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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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68話 ランサ森へ出発!

 ランサ森へ出発の日。


 お父さんとお母さんと一緒に外へ出ると、フォガスさんとキーフェさんが三頭の馬を連れて待っていた。


「「「「おはようございます」」」」


 お兄ちゃんと私、フォガスさんとキーフェさんが全員同時に挨拶をしてしまい、思わずみんなで顔を見合わせる。


「あははっ、息が合っていますね」


 キーフェさんが楽しそうに笑うと、お兄ちゃんも私もつられて笑い声を上げた。


『ランサ森! ランサ森! ラ・ン・サ・もり~』


 昨日からずっとハイテンションなオルガトが、本当に鬱陶しい。ユウも最初は落ち着かそうとしていたけど、数時間の格闘の末に諦めた。

 

 チラッと二人を見ると、ものすごい笑顔のオルガトと死んだような目をしたユウがいた。いや、ユーレイのユウが死んだような目をしているって、なんだか変な話だよね?


「準備は大丈夫でしたか?」


 フォガスさんが私たちの荷物に目を向けながら、尋ねてきた。


「はい。お母さんとお父さんがいろいろ教えてくれたので、大丈夫です」


 ランサ森へ行く事を、想像以上にあっさりと許可してくれたお父さんとお母さん。てっきりフォガスさんたちが一緒だから安心しているのかと思っていたけれど、旅の準備が始まってみると、そうではないことがわかった。

 

 だって、ユウが「やっぱりあった!」と大喜びした、防御魔法が籠められたマジックアイテム。それを、旅の準備を始めた初日に用意してくれたから。


 今、お兄ちゃんと私の両手首には、両親が買ってくれたマジックアイテムのブレスレットがつけられている。右手首につけているのは、物理的な攻撃を五回まで防ぐ魔法が籠められたマジックアイテム。左手首につけているのは、魔法攻撃を八回まで防ぐ魔法が籠められたマジックアイテムで、どちらも高価な品だとお兄ちゃんが教えてくれた。


「アグス殿、リーナ殿、荷物をこちらに持って来て下さい」


 キーフェさんに呼ばれて荷物を持っていくと、それぞれの荷物を馬に括りつけてくれた。



「二人とも、気を付けてね。何か心配なことや、体調がおかしいと感じたら、すぐにフォガスさんたちに知らせるのよ」


 お母さんが心配そうな顔で、お兄ちゃんと私の頭を優しく撫でる。


「うん、わかった。何か変だなと思ったら、ちゃんとフォガスさんたちに伝えるよ」


 お兄ちゃんが返事をする横で、私は頷いた。


『大丈夫です、カーナさん。リーナに何かあったら洞窟へ行けなくなるので、俺が守ります! 必ず洞窟へ行ってみせる!』


 オルガトの宣言に思わずため息がこぼれる。


 そもそも、霊力レベル二では私を守る事はできないと思うよ。


「行きましょうか」


「「はい」」


 フォガスさんの声かけで、お兄ちゃんはキーフェさんの馬に、私はフォガスさんの馬にそれぞれ乗せてもらった。


 私とお兄ちゃんは最初、ランサ森へは歩いて行くのだと思っていた。でも、ランサ森へ行く日程などをお父さんとお母さんに報告していると、お父さんが私たちはまだ馬に乗った事がないと話し始めた。どうしてそんな話を始めたのか、お兄ちゃんも私もわからず困惑していると、その様子を見たお母さんが「ランサ森へは馬に乗って行くのよ」と、教えてくれた。驚いたけれど、お兄ちゃんも私も馬に乗れるかもしれないと、少しわくわくした。


 お父さんとフォガスさんが相談した結果、翌日の夕方、フォガスさんとキーフェさんが馬で我が家に来てくれた。そして、お兄ちゃんと私をそれぞれの馬に乗せて我が家の周りを一周。最初はお兄ちゃんも私も緊張していたけれど、すぐに慣れることができた。


「では、行きます」


 キーフェさんがお父さんとお母さんに声を掛けると、馬のお腹を軽く叩いた。


「「行ってきます」」


「「行ってらっしゃい」」


 三頭の馬が、ゆっくりと歩き始める。少しすると、徐々に速度を上げ始めた。


「大丈夫ですか?」


 私を前に乗せて馬を走らせているフォガスさんが、チラッと私に視線を向ける。


「大丈夫です」


 私は五歳。まだ子どもなので足が短いし、馬にも乗り慣れていない。だから、馬にまたがらずに横向きに乗っている。お兄ちゃんもどうしようか悩んでいたけれど、慣れていない馬にまたがって長い時間走るのは大変だろうということで、今回は二人とも横向きに乗ることにした。


 お兄ちゃんは、ランサ森から戻ってきたら乗馬に挑戦するとお父さんに宣言していた。

 

 ランカ村は本当に広くないようで、馬で一時間も走れば村を出てしまった。


「ラティ森に入ります。今日は、ラティ森を抜けた辺りで野宿になるでしょう」


 フォガスさんの説明を聞いて、私は首をかしげた。地図では、ランカ村を出たらランサ森だったと思う。それなのに、ラティ森?


『リーナ。地図には、そんな森は載っていなかったよな?』


 ユウも不思議そうな表情で、私のまわりを飛び回る。


「どうしました?」


 私の様子に気づいたのか、フォガスさんが聞いてくる。


「地図でランサ森を探した時に、ラティ森という名前はなかったのでどうしてかなって思って」


「えっ、なかった? もしかして古い地図だったんでしょうか?」


 古い地図……?

 

「学校の図書室にあった地図だったんですけど……」


 最初に見た地図が、いつごろ作られたものなのか、確かめるのを忘れていたな。だって、見やすい場所に置いてあったから、てっきり最新版だと思って……。


「学校の地図ですか……。キーフェ」


 フォガスさんは少し声を張って、前を走るキーフェさんに声を掛けた。


「どうしました?」


 キーフェさんが少し速度を落とすと、フォガスさんと並んで走り出す。


「ランカ村を抜けたらラティ森ですよね?」


「はい、そうです。王都から送られた地図ではランカ村の周りをラティ森、その森を抜けるとランサ森とありました。何か問題がありましたか?」


「リーナ殿が見た地図では、ランカ村を出たらすぐにランサ森だったそうです」

 

「あぁ、リーナ殿が見た地図は五年以上前の物だと思います。五年前に、元バーガル子爵の当主が森の名前を一部変えたそうですから」


 バーガル子爵が森の名前を一部変えた? それに、どんな意味があるの?


『問題を起こした貴族だから、名前変更に何かあるのかと勘ぐってしまうな』


 ユウの言葉に頷く。


「キーフェ。なぜ、名前を変えたのか調べましたか?」


 フォガスさんの質問に、私はキーフェさんに注目する。


「いいえ、それは調べていません」


 残念だな。


『リーナ。森の名前が一部変わった事を村の奴らは知っているのかな? だってリグスは、同僚がランサ森の傍に住んでいるって言っていただろう?』


「あっ!」


 私が驚いた声を上げると、フォガスさんの腕がビクッと振るえた。


「あっ、ごめんなさい」


 馬上なんだから、急に声を上げたらダメだよね。


「大丈夫です。それより、どうかしたんですか?」


「森の名前が一部変わったことを、お父さんは知らないと思います。大工仲間がランサ森の近くに住んでいるって言っていたから」


 ランカ村を抜けてから民家なんて一つもない。ラティ森でこれなら、森のもっと奥にあるランサ森の傍に民家があるとは思えない。


「それは、変ですね。村や近くの森などの名称が変わった時は、大々的に発表がされるはずです」


 五年前は、私はまだ生まれていなかったか、生まれたばかりのころだから、リーナが覚えているはずがないよね。


「お兄ちゃん……」


 五年前、お兄ちゃんは三歳だからムリか。


「ごめん、覚えていないかな」


 お兄ちゃんが残念そうに言うと、キーフェさんがお兄ちゃんの頭をポンと撫でた。


「五年前だとアグス殿は三歳です。それは、さすがにムリですよ」


「それにしても、どうして名前を変えたんでしょうね?」


 私の呟きに、フォガスさんが小さく「あっ」と声を上げる。


「フォガスさん?」


「五年前に、元バーガル子爵で大きな不幸が続いたのかもしれないですね」


 大きな不幸?


「今はあまり行われないですが、昔は大きな不幸が続いた時、それ以上続かないように村や森の名称を変える事があったみたいです」


 元バーガル子爵か。五年前は誰が当主だったんだろう?


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