんの言葉に、フォガスさんとルドークさんが採取したロキッソを見る。確かに、私とお兄ちゃんの採取したロキッソを合わせても、フォガスさんとルドークさんがそれぞれ集めた量より少ない。
「薬草採取には慣れていますからね。初めてでこれだけ採取できれば、すごい事ですよ」
フォガスさんが微笑みながら、私とお兄ちゃんが採取したロキッソを見る。
「そうだぞ。それに、どのロキッソも、きれいな状態の物をしっかり選べている。これが薬草採取で重要な事だからな」
ルドークさんが、山になっているロキッソを選別しながら呟く。
「あっ、俺も手伝います」
「私も」
ルドークさんの隣に行くと、彼は一本のロキッソを私たちの前に出した。
「花と茎を見て、虫食いがないか、しおれていないかを確認して、これはきれいだな。問題がなければマジックバッグに入れる。できそうか?」
ルドークさんは、手に持っていたロキッソをマジックバッグに入れると、私たちを見た。
「「はい」」
一本一本見ながら選別して、マジックバッグに入れていく。
『そのマジックバッグ、やっぱり不思議だよな。アニメやマンガでは便利な物として見ていたけど、こうして目の前で実物を見ると不思議でしょうがない』
ユウをチラッと見たあと、ロキッソを入れているマジックバッグへ視線を向ける。
確かに、不思議なバッグだよね。この世界では村の人たちだって普通に持っているバッグだけど、前の世界ではありえない物だから。しかも、時間停止とか考えても仕組みがさっぱりわからない。まぁそれが、魔法なんだろうけど。
「終わった~。全部で三八二本か」
ルドークさんが、最後に選別したロキッソをマジックバッグに入れると、お兄ちゃんと私を見た。
「あと一八本で四〇〇本になるけど、どうする?」
お兄ちゃんが私を見る。
「俺は四〇〇本にしたいけど、リーナはどう?」
「私も賛成。一八本くらいならすぐだから、採取に行こう」
「ちょっと待っててください」
私とお兄ちゃんはすぐにロキッソをあと一八本採取するために、花畑に行く。
「この辺りは、きれいな物はないから、少し奥に行こうか」
「うん」
お兄ちゃんの提案に頷いてから、ユウを見る。
「どっちに行けばいいと思う?」
『あっち』
ユウが指したほうを見ると、お兄ちゃんが私の視線の先を見る。
「あっちだね。行こう」
お兄ちゃんと一緒に、残りの一八本を探す。そして、きれいなロキッソを選んで採取すると、ルドークさんたちのところへ戻った。
「「ただいま」」
お兄ちゃんがルドークさんに、一八本のロキッソを渡す。ルドークさんがロキッソを選別している間、少しドキドキする。
「問題なし。四〇〇本達成だ」
ルドークさんが笑って、お兄ちゃんと私に告げる。
「「ありがとうございます」」
お兄ちゃんが私を見て微笑む。それに笑い返すと、グ~とお腹が鳴った。
「あっ」
とっさにお腹を押さえる。
「夕ごはんの準備をしましょうか」
フォガスさんがゴザや使ったコップなどを片付けると、私たちに視線を向けた。
「そうだな。頑張ったから腹が減ったよ」
「俺もです。リーナ、行こう」
「うん」
みんな、優しいなぁ。
『フォガスのあの優しさって、リーナに精霊が見えると思っているからかな?』
んっ?
ユウの呟きにフォガスさんへ視線を向ける。
あ~、その可能性はあるかも。だって女神の友達の精霊が見えるんだもんね。でも、もしそうなら、ちょっと寂しいな。




