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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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73話 洞窟の奥から?

 フォガスさんが険しい表情でチャルト子爵を睨みつける。

 

「俺を異端者だと……女神などという偽善者の奴隷がほざくな!」


 あれ? チャルト子爵は女神信仰ではないんだ。あっ、だから「異端者」なのか。女神の恩恵をいろいろ受けているこの世界で、よくそんな暴言が吐けるよね。


『おかしい、どうしてだ?』


 オルガトの声が聞こえた方を見ると、洞窟の壁をぺたぺたと触って何か呟いている。 そのちょっと不気味な光景に、顔が引きつる。


「何あれ」


『魔石がないからショックを受けているみたいだ』


 そうだ! この洞窟がオルガトの探していたところだと言っていた。


 洞窟全体を見回して魔石という物を探す。チャルト子爵のおかげと言っていいのかわからないけど、彼らが設置した灯りのおかげで洞窟の中は明るい。だから、この洞窟に魔石がない事はすぐにわかった。


『くそっ。この洞窟で魔石が作られると思ったのに!』


 オルガトは、洞窟の壁に両手を付いて……おそらく泣いている。


『リーナ』


 ユウの呼ぶ声に視線を向けると、彼は洞窟の奥を見ていた。ユウの視線を追って、私も洞窟の奥を見る。


「何かあるの」


『うん。すごい力を感じる』


 ユウの答えに首を傾げる。

 

「すごい力って何?」


『わからない。でも、洞窟の奥の壁が崩れやすくなっているみたいなんだけど、そこから感じるんだ』


 えっ? この場所からは、壁が崩れやすくなっている事なんてわからないと思うけど。


『リーナ、行こう』


 ユウの言葉が気になったので、洞窟の奥へ行こうとすると腕を掴まれた。


「リーナ、どこへ行くの?」


 しまった。お兄ちゃんの前でユウと話してしまった。……んっ? そういえば、さっきから普通にユウとオルガトと話しているような……。


「リーナ?」


 お兄ちゃんを見ると、私を心配そうに見ている。


「えっと、洞窟の奥が気になるから見に行こうかと思って」


 隠すのしんどいから、もういいか。ここにいるのは、信用できるお兄ちゃんとフォガスさんとキーフェさんだから。


 あっ、チャルト子爵もいるんだった。でもあの人は、この洞窟を出たら二度と会う事はないと思う。「異端者」と言った時のフォガスさんの様子からして、かなり嫌われている存在みたいだから。


「奥? フォガスさんに聞いてから行こう。まだ、チャルト子爵の仲間が潜んでいるかもしれないから」


『それは大丈夫だ。奥には誰もいない』


「大丈夫みたいだよ」


 チラッとユウを見てからお兄ちゃんに彼の言葉を伝えると、お兄ちゃんは私が見た方向を見て笑った。


「そこにいるんだね」


「うん。すっごく面倒くさい存在が」


『リーナ、そろそろ俺を精霊に格上げしようよ』


 いや、ユーレイを格上げって何? ユーレイは、どこまでいってもユーレイでしょ?


「ぷっ。面倒くさい存在なんだ」


 私の説明を聞いたお兄ちゃんが笑う。


「そうだよ。自分勝手な……そうでもないか」


 ユウはユーレイの中では特別だからわかるけど、オルガトもそれほど自分勝手というわけではなかった。オルガトの話から、かなり強い心残りがあったと思うのに。


「リーナ。妖精って自分勝手なの?」


「話せばわかってくれる事もあるよ。中には、まったく話が通じない場合もあるけど」


 視線を感じ振り返ると、驚いた表情で私を見つめるチャルト子爵がいた。その視線が気持ち悪くて、思わず肩がわずかに震えた。


「大丈夫だよ」


 お兄ちゃんが、チャルト子爵と私の間に立って壁になってくれた。


「ありがとう」


「おま、え、なんだ? まさか、あくれー――ぐぁ、ごほっ」


 チャルト子爵が私に向かって「悪霊が見えるのか?」という内容のことを言おうとしたんだと思う。でも、話の途中でキーフェさんに殴られた。


「リーナ殿、アグス殿。洞窟の奥に行きたいんですよね。俺が一緒に行きますね」


 お兄ちゃんと一緒に驚いていると、フォガスさんが今起こった事を無視して話しかけてくる。


「はい、そうです。お願いします」


 お兄ちゃんは少し戸惑った様子でフォガスさんに頷いた。


「では、行きましょうか」


 フォガスさんが私とお兄ちゃんを誘導するように、洞窟の奥へと進む。

 

『さっきも思ったけど、フォガスもキーフェも、人を殴る事や殺す事に迷いがないよな』


 ユウの呟きにチラッと彼に視線を向ける。


『それは当たり前だろう。殺される前に殺すのは当然なんだから』


 ユウの呟きに、オルガトが不思議そうに言う。

 

『この世界は、そうなんだな。人の命が、ちょっと軽いよな』


『軽い?』


 ユウとオルガトの話を聞いていると、洞窟の奥へ着いた。


 ユウが言っていた崩れやすくなっている壁はどこだろう?


『そう、簡単に人を殺すじゃん』


『だって、殺さないと殺されるだろう? ユウは自分が死ぬのをただ黙って見ているのか?』


 オルガトの放った言葉に、ユウが困った表情を浮かべる。


『黙って殺されるのはイヤだけど……』


 前の世界の感覚を覚えているから、人を殺すことに抵抗があるんだろうな。ユーレイになった時に、普通はその感覚から解放され、自分の目的を果たすために生者を追い詰めて死なせてしまうこともあるんだけど、ユウは違うんだよね。本当に不思議だな。


「特に何もないね。リーナ、どうしてここに来たの?」


 お兄ちゃんが不思議そうに私を見る。


「えっと、ちょっと待ってね。どこ?」


 崩れやすい壁の位置がわからないのでユウを見る。お兄ちゃんとフォガスさんの視線も、私が見ている方へ移動した。


 見えないとわかっていても、つい視線を向けちゃうって感じかな?


『フォガスの右側。その壁から、力が漏れているんだ』


 ユウの言った場所に視線を向ける。フォガスさんはその視線に気づくと、少し左に移動した。


「ここですか?」


「はい。壁が崩れやすくなっていて、奥に何かあるみたいです」


 私の説明を聞いたフォガスさんは少し驚いた表情を浮かべたあと、彼の右側の壁に手を当てた。


 ビキッ、コロコロコロ。


 壁の一部が転がるのを、視線で追う。


『ほら、崩れただろう?』


 ユウが嬉しそうに言うが、オルガトが焦った表情をした。


『ここから離れろ!』


 ビキビキ、バキバキ。


『えっ?』


 ヒビの入っていく洞窟の壁に、ユウが唖然とする。私も驚いて、ただ壁にヒビが広がっていくのを見つめた。


「失礼します」


 フォガスさんの声が聞こえたと思ったら、体が宙に浮く。気づいたら、フォガスさんに抱えられていた。


「キーフェ、洞窟から出ろ!」


 フォガスさんに抱えられたまま洞窟の外へ出る。すぐにキーフェさんが洞窟から出てきて、私たちの傍に来た。


 ド―――――ン。


 大きな音が洞窟内からすると、中から大量の砂埃が出てきた。


『『リーナ!』』


 ユウとオルガトが興奮した様子で洞窟から出てきた。

 

『リーナ! すごいぞ! 魔石だ! それもオルガトが言っていた物より、すごい物が出た!』


 ユウが興奮した様子で、私の傍を飛び回る。


『やった~、あった~! リーナ、やはり俺の研究に間違いはなかった!』


 大興奮したオルガトが、ユウと同じように私の傍で飛び回る。


「はぁ」


 二人のあまりの鬱陶しさに、大きなため息が出た。


「リーナ殿? 大丈夫ですか?」


 あっ、まだフォガスさんに抱えられているんだった。


「大丈夫です。あの助けていただきありがとうございます。……下ろしてもらっていいですか?」


『リーナ、行こう! ほら、魔石を見に行こう!』


 フォガスさんに下ろしてもらうと、オルガトがすぐに洞窟へ行こうという。洞窟を見ると、まだ砂埃が舞っている。


『リーナ、行こうよ!』


 私の目の前まできて声を上げるオルガトに視線を向ける。


「ムリ。まだ入れる状態じゃないから」


『えぇ~、フォガスたちに取られたらどうするんだ!』


「別に、命の恩人だし彼らが欲しいと言うならあげる。って、そもそも私の物じゃないからね」


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