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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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番外編 王都の教会

―アルテト司教視点―


 コンコンコン。


「アルテト司教、失礼します。ミーアスです」


「どうぞ」


 私の返事に執務室の扉が開き、護衛騎士の一人、ミーアスが入って来る。チラッと彼女に目を向けるが、すぐに手元の書類へ視線を戻し、署名をした。


「忙しそうですね」


 ミーアスが、手に持っている書類を差し出しながら言う。それを受け取り、内容を確かめてから署名した。


「司教が二人、その役目を終えましたからね。そのしわ寄せですよ」


「奴らは話したのですか?」


 ミーアスの問いに思わず眉間にしわを寄せる。


「話していないのですね」


「えぇ、余計なことは話すのに、肝心なことは何一つ口にしません。そろそろ王家に引き渡す話も出てきています」


 ここは女神を信仰している拠点の教会。その場所で暴力や薬を使った尋問などできませんが、王家が管理する王城は違います。おそらくあちらに移されれば、奴らも口を割るでしょう。


「そうですか。アルテト司教、宝玉はどうですか?」


 私がミーアスの問いに首を横に振ると、彼女は肩を落とした。


 一年ほど前、女神さまの部屋で大切に保管されていた宝玉が、何者かによって割られてしまった。調査の結果、二人の司教が侵入者を招き入れた事が発覚。すぐに逃げようとしていた二人を捕らえましたが、いまだに奴らからは何の情報も得られていません。


 宝玉。それは、女神さまの声を届ける、とても大切な教会の宝です。その宝玉が割られたことで、私たち司教の込めた聖なる力や、前聖女さまが込めた神聖力の大半が失われてしまいました。


 そのせいで、女神さまからの神託が正しく届かなくなり、誕生したはずの聖女さまの行方がわからなくなってしまいました。密かに第一王子とその側近が捜索していますが、「見つかった」という朗報はまだ届いていません。


 宝玉が割れた事は、いつか公表しなければならないでしょう。それは、隠し通せる事ではありませんから。

 

 ただし、聖女さまの行方がわからないことだけは、決して公表できません。もし下手に公表すれば、宝玉を割った連中が聖女さまに危害を加えるかもしれませんから。聖女さまになりすます者も現れるかもしれませんしね。


「アルテト司教、仲間のフォガスを最近見かけないんですけど、どこにいるか知りませんか?」


「フォガスにはある仕事をお願いしたので、王都にはいません」


 私の返事に、ミーアスはわずかに動揺した。


「フォガスに用事がありましたか? 伝えておきますよ」


 彼女の動揺には気づかぬふりをして、優しく微笑んだ。


 フォガスは私が信用している護衛騎士の一人です。その彼の動きが気になるようですね。どうしてでしょうかね?


「いえ、大丈夫です。最近、見かけないので心配になっただけですから」


「そうでしたか」


 ミーアスに微笑んで頷くと、彼女はホッとした表情を見せた。

 

 コンコンコン。


「フォンです。失礼します」


 返事をする前に執務室の扉が開き、フォンが部屋に入って来る。


「ミーアスか? 報告か?」


「いえ、書類の提出です。終わりましたので、私はこれで失礼いたします」


 ミーアスは、私に向かって深く頭を下げると、フォンには軽く頭を下げて部屋を出て行った。ミーアスの後ろ姿を見送っていたフォンが、私に視線を向けた。


「もしかして邪魔をしてしまいましたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。ですが、彼女の身辺と交友関係を調べてください」


 私の返事を聞いたフォンは、わずかに目を見開いたが、すぐにうなずいた。


「わかりました。すぐに手配します。こちらをどうぞ」


 フォンが私に向かって一枚の紙と封がされた手紙を差し出した。


 「ありがとう」


 両方を受け取り、まずは紙に書かれた内容に目を通した。


「やはり殺されましたか。実行したのは誰でしょうか?」


 受け取った紙には、牢に収容されていた元司教の一人が死亡したことを知らせる内容が書かれていた。


 捕らえたのは二人だったので、一人を囮にしたのですが、見事に引っ掛かりましたね。


「下働きの女性で、今は泳がせています」


「そのまま泳がせて、誰と接触するのか調べて下さい。もう一人は、王城へ移送する手配をお願いします」


「わかりました。どのルートを使いますか?」


 フォンの質問に少し考える。


「来るでしょうね?」


 生き残った司教を殺すために。


「間違いなく」


 フォンも確信しているのでしょう、私の言葉に力強くうなずいた。


「二つの馬車を用意して、一つは最短ルート。もう一つは大通りのルートを。そして二つとも囮に使いましょう。表の護衛は通常通り、密かに護衛する者たちを選んで守らせて下さい。襲ってきた者たちがいたら、なるべく生きたまま捕まえて欲しいですが、ムリはしないようにと伝えて下さい。司教は地下通路を使い、王城まで移送させます」


「わかりました」


 受け取った手紙の封蝋を見る。そこには、フォガスに渡しておいた封蝋印が使われていた。


「フォガスからですね」


 手紙を出し内容を確かめる。


「ランカ村の教会は無事に修復できたようです。あとは、確認するだけだとあります」


「そうですか。かなり無茶苦茶になっていたのでもっと時間が掛かると思いましたが、早かったですね」


「腕のいい大工がいてくれたお陰ですね」


「あの、もう一つの方は?」


 フォンが微かに心配そうな表情を浮かべる。


「『お二人とも問題なし。また、これ以上の報告はなし』と書いてあります」


 私の言葉を聞いたフォンは、息を呑んだ。


「こんな時に『見える』者が見つかるなんて。女神さまの慈悲なのでしょうか?」


 フォンの言葉に、私は小さく頷く。


「そうなのかもしれませんね」


 宝玉が割れてしまった時に、女神さまと親しい精霊が見える者が現れるなんて。


「ですが、『報告はなし』という事は……」


 精霊は「見える」者以外を受け入れなかった、ということですね。


 残っている文献や、「見える」者が残した手記を読むと、精霊は人間をあまり好まないことがうかがえます。特に、教会関係者を強く嫌う精霊たちもいるようです。

 

 教会に残っていた日誌や司教たちが残した手記や走り書きからは、精霊を害した記録などはありません。だからといって、精霊を害したことがないとは言い切れませんよね。記録しなかっただけなのかもしれませんし、書かれた物を処分した可能性だってありますから。


「どうしますか?」


「静観するしかないでしょうね」


 精霊が拒否している以上、我々が近づく事はできません。


「フォガスが、彼女といい関係を築けているといいのですがね」


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