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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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69話 予定の変更

 休憩を取ることになり、馬から降りた途端、足が震えてその場に座り込んでしまった。


『うわっ、何やっているんだ?』


 ユウが驚いた声を上げると、オルガトも目を丸くした。


 うるさいな、足に力が入らないの!


「大丈夫ですか?」


 フォガスさんが慌ててそばに駆け寄り、私の様子をうかがう。


「大丈夫です。ただ、ちょっと立てないだけです」


 あれっ、これは大丈夫と言えるのかな? それにしても、馬に乗っている時は緊張していて気づかなかったけど、全身の疲れがすごい。お兄ちゃんは大丈夫かな?


 キーフェさんの馬に乗っていたお兄ちゃんを探すと、キーフェさんに支えられているのを見つけた。


「リーナ、大丈夫?」


 お兄ちゃんが私のそばにゆっくり来ると、心配そうな表情をした。


「大丈夫。馬って全身を使うんだね。ビックリしちゃった」


「うん。馬から降りたら、足ががくがくになってて驚いたよ」


『馬上で少し休憩を取ったとはいえ、ここまで四時間。そりゃ疲れるよなぁ』


 ユウの呟きに、オルガトが首を傾げる。


『最近は、子供に乗馬はさせないのか? 俺の時は、勉強が始まると乗馬も始めたけど』


 そうなの?

 

『それは、オルガトが貴族の子供だったからじゃないのか?』


『えっ、そうなのか?』


 ユウの問いに、オルガトが私を見る。


 いや、私が知るわけないからね。って、どうしてユウまで私に答えを求めるような目で見るの? 無視しよう。


 キーフェさんが用意してくれた椅子に、フォガスさんの手を貸してもらって座る。


「ありがとうございます」


「いいえ、ゆっくり休憩をして下さいね」


 フォガスさんは、お兄ちゃんと私を安心させるように微笑むと、キーフェさんと二人で少し離れた場所に移動した。


「ここ、予定していた休憩場所じゃないよね?」


 ランサ森へ出発する前に、だいたいの予定をフォガスさんとキーフェさんから聞いた。その時、地図を見ながら野宿する場所や休憩場所について説明を受けたけど、ここは違うような気がする。


「たぶん、違うと思う」


 お兄ちゃんは、周りを見ながら頷いた。


 やっぱりそうだよね。最初の休憩場所の近くには、大きな川があったはずだけど、どこにもないもんね。


「俺たちの疲れ具合が、想像以上だったのかな?」


 お兄ちゃんの問いに、私は少し考えてから頷く。


「そうだと思う」


 他の原因は、思いつかないからね。


「もっと体力を付けておけば良かったな」


 お兄ちゃんの小さなつぶやきに、私も頷いた。


「それにしても、軍馬はかっこいいよな」


 お兄ちゃんが、三頭の馬を見て呟く。


「馬車を引く馬とはやっぱり違うよね」


 フォガスさんとキーフェさんが乗っている馬は、普通の馬よりも体格のいい軍馬だ。冒険者が乗っている馬よりも、またがると足を広げることになるらしい。


『フォガスとキーフェの乗っている馬。これ、かなりすごい軍馬だと思うぞ。ほら、荷物を運んでいるのも軍馬だけど、筋肉の付き方が違う』


 オルガトの説明を聞きながら、荷物を運んでくれている馬とフォガスさんたちの馬を見比べる。


『本当だ。二頭の方が大きくてがっしりしている』


 ユウの言う通り、確かに違うなぁ。

 

「そうだね」


 お兄ちゃんとゆっくり休んでいると、フォガスさんとキーフェさんの話し合いが終わったようだ。


「少し予定を変更しようと思いますが、大丈夫ですか?」


 フォガスさんが、お兄ちゃんと私に視線を向ける。


「「はい」」


 その変更は私たちのためだから、反対する理由はないよね。


「今日はもう少し先に進み、休憩場所に選んでいたところで野宿をします。明日からですが、予定していた道だと高低差があるので、遠回りにはなりますが平坦な道を進もうと思います」


 それは、少し予定を変更というレベルではなく、大きな変更だね。


「俺はそれでかまいません、リーナは?」


「私もそれでいいと思います」


 フォガスさんたちが、時間がかかっても平坦な道の方が体に負担が少ないと判断したんだから。


「ありがとうございます。では、あと少し移動しましょうか」


「「はい」」


 元気よく返事はしたけど、足はまだプルプル震えているんだよね。

 

「どうぞ」


「ありがとうございます」


 恥ずかしいけど、フォガスさんに手を貸してもらいながら立ち上がって、馬に乗せてもらう。


『大丈夫か?』


 ユウの問いに、小さく頷く。

 

「では、行きましょう」


 キーフェさんの掛け声で、馬がゆっくりと動き出す。全身を使ってバランスを取りつつ、私は小さく息を吐き出した。


 がんばれ、私! あと少し。



 目が覚めると、全身がギシギシと悲鳴を上げていた。でも、このまま寝ているわけにもいかないので、なんとか起き上がったけれど痛みが走り、結局そのまま後ろに倒れてしまった。


 いった~。


 筋肉痛が酷くならないようにフォガスさんから聞いたストレッチをしたけど、これでもマシな方なのかな?


『リーナ、大丈夫か!』


 ユウの声に視線を向けると、すごく心配そうな表情で私を覗き込んでいた。


「近い」


 ユウを手で払うと「心配したのに~」という言葉が聞こえた。


「ユウ、ありがとう。でもただの筋肉痛だから、大丈夫」


 もう一度起き上がると、傍に用意しておいた服に着替える。


「今日が平坦な道で良かった。遠回りでも、この体で高低差のある道がムリ!」


「リーナ、こっち」


 テントを出ると、お兄ちゃんが小さく手を挙げてくれた。お兄ちゃんのそばにゆっくり歩いて行くと、椅子に座る。


「お兄ちゃん、おはよう」


「リーナ、おはよう」


 二人で顔を合わせ、笑ってしまう。


「全身が痛いね」


 お兄ちゃんの言葉に笑って頷く。


「うん、すごいね」


『そんなに酷いのか? さっきの歩く姿もちょっと……』


 ユウを見ると、私の歩く姿を思い出したのか笑うのを我慢しているのがわかった。ユウに文句を言いたいのに、言えないのが悔しい!


「二人ともおはようございます。体の調子はどうですか?」

 

 フォガスさんが、私たちに朝ごはんのパンとスープを渡しながら聞いて来る。


「全身がギシギシいっているけど、大丈夫です。頑張ります」


 お兄ちゃんの言葉に頷いたフォガスさんが私を見る。


「私もお兄ちゃんと同じ状態です。でも大丈夫です」


「わかりました。今日も様子を見ながら進みますね」


 キーフェさんも来ると、みんなで朝ごはんを食べる。

 

「あの、昨日からありがとうございます」


 朝ごはんを食べ終わると、お兄ちゃんがフォガスさんとキーフェさんにお礼を言う。


「「えっ?」」


 不思議そうな表情をする二人に、お兄ちゃんが少し恥ずかしそうに笑う。


「昨日から俺たち、何もお手伝いできなくて、ずっとしてもらってばかりだから」


 そうだ。お兄ちゃんとランサ森へ出発する前は、手伝えることはできるだけしようと話していたのに、すっかり忘れていた。


「気にする事はないですよ。初めての旅なんですから」


 キーフェさんがお兄ちゃんの頭を優しく撫でる。


「今はムリだけど、大丈夫になったら手伝わせて下さいね」


「わかりました。でも、ムリはしないようにして下さい」


 キーフェさんが嬉しそうに微笑むと、出発の準備を始めた。

 

「では、行きましょう」


 昨日に続き、お兄ちゃんはキーフェさんの馬に、私はフォガスさんの馬に乗せてもらい出発する。しばらく走ると、体は痛みを訴えるけど、昨日より上手に乗れていると感じた。


『んっ? この先に誰かいるぞ』


 オルガトが私の隣を飛びながら、少し先を指差す。


『リーナ、止まれ! 隠れているし、武器を持っててあやしい!』


 ユウの叫び声が聞こえると、体がビクッと震える。


「リーナ殿? どう――」


「止まって! 止まって!」


 私の声に前を走っていたキーフェさんが、驚いた表情で振り向いた。


「お願い止まって! 武器を持って隠れてる!」


 フォガスさんとキーフェさんが慌てて馬を止めると、私を見た。


「どこですか?」


 フォガスさんが、警戒をしながら周辺に視線を走らせる。

 

『リーナ、前方にある大きな岩の後ろだ』


「大きな岩の後ろ」


 ユウの説明に視線を向けるけど、私には見えない。でも、こんなところでユウがウソをつく理由がないのでそのまま伝える。


『右にもいるぞ。木の上に三人……弓を構えてやがる』


「右の木の上に三人。弓を構えている?」


 オルガトの言った事を伝えながら、武器を構えている事に疑問が浮かぶ。


「えっ。狙われているの?」


 どうして?


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