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私を殺したユーレイは今日もやかましい  作者: ほのぼのる500
ユーレイと魔法と黒い紐
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62話 冒険者になった

 冒険者ギルドに登録すると受け取れる、長方形の小さなプレートを見つめる。緑色で、縦三センチ、横一センチの名前だけが刻まれたプレートだ。でも、このプレートは身分証明にもなり、冒険者ギルドに預けたお金の引き出しにも使えるらしい。


「二人とも、口座にある金額を確かめておいで」


 お父さんが指した方を見ると、周囲から見えないよう衝立で仕切られた場所があった。


「「わかった」」


 お兄ちゃんと一緒に衝立の中を覗くと、机とその上に白い板が置かれていた。そして正面に、黒い板があった。


「さっきの人の説明だと、白い板に緑のプレートを置けばいいんだよな?」


「うん」


 冒険者ギルドの職員から聞いたプレートの使い方を思い出しながら、お兄ちゃんは白い板の上に緑のプレートを置いた。


「出たよ」


 お兄ちゃんの言葉を聞いて、黒い板に目を向けると、「入金日」「入金金額」「合計金額」が表示されていた。


「リーナも」


「うん」


 お兄ちゃんが白い板から緑のプレートを取ると、黒い板の文字が消える。それを確認してから、自分の緑色のプレートを白い板の上に置いた。


「一緒だな」


「そうだね」


 お兄ちゃんが合計金額を指しながら、私の方を見た。


「俺たち、お金持ちだ」


「うん、すごいね」


 お兄ちゃんが私を見て微笑んだので、つられて私も笑った。


 お兄ちゃんと私の口座に振り込まれたお金は、賠償金など事件に関するお金だ。お父さんが「もしもの時に役立つから」と言って、お兄ちゃんと私、そしてスーナの三人でわけてくれた。


「そういえばお父さん、三等分したと言っていたよな?」


 お兄ちゃんが首を傾げて私を見る。急な話だったけれど、金額を確認した直後だったから、お金の事だとすぐ気づいた。


「うん。それがどうしたの?」


「新しく生まれる家族の分はないのかな?」


「あっ、そうだね」


 衝立のそばでお兄ちゃんと話していると、お父さんが心配そうな顔をして近づいてきた。


「何か問題でもあったのか? 入金されていなかったか?」


「それは大丈夫だったよ。俺もリーナにも、しっかり入金されていたから」


「そうか」


 お兄ちゃんの説明に、お父さんはホッとした表情を浮かべた。


「お父さん。三等分してくれたけど、新しい家族の分はいいの?」


「んっ? ……あっ!」


 お兄ちゃんの質問に首を傾げたお父さんは、しばらくすると小さな声を出した。


「忘れてたの?」


「妊娠がわかる前に、カーナと話し合って決めた事だから、すっかり忘れてた」


 お兄ちゃんが緑のプレートを持って、お父さんを見る。


「一度、お父さんの口座に戻そうか?」


 お兄ちゃんの提案に、お父さんは首を横に振った。


「いや、それはしなくていい。今回の事で、家賃収入が増える。その増えた分を新しい子のために貯めるよ」


『すごいな、リーナの両親。全部でどれだけ貰ったのかわからないけど、ほとんどを三等分したんじゃないか? 新たに増えた収入分も、生まれる子のために貯めるみたいだし』


 ユウが感心した様子で呟くと、オルガトが頷いた。


『それは俺も思った。俺にもこんな両親がいればなぁ』


 オルガトはなぜか、大きなため息を吐いた。


『どんな両親だったんだ?』


『俺の家、伯爵家だったんだけど。俺の両親は、親兄弟はみんな敵みたいな考えで。……酷い親だったよ』


 オルガトは何を思い出したのか、表情を歪めた。


『もう昔の事だろ? 既に全員が死んでいるだろうから気にするな』


 それは、そうだろう。もし今、オルガトの家族と会うとしたら、それは相手がユーレイの場合だ。これ以上、ユーレイはごめんだ。


 それにしても、ユウの慰め方は下手すぎないか?

 いや、私もきっと下手なんだけど。


『そうだな。奴らは既に死んでいるんだな』


 オルガトはユウを見て、少し笑った。


 あの慰め方で良かったの? それにビックリなんだけど。


「帰ろうか」


 お父さんが、お兄ちゃんと私を見る。


「ちょっと待って。その前に、どんな仕事があるのか確かめていい?」


 お父さんの方を見ると、掲示板を指差していた。


「いいぞ。掲示板は、冒険者ギルドの出入り口そばにあるから、見てから帰ろう」


「うん」


 お兄ちゃんと一緒に、掲示板にピンで留めている紙を一枚ずつ確かめていく。


『うわ~、本当に家事の手伝いばかりだ。「自分の代わりに買い物に行ってほしい」とか「庭の草むしり」、「花壇づくりのお手伝い」なんてのもあるな』


「これなら、安心して依頼を受けられるね」


 お兄ちゃんが安心した表情で私を見る。


「うん」


「リーナ」


 お兄ちゃんを見ると、ある一枚の紙を指しながら私を見ていた。


「あの依頼を一緒に受けない? 募集人数が二人だから」


 お兄ちゃんが指した紙を見ると「空き家の大掃除」と書いてある。


「場所は何処だろう?」


「これか?」


 お兄ちゃんと私が見ている事に気づいたお父さんが、紙をピンから外す。


「学校の近くにある緑の屋根の大きな家だな。期間は一ヶ月以内。家の中の掃除と、庭の草むしりみたいだ」


 お父さんが確認した紙を、お兄ちゃんに渡す。


「緑の屋根? ……あっ、草が生い茂って家がほとんど見えないところだ」


 お兄ちゃんの言葉で、門は立派だけど草が生い茂っていて、屋根しか見えない家を思い出した。


「あぁ、あの家かぁ。ん~……お兄ちゃん。一ヶ月で、あの家の草をどうにかできるかな?」


 家の中の大掃除もあるんだよね?


 私の疑問に、お兄ちゃんも考え込んでしまう。


「学校もあるし、お兄ちゃんは魔法の練習もある。休みの日に頑張ったとしても、ちょっとムリじゃない?」


「そうだね。あの草は、ちょっとムリそうだね」


「そうだな。あれはちょっと、一ヶ月ではムリだろうな。二人とも、いい判断だ。仕事は、自分ができる範囲をよく考えて引き受ける事。ペナルティがあるから、気をつけるんだぞ」


 お兄ちゃんと私の会話を聞いていたお父さんが、嬉しそうに笑う。そして、私たちの頭を撫でると、お兄ちゃんから依頼が書かれた紙を受け取ってピンで掲示板に留めた。


『こっちにも家の大掃除で、募集人数が二人というのがあるぞ』


 オルガトが掲示板の上にある紙を指す。


『本当だ。三週間後に引っ越してくる予定なので、期間は三週間以内。傷を見つけた場合は、その都度冒険者ギルドに報告だって。場所は……俺がわかるわけないよな』


 そうだね。ユウが、場所を知っていたらビックリだよ。


「どうしたの?」


 お兄ちゃんが私の視線の先を見る。


「この依頼が気になるのか?」


 お兄ちゃんと私が見ている依頼の紙を、お父さんがピンから外す。


「この場所は、ショーじいの家の近くじゃないか?」


 お父さんから紙を受け取ったお兄ちゃんが、場所を確かめる。


「本当だ。これ、ショーじいの家の二件隣りだ」


 ショーじいの家の二件隣り?


「もしかして、青い壁の家?」


 周りの家は白い壁なのに、あの家だけ壁が青いからすごく目立つんだよね。


「うん。あの家だと思う。あの家はそれほど大きな家じゃないから、三週間以内で終われそうだよね」


 お兄ちゃんが私を見る。


「うん、私もそう思う。でも、傷の報告ってなんだろうね?」


 私の質問に、お兄ちゃんが依頼表を見る。

 

「それについては何も書いてないな。職員さんに話を聞いてみようか」


「そうだね。お父さん、まだ時間大丈夫?」


 私の質問に微笑んで頷くお父さん。なんだかとても嬉しそうな顔をしているけど、どうしたんだろう?


「リーナ。今カウンターに誰もいないから、聞いてみよう」


「うん」


 お兄ちゃんと一緒に、冒険者ギルドのカウンターに行き、職員の人に質問する。


「この家の近くに、魔法を教えている方の家がございます。その方の家の庭で魔法を練習しているのですが、稀に魔法が家に向かってしまう事があります。その場合、家の壁に傷がついてしまうので、それを見つけた際はご報告ください」


 職員さんの説明を聞きながらお兄ちゃんと顔を見合わせる。


 まさか、魔法によってできた傷だとは思わなかった。


「説明をありがとうございます。リーナ、どうする?」


「私はこの依頼を受けても問題ないと思う。お父さんはどう思う?」


 初めてだから、お兄ちゃんと私だけではちょっと不安になり、お父さんを見る。


「お父さんは、いいと思うぞ」


 お父さんの返事を聞いて、お兄ちゃんと頷き合うと、依頼の紙を職員さんに渡した。


「「この依頼をお願いします」」


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