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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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番外編 終わっていない

―護衛騎士フォガス視点―


 ランサ森へ行く準備を進めていると、部屋の扉が「ゴン」と音を立てて叩かれた。扉を開けると、キーフェが両手にそれぞれマグカップを持って立っていた。


「すまない。両手がふさがっていて……」


「いえ、どうぞ」


 キーフェを部屋に招き入れて、彼が持っていたマグカップのうち一つを受け取った。


「ありがとうございます。それで、どうかしましたか?」


 俺の質問を聞きながら、キーフェは部屋を見渡す。


「特に用事はないんですが、この部屋はどうですか?」


 教会に属する護衛騎士なので、各村や町に行った時は教会にお世話になるのが通常だった。ただ、この村の教会は宿泊できる状態ではなかったため、町の宿を利用していた。でも今日からは、修復の終わった教会を使える。


「今のところ、問題はありません。あとは、雨降りの日に雨水の流れや雨漏りを確認するだけです。そちらの部屋は大丈夫でしたか?」


 俺は教会の二階の部屋を、キーフェは一階の部屋を使っているので、もしかしたらキーフェの方に何か問題があったのかもしれない。


「こちらも問題ないです。そうだ、ベッドの上部にある棚、あれは便利ですよね」


 確かに、この教会のベッドは他の場所のベッドと違って棚がついていて、とても便利だ。


「このベッドを作った人は、すごいですよ」


 キーフェの話を聞きながら、リーナ殿とアグス殿の父親、リグス殿を思い浮かべる。おそらく、この棚を作ったのは彼でしょう。彼らの家で見かけた棚やテーブルに施された花や葉のデザインが、このベッドの棚にある葉のデザインとよく似ている。


「そうですね。そうだ、キーフェ。ランサ森へ行く準備は終わりましたか?」


 明後日にはランカ村を出発するけど。


「大丈夫。あとは当日に準備しないといけないものばかりですから」


 コンコン、コン。


「どうぞ」


 扉を叩くリズムから誰かを予想していたが、部屋に入ってきた男性を見て、そばにあった剣を手に取った。


「ただいま帰りました~」


 でも、男性から聞こえた女性の声には聞き覚えがあったので、剣から手を離した。


「これは、見事ですね」


 キーフェが感心した様子で彼女の姿を見つめた。


「すごいでしょう? 完璧に男性にしか見えませんよね」


 満足げに話す彼女に、俺とキーフェは笑いながらうなずいた。


「「そうですね」」


「やった、二人に満足してもらえる変装ができたわ」

 

 俺たちの返事を聞いて嬉しそうに笑う彼女に、ものすごく違和感がある。

 

 まぁ、当たり前だよな。声はよく知る女性のものなのに、姿は全く見覚えのない男性なんだから。


「それより、どうしてその姿なんですか?」


「迷える冒険者が、教会へ祈りに来た風を装うためですよ」


 彼女の説明にキーフェが窓から外を見る。


「もしかして、教会を見張っている者がいましたか?」


 この村の教会は、立地があまり良くないんだよな。普通なら村の中心に建てるはずなのに、なぜか中心から少し離れた場所に建っている。しかも、教会の周りには何もないので、誰が教会を訪れたのかすぐに分かってしまう。


「ええ、いましたね」


 彼女の説明に、俺とキーフェは顔を見合わせた。


 リーナ殿とアグス殿が呪われた事件。呪いをかけた者が死に、その家族や、呪いを黙認した牧師が捕まったことで解決したはずだった。アルテト司教も一度は「終わった」と判断したのだが、呪いをかけた者。フィスミリ・バーガル・ランカを調べていくうちに、おかしな点が見つかった。

 

 人を呪う場合に必要なものは、魔法陣だと多くの者が知っている。でも実は、魔法陣だけでは人を呪う事はできず、魔結晶まっけしょうという物が必要になる。


 魔法陣は、通常のものではなく古代文字が使われている。ただ、古代文字は古い文献を研究する者たちに必要なので、学校では学ばないが学べる環境はある。


 でも魔結晶は、簡単に手に入れる事はできない。裏取引されているが、貴族だとしても簡単に手が出せる値段ではない。そもそも魔結晶は人を呪う事にしか使えないため、探している事がバレると弱みになる。貴族にとって弱みは最大の敵なので、軽々しく探しているとは口にできない。


 魔結晶を自ら作る事もできるが、材料を集めるのは難しい。これも裏取引されていると聞いたが、魔結晶と同じように、探しているとは簡単に口に出せないだろう。


 そして、ランカ村の管理を任されていたバーガル子爵だが、資産がほとんどなかった。この情報がわかると、フィスミリ・バーガル・ランカがどうやって魔結晶を手に入れたのかが注目された。


 バーガル子爵は貴族といっても辺鄙な村の管理人でしかなく、そんな彼らに取り入りたい貴族や商人などいない。うまみがないからだ。もしいるとしたら、なんらかの思惑があっての事だろう。


 リズガ・バーガル・ランカとフィラン・バーガル・ランカに魔結晶の入手方法を聞いたが、フィスミリ・バーガル・ランカが誰かに貰ったとしかわからなかった。

 

 アルテト司教は届いた報告書を読むと「もう一度調査をする必要ある」と判断し直した。そしてその調査をするために来たのが、護衛騎士の一人、アテネ・チャル。キーフェと同じ村の出身で、趣味は変装だ。今回は、その趣味を活かしてこの村を調べ始めた。


「見張っていたのは?」


「チャルト子爵の護衛でした」


 俺の質問に答えたアテネは、ランサ森へ持っていく物を書き出した紙に視線を向けた。


「フォルガスは、彼女たちと話をしましたよね? どうでしたか?」


 これはリーナ殿とアグス殿のことを指しているんだろうな。


「『これ以上の報告はなし』です」


 精霊の事だとわからないように作られた合言葉を言うと、アテネは緊張した様子を浮かべた。


「そうですか。はぁ」


 アテネはゆっくり息を吐き出すと、俺を見た。


「まぁ、頑張って下さいね」


 俺は、アテネの言葉に肩をすくめた。


「どうでしょうかね」


 アテネは、リーナ殿と良い関係を築くよう努力してほしい、と言いたいのだろう。でも精霊は、人のそういう打算的な事に敏感かもしれない。だから、リーナ殿が「見える者」だと、精霊は認めさせないような気がする。


「フォガス、気になる事があるんです」


 キーフェを見ると、神妙な表情で部屋を見回している。


「いると思いますか」


 それは、精霊の事だよな。


「わかりません」


「ですよね。彼女には……複数いませんか?」


 リーナ殿の視線を追っていると、違和感を覚えるんだよな。まるで、複数の精霊がいるかのように視線が動くから。


「えっ、本当ですか? 前例はないですよね?」


 アテネは目を見開き、キーフェと俺を交互に見る。


「ないです。でも、その可能性は高いと俺も感じています」


 俺の返事に、キーフェとアテネは黙り込む。


 精霊について書かれた文献や残っていた日記などを読んだ事がある。そのどれにも、複数の精霊が見えていると思わせる物はなかった。


 リーナ殿が特別なのか。それとも、今までも複数を見ている者がいたけど、その事を残さなかったのか。


「まぁ、複数だとしても俺のやる事は変わりません」


 彼らを守る事。最初は仕事でしたが、リーナ殿もアグス殿も可愛らしいんだよな。特にリーナ殿は、出会った頃は子供っぽい演技をしていたのに、今ではほとんど見られない。あれは、忘れているんだと思う。だって、ときどきハッとして、気まずそうな表情をしているから。


 そんな面白い彼女だから、心から守りたいと思う。アグス殿は、そんな妹を一生懸命助けようとしている姿は応援したくなる。つまり、二人とも本当に可愛いんだよ。

 

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