66話 魔力が増えている?
冒険者ギルドの中にあるソファに腰掛けて、ランサ森へ行く日を決める。
「そういえばリーナ殿、ご両親にいつ頃ランサ森へ行くと話してあるんですか?」
「あっ」
フォガスさんは私の反応を見て、驚いたような表情を浮かべた。
「もしかして、話していないのですか?」
「はい。薬草採取の依頼を受けようと思ったのは、学校へ行く時だったので」
やってしまった。私はまだ親の許可が必要な年齢なのに。
「冒険者の仕事だから許可はいりませんが、ランサ森へいつ行くかは伝えておいた方がいいですよ。ご両親も安心なさるでしょうから」
えっ……? 許可はいらないの?
「今日、帰ったら両親に話します。フォガスさんたちが一緒だと言えば、きっと安心してくれます」
お兄ちゃんが説明すると、フォガスさんはホッとした様子で頷いた。
子どもが遠くへ行く場合でも、冒険者の仕事なら親の許可は取らなくていいんだ。そういえば、依頼を受けたときも親の許可についてはまったく話題にならなかったな。
「どうしたの?」
「あ、なんでもない」
前の世界との違いにビックリしていたなんて、とても言えないよね。
「明日、教会の修繕がすべて終わります。俺たちは、数日かけて教会に問題が残っていないか最終確認を行います。ですので、ランサ森へ行くのは来週になりますが大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。リーナもいい?」
「うん」
来週の週末かな? でも、週末だけで行って帰ってこられるんだろうか?
「学校には、冒険者の仕事のため休むと伝えておきますが、どれくらい休むと伝えておけばいいでしょうか」
お兄ちゃんの話に、またビックリする。
すごいな。学校より仕事が優先されるのか。この世界の常識を、もう一度しっかり確認しておいた方がいいかもしれない。
「そうですね、ランサ森へ行くのに二日。ランサ森で薬草採取をするのに二日。帰って来るのに二日。合計六日ぐらいは最低必要ですね。何かあった場合は、伸びる可能性があるので余裕を持って休みを伝えておいた方がいいでしょう」
ランサ森へ行くのに二日もかかるの? オルガトの話から、もっと近いと勘違いしてた。
『あれ? 二日? ランサ森までそんなに遠くなかったぞ』
オルガトがフォガスさんの言った日数に首を傾げた。
『それって、俺たちだけじゃないか? 俺たちはふわっと飛ぶからな』
えっ? ふわっと飛ぶ?
ユウの言葉を聞き、私が座っているソファのそばでふわふわ浮いているオルガトを見た。
あぁ、この浮いた状態で移動すると、速いってことなのかな。
『んっ?』
オルガトが不思議そうな表情でユウを見る。
『この状態、思ったより移動が速いぞ』
『そうだっけ?』
『うん。行きたい方向を思い浮かべると、一気にそっちへ飛んでいることってないか?』
『あっ、思い出した。そうだな、確かに速いかもしれない。だって、森にいたのに、村の事を思い出して行こうとしたら、あっという間に家が建っている場所に来たから』
あっという間に? それはすごい。
「リーナ殿は、ランサ森へ行ったら、何かしたい事はありますか?」
『洞窟を見つけて、中にある魔石を手に入れる』
「えっと……」
どう言えばいいんだろう? いきなり「洞窟を探します」なんて言ったら、おかしいと思われないかな?
「行きたいところでもあるの?」
お兄ちゃんが優しく聞いてくれるから、私は少し迷いながら頷いた。
「洞窟へ」
「洞窟? ランサ森にある洞窟?」
お兄ちゃんが不思議そうな表情を浮かべて聞く。
「うん。その洞窟に用事があって」
『用事じゃなくて、魔石を取りに行くんだって! 魔石だよ!』
そんなこと、わかってる。でも、魔石について聞かれたら面倒だから言わない。
「わかりました。では、ランサ森に行ったら洞窟へ行きましょう。洞窟の場所はわかっているんでしょうか?」
フォガスさんの質問に、チラッとオルガトを見る。
『わかっているつもりだけど……』
オルガトが不安そうに言ったので、私はフォガスさんに目をやり、首を横に振った。
「だいたいの場所は調べておきましたが、ランサ森の地形が変わっているらしく、よくわからないそうです」
あれ? 今の言い方はまずかったかな?
心配になってフォガスさんとお兄ちゃんを見ると、二人はオルガトがいる方を見ていた。
「えっ」
驚いて小さく声を上げると、ユウが二人に向かって手を振るのがわかった。
「リーナの視線を追っただけだな。オルガトが、見ているわけではないみたいだ」
私の視線を追って? あっ、お兄ちゃんとフォガスさんは、私が精霊を見ていると思っているんだよね。今もきっと、私の視線の先に精霊がいると思っているんだろうな。
ごめん、二人とも。二人の視線の先には、はた迷惑なユーレイしかいないよ。
「そうですか。では、ランサ森へ行ったら、森の中を冒険ですね」
「楽しそうだね、リーナ」
フォガスさんが微笑みながら言うと、お兄ちゃんが私を見て笑った。
「それなら、ランサ森へ行く日程を延ばして……十二日ほど余裕を見ておきましょうか」
最初の日程の倍だ。つまり、洞窟探しに六日かかるってこと? もしかして、ランサ森は私が思っていたより大きいのかな?
「十二日か。リーナ、いろいろと用意しないといけないね」
「うん。そうだね。予定を伸ばしてもらっても大丈夫だった? 魔法の練習とか」
「大丈夫だよ」
まさか十二日もかかるなんて思っていなかったから、お兄ちゃんに申し訳ないな。
「アグス殿は、魔法の練習をしているのですか?」
「はい」
「リーナ殿も一緒にですか?」
「いいえ、私は魔法が使えないみたいなので、練習はしていません。」
「使えない?」
私の話を聞いたフォガスさんが、不思議そうな表情を浮かべる。
「はい。えっと、魔力の流れが途中で切れているから使えないだろうと言われました」
「そうですか」
私の説明を聞いたフォガスさんは、少し戸惑った表情を見せた。
「何か問題があるんでしょうか?」
フォガスさんの態度が少し気になって、私は彼に尋ねた。
「リーナ殿の魔力ですが、年齢に比べて多いと思うんです」
「「えっ?」」
フォガスさんの言葉に、私とお兄ちゃんは驚いた声を上げる。
「リーナの魔力量は多いんですか? それをフォガスさんはわかるんですか?」
お兄ちゃんが、私とフォガスさんを交互に見る。
「リーナ殿の魔力量を正確に把握しているわけではありません。ですが、リーナ殿のそばに寄ると、魔力による圧を感じます。この圧は、魔力量が多いほど強くなります」
「圧? 俺は、何も感じないけど……」
フォガスさんの説明を聞いたお兄ちゃんが私を見る。
「リーナ殿はまだ五歳ですから、魔力察知を鍛えた者でないと、その圧は感じられないと思います。俺、つまり護衛騎士は魔力察知を鍛えているので、今のリーナ殿が普通の五歳より魔力が多いことに気づくことができたんです」
「リーナの魔力量はどうなるんですか? これからも増えるんですか?」
お兄ちゃんの手が、私の手を掴む。
「魔力量は年齢が上がるにしたがって増えます。魔力を溜める場所が大きくなるからだと言われています」
「リーナは魔法が使えません。それなのに魔力量が増えても大丈夫なんですか?」
「それなんですが……」
えぇ~、まさか何かあるの? ユーレイ以外の問題は、ごめんなんだけど。
少し考え込んだフォガスさんは、真剣な表情で私とお兄ちゃんを見た。
「最初に会ったときは、リーナ殿の魔力量が多いとは気づきませんでした。でも、俺がランカ村に残ったころから、リーナ殿の魔力が多いことに気づいたんです。この短期間で、リーナ殿の魔力がおそらく倍に増えていると思います。このままのペースで魔力量が増え続けると、いずれ問題が起こるかもしれません」
使えもしない魔力が倍になったの? なんだか、宝の持ち腐れみたいだね。




